婚約の報告と結婚式の相談
リリアさん、キティさんと婚約した次の日、私はキティさんと一緒にギルドに来ていた。リリアさんは、仕事があるので、今は一緒ではない。
今日、ギルドに来た理由は、ガルシアさんとカルメアさんに婚約報告をするためだった。なので、今、ギルドマスターの部屋には、ガルシアさんとカルメアさんがいる。
「実は、リリアさんとキティさんと婚約しました」
私は、開口一番に報告した。ガルシアさんは、口をぽかんと開けて硬直していたけど、カルメアさんは、優しく微笑んでくれていた。
「そう。良かったわね、アイリス」
「はい!」
カルメアさんには、相談をしていたから、こうなる可能性も分かっていたけど、ガルシアさんには、直接の相談はしていない。だから、いきなりここまで飛躍するとは思ってもいなかったみたいだ。
「そ、そうか……キティが結婚……」
ガルシアさんは、キティさんが結婚するという事に感慨深くなっているようだ。
「それで、いつ式を挙げるんだ?」
立ち直ったガルシアさんが、まず訊いたのは、結婚式についてだった。
「まだ式場も決めていませんし、分かりません。取りあえず、教会という選択肢はないですけどね」
「まぁ、それはそうだろうな」
教会でも結婚式を挙げることは出来るけど、異常に料金が高いし、そもそも男女の結婚式しか執り行わないので、選択肢からは除外されている。
「もし何なら、式場を紹介するぞ? 何なら、ギルドで挙げても良いくらいだ」
「ギルドで結婚式をするなんて事出来るんですか?」
まさかのギルドでの結婚式という提案が出て、少し気になったので訊いてみた。
「前例は無いわね」
「だが、新しいことに挑むのなら、前例がないのは当たり前だ。そこは気にしなくても良いぞ」
やっぱり、前例自体はないらしい。式場をどうするかと考えていたので、こういう提案は有り難い。
「仮にギルドで結婚式をするとすれば、まずは執り行ってくれる者が必要だな。これは、冒険者から、教会の出身の者に頼むか。後は、ギルドの飾り付けも必要か。それも冒険者に頼むか。披露宴も必要だな。これも冒険者に手伝いを頼むか」
「全部冒険者の方に頼んでいますけど……」
ガルシアさんの案だと、ほとんどのことを冒険者の方々に負担することになる。私達の結婚式で、冒険者の方々にそこまで負担を強いるのは申し訳ない。
「依頼として出すから、問題は無いだろう。職員にも、手伝いの募集を掛けるか」
「当日は、一時的にギルドの営業を中断することになるでしょう。冒険者達に、そこら辺の補償も必要になるかと」
「ああ……いや、一部受付を開けておくか。ギルドへの用事は、そっちに任せるか」
「それなら、何とかなるかもしれませんね」
ガルシアさんとカルメアさんの間で、案が固まりつつある。
「あの……まだ、ギルドでやるとは決まっていないですけど……」
「だが、やる可能性もあるだろう? 先に、色々固めておけば、対応も素早く出来るだろう。お前達の結婚式だからな。最高のものしたいだろう」
ガルシアさんは、やる気満々になっている。きちんとリリアさんとも相談しておかないとだね。
「リリアさんと相談してみますね」
「そうだな。いや、いっそのことリリアも呼ぶか。今の業務は何だ?」
「今は、依頼書の複写ですね。抜けても、大丈夫でしょう。呼んで参ります」
「ああ、頼む」
リリアさんが仕事だから、私とキティさんだけで来たのに、仕事中のリリアさんも呼び出される事になった。ガルシアさんの呼び出しならこざるを得ない。
すぐに、カルメアさんがリリアさんを連れてきた。リリアさんは、私のすぐ隣に座った。
「えっと、私、仕事中だったんですが、大丈夫ですか?」
「ああ。構わない。仕事よりも重要とは言わないが、しっかりと重要な事には変わりないからな。それで、一つの提案なんだが、結婚式をギルドでやってみないか?」
「ギルドでですか?」
これには、さすがのリリアさんも戸惑っていた。まぁ、普通は戸惑うと思う。仕事場で結婚式を行うなんて聞いた事ないから。
リリアさんは、ガルシアさんから一通りの説明を受ける。
「なるほど……ギルドでの挙式も有りといえば有りですね。でも、そんなに手伝ってくださる冒険者の方がいるでしょうか?」
「ふむ。確かにそうだな。一度、冒険者達に呼び掛けて、どのくらい協力してくれるか確かめてみるか」
「そうすると、ギルドで式を挙げることが確定しませんか? リリアさんとキティさんは、それでも構いませんか?」
冒険者の方々に呼び掛けると、ギルドで式を挙げないといけなくなる気がした。だから、取り合えずの確認で二人に訊いてみる。
「私は、構わないよ。ちょっと戸惑ったけど、見知った人達が集まる場所だし、人の招待も楽だと思うよ」
「ん。まぁ、招待するような友達はいないけど」
キティさんの何気ない一言で、部屋の空気が凍り付く。だけど、そのキティさんの一言で思い出した事があった。
「そういえば、普通、結婚式って両親が出席しますよね? 私とキティさんは、いないんですけど、これってどうすれば良いんでしょうか?」
「ん。確かに、私達の両親はいない。リリアだけ出席する事になる?」
私とキティさんの両親がいない以上、親の出席はリリアさんの家だけになる。どうすれば良いのか分からないのだ。
「まぁ、必ずしも両親が出席しないといけないわけじゃない。そこら辺は大丈夫だろう。もし、親が必要と考えるのならば、俺が出席すれば良いだろう。キティの育ての親で、アイリスの両親の親友だからな」
ガルシアさんが代案を出してくれた。
「う~ん、じゃあ、もしもの時はお願いします」
「ああ、任せろ。それじゃあ、取りあえず、ギルドでの挙式で良いな?」
「はい。無理そうなら、知らせてください。他の場所を考えますから」
「よし! 早速考えてみるか。カルメア、すぐに書類を作ってくれ。それを依頼板に貼ろう。内容は、アイリス達の結婚式の手伝いだ。その気がある者は、明後日の昼にギルドホールに集まるように書いておいてくれ」
「分かりました」
ガルシアさんに言われて、カルメアさんが動き始めた。
「えっと……私も仕事に戻りますね」
「ああ。呼び出して済まなかったな」
「いえ、私にとっても重要な事でしたから」
リリアさんは、そう言って私達に手を振ってから仕事に戻っていった。
「さて、集まる人数によって、式を開ける日が変わってくるな。それと、花嫁衣装についてだが、こちらの手配でも大丈夫か?」
「はい。衣装の種類とかは、私達も決められるんですか?」
「ああ。一応、良い裁縫師に頼んでみる。こっちに呼び出すことになるから、少し待っていてくれ」
「分かりました」
花嫁衣装に関してもガルシアさんが裁縫師を紹介してくれるらしい。婚約の報告のために来たけど、結婚式に関しての相談もしてしまった。そのおかげで、迷っていたものが色々と形になり始めていた。
「本当に何から何までありがとうございます」
「いや、こっちから提案したことだ。気にするな」
「ん。ガルシアに任せれば大丈夫。出来なそうだったら、早めに連絡をしてくれるはずだから」
「そっちの安心はしなくても良い。それじゃあ、俺も仕事に戻る。アイリスは、参列者の名前を揃えておいてくれ。リリアのも一緒にな。冒険者の他にも呼びたい相手はいるだろう?」
ガルシアにそう言われて、少し考えてみた。
「いや……学校の友人も、あまりいないですし、特別呼びたい相手はいないかもです」
「……お前らは、もう少し交友関係を作れ。キティはともかく、アイリスはそこまで人見知りじゃないだろ」
「キティさんって、人見知りだったんですか?」
「子供の頃の話。ガルシアは、昔の事なのに引き摺りすぎている。アイリスと初めて会った時もきちんと話せた。だから、もう人見知りじゃない。ただ、友人になる人がいないだけ」
キティさんの言葉に、ガルシアさんは困った顔をしていた。
「まぁ、これから交友関係が広がれば良い」
「ん」
「では、私達も失礼します」
「ああ。何かあれば、リリアに伝える」
「分かりました」
私達は、ギルドマスターの部屋から出て、自宅へと帰った。これから、結婚式に向けての準備を始める。




