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最強のギルド職員は平和に暮らしたい  作者: 月輪林檎
第三章 大規模調査

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結婚式

 私達の結婚式当日。私は、朝から少し緊張していた。


「アイリスちゃん、まだ本番まで時間があるんだから、今から緊張していたら身体が保たないよ?」

「うぅ……それは分かっているんですけど、やっぱり緊張してしまいますよ。段取り自体は、頭に入っていても、ちょっと間違えたりするかもしれないじゃないですか」


 私が緊張してしまっている理由は、結婚式の段取りを間違えてしまわないかという事だ。もしかしたら、一世一代の大舞台になるかもしれない……いや、そうなる大事な儀式だ。良い思い出になるようにしたい。


「気負いすぎていたら、成功するものも失敗する。落ち着くのが一番」

「キティさんは、緊張しないんですか?」

「ん」


 キティさんは、胸を張っていた。でも、尻尾はだらんと下がっている。


「尻尾下がってますよ?」

「アイリスはうるさい」


 キティさんは頬を膨らませながら、尻尾で叩いてくる。ふわふわで柔らかいから、全く痛くないけど、こそばゆい。


「ほら、揉めてないで、早くギルドに行って準備をするよ」

「はい」

「ん」


 私達は家から出て、ギルドへと向かう。そこで、結婚式の準備を行うからだ。準備と言っても、私達がやる準備は着替えくらいだけど。

 他の準備は全て、冒険者の方々とギルドの職員がやってくれた。私もまだ見ていないけど、カルメアさんが言うには、ギルドが出来て以来、類を見ない程綺麗になっているらしい。

 私達は、ギルドの中を見ないようにしながら、花嫁用の更衣室となっているギルドの一室に入った。部屋の中には、カルメアさんの業者さんが待っていた。


「あら、アイリス、緊張しているの?」

「そんなに緊張しているように見えますか?」


 朝もリリアさんに言われたけど、人が見て分かるくらいには、緊張しているらしい。一応、自覚はしていたけど、それ以上の緊張みたいだ。


「カチカチのままじゃ、うまく出来ないわよ。まだ、時間はあるから、今の内に、気を落ち着かせなさい」

「はい……」


 カルメアさんにそう言われた私は、椅子に座って深呼吸する。すると、膝の上にキティさんが乗る。私を落ち着かせるためだと思う。

 私は、キティさんに甘えてさせてもらう事にした。キティさんを後ろから抱きしめてもふもふとして、癒やされていく。キティさんは、文句も言わずに付き合ってくれた。


「落ち着いてきたみたいね。それじゃあ、着替えと化粧を始めるわよ。三人とも席に着きなさい」


 カルメアさんに言われて、私達は席に着く。そして、それぞれに化粧担当の方が付いて、それぞれの衣装にあった化粧を施されていく。瞬く間に変わっていく自分の姿に、少し驚く。自分ではしないような化粧だから、当然かもしれないけど。そして、顔の化粧を終えると、今度は髪のセットに移行する。化粧と髪のセットが終わると、今度は着替えをする事になる。

 この前選んだ花嫁衣装は、業者さんの手で、私達に合うように仕立て直された。特にキティさんの衣装は、露出がなくなって、この前と印象ががらりと変わっている。


「お化粧と髪型だけで、別人に見えますね」

「そうだね。アイリスちゃんも大人っぽくなっているよ。キティもね」

「ん。でも、リリアが一番大人っぽい」


 キティさんの言うとおり、私達の中ではリリアさんが一番大人っぽい。性格も相まって、元々私達の中では一番大人っぽかったけどね。


「ほら、早く着替えるわよ。ドレスに着替えるのが、一番時間が掛かるのよ。皆を待たせたくないでしょ」

「は、はい」


 カルメアさんに言われて、急いで着替えの準備をする。カルメアさんもその手伝いをしてくれる。


 ────────────────────────


 一方、結婚式会場へと変わったギルドホールでは、冒険者達が式場の最終準備をしていた。


「おい! こっちは、これでいいのか!?」

「少し、右に傾いているから、直してくれ!」

「こっちに花がないぞ!」

「今、用意する!」


 いつもと違い、かしこまった服装をしているガルシアは、どんどんと変化していくホールを眺めていた。


「まさか、ここまで変わるとはな……」

「そっちの依頼だったはずだが」


 ガルシアの傍にライネルが歩いてくる。ライネルもいつもの鎧ではなく、急いで用意した正装を着ている。


「似合わないな」

「あんたに言われたくない。それで、テーブルの配置は、これで確定していいのか?」

「ああ。人数分の席は確保出来ているから問題無いだろう」

「その事なんだが、今、ダンジョンから戻ってきた奴等が、話を聞いていないと騒いでいてな」

「何!?」


 ガルシアが眉を寄せる。結婚式に野次が飛ぶことだけは防がなくてはいけないと考えているからだった。


「どうすれば、自分達も参加出来るかと聞いてきているんだ」

「何だ、そっちか……披露宴の参加は厳しいかもしれないが、式自体は見ても構わないだろう」

「即席で良いのなら、テーブルを増やす事も出来るが」

「だが、白のテーブルクロスは足りるか?」

「式まで時間はあるだろう。どうにかしてみよう」

「分かった。頼んだぞ」


 ガルシアとライネルは、真剣な顔で話し合い、ライネルが外へと走り出す。次に、マインがガルシアに近づいてくる。


「全体の飾り付けは終わったけど、少し派手にし過ぎたかな?」

「いや、こんなものだと思うぞ。元々のギルドが殺風景すぎただけだろう」


 ギルドの飾り付けを担当していたマインは、ガルシアに派手すぎないかと確認したが、ガルシアは、これでいいと答えた。ガルシアとしては、結婚式なのだから、このくらい派手な方が良いと思っていた。


「後、花の数が、少し多かったみたいなんだけど、どうすればいい?」

「これ以上、飾りを多くすると、くどいよな。ブーケに追加するか」

「ブーケに適切な量じゃなくなるけど」

「なら、却下だな……取りあえず、受付のところに置いておいてくれ。後日、ギルドの飾りにしよう」

「了解」


 このようにして、時間になるまでに、結婚式の準備を終える事が出来た。


 ────────────────────────


 花嫁衣装に着替え終わった私達は、更衣室で式が始まるのを待っていた。すると、更衣室に誰かが入ってくる。


「お母さん、お父さん」


 リリアさんが腰を上げて、入ってきた人達の方に行く。どうやら、リリアさんのご両親のようだ。私とキティさんも椅子から立ち上がった。


「リリア、綺麗ね」

「ありがとう」


 リリアさんのお母さんは、涙を流していた。愛娘の晴れ姿なのだから当然だ。リリアさんのお父さんは、リリアさんの姿を見て、小さく頬を綻ばせていた。


「あっ、紹介するね。私のお母さんとお父さん」

「リリアの母のマリッサです」

「同じく父のラインネスだ」

「初めまして、アイリス・ミリアーゼです」

「キティ・ガッタ」


 ここで初めての邂逅だった。朝よりも遙かに緊張する。


「二人も綺麗ね」

「ありがとうございます」

「ん」


 マリッサさんは、私達にも笑顔を向けてくれた。だけど、ラインネスさんは、少し厳しい顔をしている。


「結婚おめでとう」


 ラインネスさんは、そう言って小さく笑った。


「ありがとうございます。ご挨拶にも伺えず、申し訳ありませんでした」

「いや、準備に忙しかったのだろうと理解している。二人の両親は、来ているのか?」


 ラインネスさんがそう訊くと、リリアさんがあっという顔になった。きっと伝え忘れていたのだろう。


「いいえ。私達の両親はいないんです。私の両親は、随分前に亡くなりました。キティさんは、ここのギルドマスターに拾われ、この街に来たので、両親は来られません」


 私がそう説明すると、リリアさんのご両親は驚いて言葉が出なくなってしまう。説明の仕方を間違えたかもしれない。でも、他に方法はないので、仕方ない。


「す、すまない」

「いえ、全く気にしていませんので、そちらもお気になさらず」

「ん。気にしてない」


 私達がそう言うと、安心したような顔をした。


「アイリス、リリア、キティ、時間よ」


 そう言って、少し外に出ていたカルメアさんが戻ってきた。時間が来たと聞いて、マリッサさんが、リリアさんのヴェールに手を掛け、下に降ろす。


「それじゃあ、先に会場に行っているわ」

「うん」


 マリッサさん達が会場に向かう。同時に、カルメアさんが私とキティさんの元に来る。そして、私達のヴェールを降ろしていった。


「あなた達は両親がいないから、私が降ろすわね。それじゃ、行くわよ」


 私達は、カルメアさんの後を付いていく。私達は、裏の扉から外に出る。そして、ギルドの入口まで回っていった。


「それじゃあ、いってらっしゃい」


 カルメアさんが開けた扉から、中に入っていく。途端に、歓声が木霊した。何というか、冒険者の方々のここまでの歓声は聞いたことが無い気がする。

 私達は、三人で並んで、ウェディングロードを歩いていく。

 歓声に混じって、誰かが号泣している声が聞こえる。ちらっと見てみると、ガルシアさんとラインネスさんだった。そこで初めて気付いたけど、ガルシアさんが、お母さんとお父さんの写し絵を抱えていた。

 二人も見守ってくれているみたい。

 そうして、ミリーさんが待つ主祭壇に着いた。私達は、主祭壇の前で私を中心に、左にリリアさん、右にキティさんの順で並ぶ。

 ミリーさんが、私、リリアさん、キティさんを順に見ていってから、口を開く。


「それでは、これより、アイリス、リリア、キティの結婚式を執り行います」


 ミリーさんの言葉で、結婚式が始まる。ミリーさんは、まず私の事を見る。


「新婦アイリス。あなたは、リリア、キティを妻とし、生涯を尽くし、愛をもって、互いに支え合う事を誓いますか?」

「誓います」


 ミリーさんは、次にリリアさんを見る。


「新婦リリア。あなたは、アイリス、キティを妻とし、生涯を尽くし、愛をもって、互いに支え合う事を誓いますか?」

「誓います」


 次に、キティさんを見る。


「新婦キティ。あなたは、アイリス、リリアを妻とし、生涯を尽くし、愛をもって、互いに支え合う事を誓いますか?」

「誓います」


 キティさんが丁寧な言葉を使った事に、少し驚いてしまった。それは、リリアさんも同じだったらしい。二人で、キティさんの方を見てしまう。キティさんは、誇らしげに胸を張っていた。


「では、指輪交換を」


 私達は、用意された指輪を互いに一つずつ手に取る。その全てが、同じ装飾をされている。これは、事前準備の時に作って貰ったものだ。

 私は、キティさんに指輪を填める。キティさんは、リリアさんに指輪を填める。そして、リリアさんは私に指輪を填めた。


「それでは、誓いのキスを」


 ミリーさんがそう言う。私は、リリアさんのヴェールを挙げる。リリアさんも私のヴェールを挙げた。そして、互いに顔を近づけ口づけをする。私は、その後にキティさんの方に向き直り、キティさんのヴェールを挙げ、キティさんとも口づけをする。そして、キティさんと立ち位置を交換して、リリアさんとキティさんが口づけする。

 三人の口づけが終わった瞬間、会場に割れんばかりの拍手が鳴り響く。私達は、互いに顔を見合わせて、笑い合った。

 そこに、三つのブーケを持ったマインさんがやってくる。私達は一つずつブーケを貰う。


「せーの!」


 私達は、一斉にブーケを投げた。空高く舞ったブーケは、それぞれの軌道を描いて落ちていく。リリアさんが投げたものは、女性職員の一人に渡る。キティさんが投げた物は、カルメアさんに渡った。そして、私の投げたものは、なんとサリアが取った。

 女性職員とサリアは、凄く喜び、カルメアさんは、少し複雑そうな顔をしていた。


「それでは、新婦達の衣装替えの後、披露宴を執り行います。皆様、少々お待ちください」


 ミリーさんのその言葉と同時に、ブーケを持ったままのカルメアさんが私達の元に来る。


「更衣室に戻るわよ。付いてきて」


 私達は、カルメアさんの後に続いて、会場から出て行き更衣室へと向かった。

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