結婚式の準備
ガルシアさんとカルメアさんに報告してから、二日が経った。ガルシアさんが依頼を出した結果、所属している冒険者の三分の二が集まったらしい。残りの三分の一が参加をしなかった理由は、ダンジョンに潜っているため、ギルドにいなかったかららしい。
つまり、ギルドに残っていた冒険者の全てが、結婚式の手伝いに参加すると言ってくれたという事だ。どうして、そんな沢山の冒険者の方々が手伝ってくれるのだろうか。嬉しいけど、少しだけ不思議に思った。
今、私達の姿は、ギルドの一室にあった。今日は、花嫁衣装を決めるために来ていた。これには、最初からリリアさんも参加している。
私達は、部屋に飾られた花嫁衣装を三人で見て回っている。
「う~ん……こうして見てみると、少しの違いで印象ががらりと変わるね」
「そうですね」
色々な種類の花嫁衣装が並んでいる。それらは、大きな違いがあるものもあるけど、意外と細かい装飾の違いでも、印象が変わっていた。
「私は、これにする」
キティさんは、他の花嫁衣装とは全く違う雰囲気を纏っている衣装を指さしていた。
「まぁ、そうだろうな。これは、獣人達の間で使われる花嫁衣装だ。特徴的なのは、耳や尻尾にも付ける飾りだな。それと、他の衣装よりも露出が高くなっている。そこは、直して貰うか?」
「ん。それが良い」
キティさんは、ガルシアさんの意見に頷く。ガルシアさんの言うとおり、キティさんが指した花嫁衣装は、他に比べてお腹部分や背中部分がぱっくりと開いている。さらには、スカートも際どいところまでスリットが入っている。
確かに、これは直して貰う必要がありそうだ。仮に、キティさんが良しと言っても、私が許可しない。
それともう一つ、気になる事があった。
「ガルシアさん、花嫁衣装にお詳しいですね?」
あんなにすらすらと花嫁衣装の説明が出来るなんて、少しびっくりしたくらいだ。
「大急ぎで調べていたのよ。キティの衣装について、しっかりと考えないといけなかったみたいだからね」
「親代わりなら当たり前だ。アイリス達にも、似合いそうなものを用意させたつもりだったが、あまり気に入るものはなかったか?」
「う~ん……どちらかと言うと、どれにしようか迷っているって感じです」
「私もアイリスちゃんと同じです」
私とキティさんは、気に入るものがないわけじゃない。でも、これも良いあれも良いで、決められずにいたのだ。
「今日一日使っても良いが、なるべく早めに決めるんだぞ。お前達に合わせるために手直しもしないといけないんだからな」
「分かりました」
ガルシアさんは、そろそろ仕事に戻らないといけないため、部屋を出て行った。カルメアさんは一緒に残っている。
「どれとどれで迷っているのかしら?」
「えっと、これとこれとこれです」
私は、三着の花嫁衣装を指さす。一着目は、装飾が少ない基本的にのっぺりとした感じの衣装だ。シンプルだけど、それ故に全体的な統一感がある。
二着目は、装飾が多くスカート部分にも刺繍がされているような衣装だ。それほど華美な装飾ってわけじゃないけど、最初のシンプルなドレスよりも可愛さ、煌びやかさが勝っている。
三着目は、他の二つ違って、スカートの前部分が膝丈になっている。後ろ部分は、他と同じように長めになっている。フィッシュテールというらしい。二つとの違いは、動きやすさと活発さが垣間見えることだろう。
カルメアさんは、私が指した花嫁衣装を順々に見ていく。
「同じようなやつで悩んでいるのかと思ったけど、意外と違うもので悩んでいたのね」
「はい。どれも綺麗で着てみたいと思っているのですが」
「そうねぇ……」
カルメアさんも深く悩んでいる。そして、おもむろに一着の花嫁衣装を指さした。
「これなんか、アイリスの雰囲気に合っていて良いと思うわよ」
カルメアさんが指した花嫁衣装は、私が最後に指さしたフィッシュテールスカートのドレスだった。
「これですか?」
「そうよ。アイリスの行動力がある性格が表れている気がするもの」
「じゃあ、これにしようと思います!」
「私の意見で決めて良いの? 自分が着たいものを優先して良いのよ?」
カルメアさんの意見で決めたら、そう確認されてしまった。自分が決めてしまったかもしれないと思ってるのかもしれない。
「いえ、私が着たいものの中で、カルメアさんが私らしいって言ってくれたので、これが良いです」
「そう? なら良いけど」
カルメアさんは、そう言ってから私の頭を撫でてくれた。何故かはよく分からないけど。
「それで、リリアは、どれで迷っているの?」
「この二着です」
リリアさんが指した二つは、よく似ているものだった。片方は花があしらわれた衣装で、もう片方の方は星のようなものがあしらわれている。リリアさんは、その装飾の違いで迷っているみたいだ。
「私は、花の装飾が似合っていると思いますよ」
私は、リリアさんの傍に移動してそう言った。
「ん。私も花の方が似合っていると思う。リリアは、花の香り」
「あっ、確かに、リリアさんは、花みたいな香りがしますよね」
「え……そういう理由?」
リリアさんは、花の花嫁衣装を選ばれた理由が、自分の匂いだったことに驚いていた。私は、リリアさんのイメージが花だと思ったからだけど、それもリリアさんの匂いだからかもしれない。
「でも、二人がそう言うなら、そっちにしようかな。カルメアさんは、どう思いますか?」
「私も花の方が良いと思うわよ。リリアらしいというのも同意見よ」
「じゃあ、こっちにします」
こうして、私達の花嫁衣装が決まった。
「では、仕立て直すために、一度試着しましょう」
衣装を持ってきてくれた業者の方がそう言う。
「試着は、私も手伝うわ。一応、そういう知識もあるから」
「お願いします」
カルメアさんと業者の方で、私達に衣装を着せてくれる。本当は、全部の衣装を試着するという選択肢もあったみたいだけど、そうすると、二、三日掛かる事になるみたいだから、衣装を全部見てから決める事にしたのだ。おかげで、一時間で決める事が出来た。
私達は、自分が選んだ花嫁衣装を試着した。そして、その姿を姿見で確認する。
「ちょっと、子供っぽいですか?」
自分で着てみると、ちょっとだけ子供っぽく見えてしまった。自分で衣装だけを見た時は、元気な大人っぽく見えていたんだけどなぁ。
不安になっている私の横に、リリアさんが並ぶ。リリアさんは、すごく大人っぽい。リリアさん自身が衣装に負けていないからなのかもしれない。
「う~ん、私は大人っぽく見えているけど。そもそも、アイリスちゃんは、まだ子供に近いから仕方ないかもよ?」
「うぐ……これでも、学校を卒業していますよ。だから、子供ではないです!」
「そうだね。今は、お化粧をしていないし、お化粧を施したら、色々と変わると思うよ」
「そうよ。結婚式本番は、アイリスが普段している隈隠しの化粧よりも綺麗な化粧をする事になるから」
今の化粧よりも綺麗な化粧か。全く想像が付かないかも。
「私も出来た」
キティさんがそう言って、私達の方に歩いてくる。まだ、仕立て直しをしていないから、露出はそのままだ。
「ちょっとエッチですね」
「ん。獣人は、この開いている部分の肌にも化粧を施すらしい」
「へぇ~、そうなんだ。そういう理由で、開いているんだね」
「ん。でも、本番は塞ぐから、それはしない」
ただの露出かと思ったら、ちゃんと意味があったらしい。本当に、私達とは違う文化みたいだ。
「皆さんの衣装の仕立て直しには一週間程頂きますが、よろしいですか?」
「はい。お願いします」
私達は、試着した衣装を脱ぐ。それを回収した業者さんは、他の衣装と一緒に部屋を出て行く。その素早さは、さすが業者と言うべきだろう。
「さてと、参列者のリストは貰ったし、後は、披露宴の食事ね。いくつか候補を用意しておいたから、どれか選んでおいてくれる?」
カルメアさんが、何枚かの書類を私達に渡す。そこには、出て来る食事のコースが載っていた。
「う~ん……結婚式の食事ですし、見栄えを優先した方が良いですよね」
「そうだね。でも、美味しさも重要だと思うよ。美味しくないものだと、参加してくれる人達に失礼になるかもだし」
「ん。美味しいものが良い」
「キティさんは、自分が食べることを想定していますね」
「ん」
キティさんは当然と言わんばかりに頷いた。
「じゃあ、見栄えと美味しさを両取り出来そうなこのコースで」
私は、一枚の書類を返す。
「これね。結構庶民的なものが多くなるけど、大丈夫?」
「はい。食べ慣れたものもあった方が楽しいですし」
「そうね。じゃあ、これで進めていくわ。あ、それと、結婚式を執り行ってくれる人だけど、ミリーがやってくれることになったわ」
「ミリーさんがですか? それは、嬉しいですね」
ミリーさんが結婚式を進行してくれるらしい。知り合いが協力してくれるのは、本当に嬉しい。
「他にも色々と進んでいるわ。衣装の仕立て直しの期間も考えて、挙式は九日後で大丈夫?」
「私は大丈夫です」
「私も大丈夫です」
「ん。大丈夫」
特に予定があるわけじゃないので、私達は問題ないという返事をした。
「じゃあ、参列者にもそういう手紙を送るわね。基本的に近場にいる人達ばかりだから、こういう時は助かるわ。じゃあ、今日の予定はこれで終わりよ」
「分かりました。じゃあ失礼します」
花嫁衣装の準備と結婚式の他の準備も進んだので、私とキティさんは自宅に戻り、リリアさんは仕事に戻っていった。
準備は、この日から急速に進んでいった。
そして、私達の結婚式が始まる。




