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最強のギルド職員は平和に暮らしたい  作者: 月輪林檎
最終章 最強のギルド職員は平和に暮らしたい

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悲劇の後

最終章の始まりです。ここからは、基本的に三人称視点となります。

アイリスが幸せを掴めるのか。最後まで見守って頂けると幸いです。

投稿は不定期です。

 披露宴の最中、唐突にアイリスが倒れた。リリアとキティは、すぐに駆け寄ってアイリスに呼び掛ける。


「アイリスちゃん!!」

「アイリス!」


 二人の声に、アイリスは全く反応しない。意識を完全に失っているのだ。周囲もこの異常に気が付き、響めいていた。そこに少し遅れてガルシアが駆け寄ってくる。


「どうした!?」

「分かりません! 突然、アイリスちゃんが倒れたんです!!」

「何の前触れもなかった。これって、もしかして……」


 キティの顔が曇る。それを見て、ガルシアにも思い当たる点が浮かび上がった。


「呪いか……ここ最近、発作も起こっていないようだったが……」

「ん。全然起こらなかった。寝ている時も魘されていなかった」


 キティ達は、アイリスの異変を呪いのせいだと見抜いていた。それ以外に考えられないという事もある。


「ちょっと失礼! 通して!」


 アイリスが倒れた事で集まってきた人垣の中から、女性の声が聞こえてくる。そして、その中から飛び出してきたのは、アイリスのかかりつけ医であるアンジュだった。

 仕事を休めず、結婚式に参列出来なかったが、披露宴だけでもと何とか早退して駆けつけてきたのだ。


「アイリスちゃん!?」


 会場に入ったアンジュは、倒れているアイリスを見て目を見開く。そして、すぐに傍に駆け寄る。


「どうしたの!?」

「急に倒れたんです! 何の前触れもなく!」


 アンジュの質問に、リリアが涙混じりに答えた。


「呪い……彼女を病院へ! この状態なら、揺らしても問題はありません!」


 アンジュがガルシアにそう伝えると、ガルシアは、すぐにサリーに目配せした。ちょうど近くにいたという事もあるが、サリーが女性で尚且つパーティーで回復役を務めているという事が大きい。それに、アイリス程度であれば、背負って走る事も出来る。

 サリーは頷いて、アイリスを背負い、アンジュと一緒に病院の方へと向かった。


「リリアとキティは、着替えてから病院に行け。サリアは、サリー達と一緒に病院に向かえ。途中で、何が起こるか分からん。カルメア、アイリスの服を持っていって、向こうで着替えさせてやってくれ。他の面々は、ギルドの後片付けだ。掛かれ!」


 ガルシアの指示で、リリア、キティ、サリア、カルメア、冒険者達が動き出す。その中で、ガルシアは、リリアの両親の元に向かった。


「この度は、ご息女の結婚式にお騒がせしてしまい申し訳ありません」


 アイリスが倒れた事で、リリアの両親に心配を掛けてしまったと考えたからだ。アイリスには、両親がいないため、代わりにガルシアが謝罪したのだ。


「いや、それはいいのですが、彼女は大丈夫なのでしょうか?」


 リリアの父親であるラインネスは、やはり突然倒れたアイリスを心配していた。それは、母親であるマリッサも同じだった。


「ええ。何度か起こっている事ではありますので、今回もそこまで心配はないでしょう。はるばるカラサリから来て頂いて申し訳ないのですが、本日は、これでお開きとなります。お宿がお決まりでないのであれば、すぐにご用意しますが」

「いえ、既に取っているので大丈夫です。それよりも、結婚した直後なのに、こんなことになって、こちらこそ何と言って良いか……」


 マリッサは、顔を少し青くしていた。目の前で人が倒れたのだから仕方ないだろう。そんなマリッサに、ガルシアは安心させるように微笑んだ。


「それこそ大丈夫でしょう。彼女たちは、似たような試練を何度も乗り越えてきました。きっと今回も乗り越えるはずです」


 ガルシアの言葉に、ラインネスとマリッサは、少しだけ安堵する。だが、ガルシアの心の内側では、若干戸惑いと焦りがあった。今回ばかりは、本当にどうなるのか分からないからだ。


(恐らく、今までで一番呪いが強く出ている。リリアとキティの愛の力でも、対抗出来るかどうか……)


 ガルシアは、表情には一切出さずにそんな事を考えていた。


「それなら、少し安心しました。では、私達も邪魔になると思いますので、ここら辺で失礼します」

「はい。お気を付けて、お帰り下さい」


 ガルシアは、深々と頭を下げて、ラインネスとマリッサを見送った。そんなガルシアの元にライネルが近寄る。


「アイリスが倒れたのは、悪夢が関係しているのか?」


 ライネルが近づいて来た理由は、アイリスが何故倒れたのかを聞くためだった。原因を聞かなければ、自分達に出来る事があるかどうかも分からないのだ。


「ああ、そうだな……ここの片付けが終わったら、全員に話す」


 ガルシアはそう言って、ライネルから離れていった。今まで黙ってきたのは、呪いの事を話せば、魔王教についても話さないといけないからだ。学校で習わなくなった以上、あまり人の耳に入れるのは良くないと判断していた。

 だが、こんな状況になった以上、話さないわけにはいかない。いや、話さなければ、誰も納得しないからと言った方が正しいだろう。目の前でアイリスが倒れたのだから、それも仕方ない。

 それから三十分程で、ギルド内の片付けが終わった。集まった冒険者達が総出でやったので、当然の早さだ。ガルシアは、全冒険者とギルド職員の前に立った。


「今日は、アイリス達の結婚式会場の設営と片付けご苦労だった。今日のようなめでたい日に、あんな事が起こり、皆も戸惑っている事だろう。今から話す事は、ここにいるほとんどが聞いた事のない事だろう。だが、これは嘘ではない。心して聞いてくれ」


 ガルシアがそう言うと、全員、何のために集められたのか理解した。そして、全員が話をしっかりと聞く姿勢になった。何故アイリスが倒れたのか。その理由が気になるからだ。


「アイリスが倒れた理由は、恐らくその身に掛かった呪いのせいだ」


 ガルシアが、はっきりと言葉にした瞬間、冒険者もギルド職員も全員がざわついた。その言葉があって、色々と腑に落ちる事があったのだ。突然現れたアイリスの隈。そして、体調不良。それまでは、初めての調査やキティの怪我などが原因だと考えられていたが、それだけでは少し納得しがたい部分があったのだ。

 だが、アイリスが元気に振る舞う姿を見ては、それを聞くことも憚れていた。その真実が、今、明らかになった。


「その呪いを掛けた者だが、俺は、魔王教の仕業と考えている」

「?」

「?」


 ガルシアの言葉に、九割が首を傾げていた。冒険者の若齢化が進んでいる結果、魔王教に関して知っている人の方が少なくなっていたのだ。このことを予期していたため、最初に嘘ではないと釘を刺していたのだ。


「魔王教というのは、魔王を崇拝する信者共の事だ。同じ人でありながら、魔族の王を崇拝しているという時点で、色々と察するだろう。では、何故、アイリスが、魔王教に狙われたのかだ。それは、アイリスの強さと親が原因だ」

「親……?」


 職員の一人が首を傾げてそう言った。そして、それはその場にいた全員の胸中を代弁した言葉だった。


「そうだ。アイリスの両親は、冒険者だった。それも白金級のな」

「!?」


 熟練冒険者達が驚いて固まった。アイリスの年齢と白金級という人数の少ない冒険者から、それが誰だったのかを察したからだ。若い冒険者達は、あまりピンときておらず、その級の高さに驚いていた。


「まさか、『血華の剣姫』か……」

「そういえば、ギルマスと同じパーティーだったな。じゃあ、父親も……」

「あの人、異名とかなかったな……」

「ともかく、そんな人達の血を継いでいたのか。道理で強いわけだ。でも、確か、あの人達はスルーニアを守るために……」


 世間に知られているアイリスの両親の最期は、魔物との戦いで命を落としたということだった。


「知っている者もいるとおり、アイリスの両親は、既に亡くなっている。魔物との戦いの果てに……だが、それは、アイリスに配慮した嘘だ。実際は、戦闘が終了した直後に、毒を体内に注入され、殺されたんだ。その下手人は、魔王教の信者だった」


 話を聞いている全員の顔が、怒りに歪む。アイリスの人となりを知っているからこそ、その親を奪った相手が許せないのだ。


「奴等は、勇者に近い力を持つ者を抹殺している。アイリスもその域に至ると判断して、呪いで殺すつもりだったのだろう。毒殺よりも、呪いの方が間接的に殺せる可能性があるからな。自分達の痕跡を残さないにしたんだろうが、こんなことをするのは奴らしかいないからな。逆に分かりやすい。そして、このことから、魔王の復活が近いとも予想されるが、こればかりは、確信は出来ない。以上が、皆に伝えておくべき事だ。これは、アイリスには秘密にしておいてくれ。これ以上、あいつの心に罅を入れたくはないんだ」


 ガルシアはそう言って、頭を下げる。冒険者とギルド職員達は、ざわざわと話し始める。本当にアイリスに黙っておくべきなのか。伝えた方が良いのではないかなどなどだ。

 そうして、全員が出した答えは……


「ギルマスの指示に従うぜ!」

「アイリスちゃんを悲しませたりしたくないしね」

「そんな事よりも魔王教とかいう馬鹿共を見つけた方が良いんじゃないか」

「さすがに、もういないだろ。アイリスちゃんが体調を崩してから何ヶ月も経っているんだぜ?」

「もしかしたら、アイリスちゃんが生きている事に気が付いて、呪いを強めたのかもしれないよ? だったら、この近くにいてもおかしくないんじゃ……」


 全員、ガルシアの願い通りに、アイリスに話さない事を誓った。その上で、アイリスのために出来る事を考え始めた。


「皆、恩に着る」


 ガルシアは改めて頭を下げる。その直後、ギルドの入口が勢いよく開かれた。中にいた全員がばっと振り返って、入口を見る。すると、そこには、先日王都に戻ったはずのアルビオがいた。


「殿下。如何しましたか?」


 全員が跪く。その中、ガルシアは全員の前に出てから跪き、そう問うた。


「ああ。本当なら来る必要はないんだが、俺がいた方が、話が円滑に進むと思ってな」


 アルビオがそう言うと、アルビオの後ろから一人の男性と三人の女性が出て来た。男性は、十代後半で茶髪に黒い眼をした優男。女性は茶色の長髪と黒のローブ姿だ。


「……その者達は?」

「ああ。勇者とその一行だ」


 アルビオがそう言うと、ガルシアだけでなく、その場にいた全員が固まった。まさか、唐突に勇者が現れるとは思ってもみなかったからだ。

 先に我に返ったガルシアは、気になった事を質問する。


「勇者など、いつ召喚したのですか?」

「俺がこっちに来ている間に召喚したらしい。先月ぐらいだな。父上からの書簡も持っていた。本物だろう」


 アルビオは、苦虫を噛み潰したような表情になりながらそう言った。自分の知らぬ場所で、このような重要な事を決められたのが、不服なのだ。


「これが書簡だ。ガルシアも読んでおけ」


 アルビオは、持っていた書簡をガルシアに渡す。ガルシアは、すぐにその中身を読んでいった。そこには、勇者を召喚したという旨とその修行のためにスルーニアに送ると書かれていた。スルーニアの近くには、多くのダンジョンが存在するため、修行には持って来いだという話らしい。


「ここで修行を……?」

「ああ。俺にも、それを補助するようにと書かれているだろ。だから、戻ってきたんだ」

「あ、あの! よろしくお願いします!」

『よろしくお願いします!』


 勇者が一歩前に出て頭を下げる。それに続いて、三人の女性も頭を下げた。


「あ、ああ……力になれるかは分からないが、励んでくれ。殿下、少々込み入った話が」

「なら、お前の部屋でするとしよう。俺からも話があるからな」

「分かりました。では、少々お待ちください」


 アルビオにそう言うと、ガルシアはライネルに近づく。


「病院周りに気を配っておいてくれ。キティも警戒はしているだろうが、動揺は抜けきらないはずだ。こっちで守れる分は守ってやりたい。頼めるか?」

「任せろ。アイリスには、世話になってばかりだからな。このくらいお安いご用だ」

「助かる」


 ライネルと別れたガルシアは、アルビオの元に戻ってくる。そして、近くにいる男性職員を一人呼び寄せた。


「勇者達の案内を頼む。ギルドの使い方だけは教えておいてくれ」

「かしこまりました」

「では、殿下、参りましょう」


 職員に勇者達を任せて、ギルドマスターの部屋へと向かった。やって来てすぐにほっぽらかしになった勇者達は、ぽかんとしていた。


────────────────────────


ギルドマスターの部屋に着いたガルシアとアルビオは、すぐに椅子に座って話し合いの姿勢になった。


「まずは、私の方からお話しさせて頂きます。まず、こちらは喜ばしい話ですが、アイリスが、リリア、キティと結婚しました」

「何!? それは、本当にめでたいな。後で、祝いに行こう」

「その話なんですが、実は、現状祝うことは出来ません」


 ガルシアがそう言うと、アルビオは何かを察したようだ。


「アイリスは、今、どこにいる?」

「病院です。結婚式の最中、突然倒れて担ぎ込まれました。つい先程の事です」

「…………」


 アルビオは、やるせない顔になる。こと呪いに関しては、自分達ではどうしようもないからだ。


「アイリスのその件に関してだが、恐らく、勇者召喚による魔王復活が関係していそうだ」

「復活したんですか!?」


 アルビオの口から出た魔王復活の言葉に、ガルシアは腰を上げる。それをアルビオは手で制した。


「いや、まだ確認は取れていない。だが、勇者と魔王は、それだけ密接に関係している。こっちの勇者召喚に呼応してもおかしくはないだろう。そして、それを裏付けるかのように、怪しい人間を捕まえた。こっちに来る途中で、何度もスルーニアを振り返っては、下卑た笑いをしていたらしい」

「怪しい人間……もしや、魔王教ですか?」


 この話の流れで、怪しい人間と言われたら、まず初めに思いつくのは魔王教の人間だ。そして、ガルシアの確認に、アルビオは頷くことで肯定する。


「軽く尋問しただけで答えた。だが、具体的に何をしたのかは一切答えなかった。ずっと、同じ言葉を言い続けているんだ。『やってやった』とな。それだけでは、何を言いたいのか分からなかったが、お前の話で判明した」

「……そいつが、アイリスに呪いを掛けた張本人やもしれません。今一度尋問をお願いします」

「ああ。俺もそう考えていたところだ。俺達は、領主の屋敷に滞在する。何かあれば、使いを寄越してくれ」

「分かりました。しかし、まさか、勇者を召喚するとは思いませんでした」


 ガルシアは、背もたれに体重を預けつつそう言った。様々な事が、一気に起こりすぎて、頭がパンク寸前なのだ。


「厄介事を持ち込んで悪いな。更に厄介事で申し訳ないんだが、勇者達の実力把握を手伝ってくれ。そこからどのダンジョンが適正か確認する必要がある」

「勇者というくらいですから、白金級程度の力はあるのでは?」


 ガルシアは、金剛級が勇者と同程度の力を持つ者と言われているので、弱くても白金級くらいは実力があるだろうと考えていた。


「どうだろうな。見た目では実力を測ることは出来ない。勇者だからと言って、必ずしも力があるとは限らないだろう。実力がないから、修行に出されたとも考えられるしな」

「なるほど。なら、私自らがやりましょう。このギルドの中で、勇者の実力を試せるのは、私だけだと思いますので」

「そうだな。俺も手伝おう」

「ありがとうございます。早速、この後やってしまいますか」

「早ければ早い程良いだろうな。そうしよう」


 ガルシア達は、ギルドマスターの部屋を出て、ギルドホールへと降りていく。

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