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ノーマルチョコレート  作者: 猫柳 芽
5/6

【Part4】

ある意味ドキドキ…

心臓注意です!

で。

学校からずっと尾行したわけなんだけど。


「へぇ。犬が好きなんだ。」

「うん!今、飼ってるよ!そうだ!家の犬見ていってよ!凄く可愛いから!」

「いいの?ありがとう。」

「…。」


無駄足だったかな…?


長瀬と田中さんの会話は、恋愛要素など全く無く、他愛のないものだった。

夕陽の光りに包まれて、和やかな雰囲気で続くお喋りは、何が好きとか、何が嫌いとか。

見ているこっちまで、ほのぼのしてしまう。


もし落としたいんだったら、こんな話しないよね?


やっぱり私の考え過ぎだったのか


「…好きといえばさ、長瀬くん。」

「何?」

「林さんと…付き合ってるんだよね?」

「んー…付き合ってた…が、正しいかな?」

「えっ?じゃあ、今は付き合ってないの?」

「うん。」

「そっか…そうなんだ。良かった。」


な?

あれ?

話の転換が嫌なほうにいっちゃった。

良かった?何が?

頭のパニックと共に…嫌な予感が…


「あの!もし良かったら、付き合って下さい!」


やっぱりねぇぇぇ!

そう叫びたいのを堪えるのと同時に意識が飛んでいきそうになる。


田中さん!騙されないで!

長瀬は王子の皮を被った、悪魔なの!


そんな私の心の叫びなんて届くはずもなく、田中さんは俯きがちにじっと返事を待っていた。

空には風に乗って、黒い雲が現れ、どんどん空を埋め尽くしていく。

時間も気づかぬうちに刻々と流れていて、いつの間にか6時をまわっていた。


「…気持ちは嬉しいけど、愛ちゃんのことを、そういう風にみれない。ごめんね。」

「…うん、そっか。」

「愛ちゃんを意識したこともなかったし…とても付き合えないよ。」

「!…ごめんね。」


田中さんは今にも泣き出しそうな顔をしていた。


…そして、皆さんは気づいていますか?

長瀬の断り方が、林さんの時とまったく一緒ということに…


それに気づいた時、私は確信した。

長瀬にとって女はオモチャ。

恋愛なんて単なるゲームでしかないということに。


「…ねぇ、もし良かったら、明日一日だけ付き合わない?気が変わるかもしれないし。どうかな?」

「本当…?嬉しい!」


再び、聞いたことのある台詞が聞えてきて、見たことのある黒い笑顔が見えてきて、私はその場にズルズルと座り込んだ。

何だか、心に穴が空いた気分だった。


「…。」


二人が手を繋いで家に向かうのを見送ると、ヨロヨロと来た道を戻り始める。


学校前に着く頃には予報通りのの雨が降りだした。


何で…。


君への告白現場は、

どうしてこんなに心をモヤモヤさせるのだろう。


・・・


「あ、冷血…あっちから行こう?」

「う、うん。」


…昨日の雨のせいもあってか、冷血漢と呼ばれる私が纏う空気が、さらに冷気を帯びていた。

いつも以上に避けられ、ショックを受けつつ、私は自分の意思を再確認する。

そう、私の決心を。


何を決心したかって?

それは…被害に遭った子達のためにも、長瀬の本性を暴いてやること。

嘘だらけの愛を信じたまま終わるなんて辛すぎる。


…長瀬には少し悪いけどね。


でもでも!

加害者に同情の余地なんてないわ!


長瀬の行為はいくらなんでも酷すぎる!

たとえ、私が嫌われ役になったとしても、皆を助けたい!

守りたい!

というか、もう手後れだから怖くもない!

…いや、さらに嫌われたくはないから怖いけど。

誰かが傷つくのなんて見たくないもん。

徹底的に暴いてやる!


え?どうやって暴くかって?

ふっふっふっ。

皆さん、お忘れですか?

あの印の紙を!

あの紙さえ手に入ればこっちのものよ!


し・か・も!

見てしまったの!

長瀬があの紙をいつも机の中に入れていることを!

そしてそのまま置いて帰っていることを!

何となく目で追ってたら、いつもそうしていた。

まだ確定していなかったから、盗ってはなかったけど。

今宵は頂戴する!

このゲームは勝ったも同然!


「白井さん?どうしたの?突然ガッツポーズなんかして。」

「…別に。」

「…そっか…」


いつからいたのかは分からないが、長瀬が私の顔を覗き込んで言った。

いつもならイラッっとするところだが、今の私はテンションが高い。

しかも、相手の長瀬はまったく気づいていないみたい!

ヤバイ…にやける。


「!?…。え…本当にどうしたの?大丈夫?」

「何が。」

「いや、だって…。…何でもない。」


長瀬は何か言いかけて、止めた。

いつも通りの笑みを浮かべて「()()()()ね、ばいばい」と言って去っていった。

その言動にどこか引っ掛かりながらも、私はますます笑みを深めた。


バイバイするわけにはいかないよ。

長瀬。


・・・


「長瀬くん、バイバイ!」

「バイバイ。」

「…。」


「長瀬くん!一緒に帰ろう?」

「愛ちゃん。うん。勿論!」

「…。」


「…えっと、気持ちは変わった?」

「…ごめん。」

「そっか…そうだよね!あはは~…」

「…。」


「…。」

「どうしたの?」

「…面白くなりそうだな。」

「え?」

「何でもないよ。じゃあ、帰ろ?」

「…。」


…。


さぁさぁ皆さん!

遂に第三弾を迎えた、尾行大作戦!

でも今回の尾行はこの正門まで。

長瀬が帰ったのを確認してから捜索を開始しなくちゃ。

念には念をおして、ね。

失敗は許されないんだから。


そんなことを考えるうちに田中さんと長瀬は正門から出ていった。

さあ、早く戻ってっと…


「…。」


・・・


教室に戻った私は、真っ直ぐ長瀬の席に向かう。

今日もきっと、置いて帰ったはず…!

机の中は何かがいっぱい詰まっているようだった。


長瀬は整理整頓って言葉を知らないのかな。

ま、いいや。


私が机に手を突っ込んで、紙っぽいのを引き抜いた瞬間…


ドサドサドサ


机の中から大量のラブレターと手作りっぽいお菓子が沢山落ちてきた。

想いがこめられたはずのものは、無残な姿に変わり果てていた。

ラブレターはグシャグシャにされたり、ビリビリに破かれて。

お菓子も潰れ、一つも口にした形跡は無かった。

あまりの量と惨状に衝撃を受けて、しばらく動けなかった。

3分くらいでやっと我にかえり、あの紙を探し始める。

でもどんなに探しても無かった。

無くなっていた。

私は絶望で手が震えた。

無いのなら私の行動は意味が無いものだったということになる。

私が手にしたのはより悲しい感情だけだった。

急いで散らばったものを机に戻す。

こんなものをこれ以上見ていられない。

それに、こんなところを誰かに見られたら誤解されちゃう。

そうしたら、きっともう二度と…!


「…急がなきゃ。」


必死で拾い上げては詰め込む。


「急がなきゃ、急がなきゃ、急がなきゃ。」


徐々に呼吸が乱れ、顔色が無くなり、手の震えも激しくなった。

どうやって入っていたのか分からない量で、もうパニックだった。


「入れ!お願い、入って…!」


焦れば焦るほど手元が狂って、うまくいかない。


どうしよう。

どうしよう。

どうしよ


ガラッ


「あれ?白井さん?」

「!?」


やっと半分くらい入った時、ふいにドアが開いたと思ったら、一番ヤバイ奴が入って来てしまった。

急いで机に突っ込んでいた手を引っ込めると、また机の中身が出てきてしまった。

まずい。バレる。


「どうしたの?そんな所に座り込んで…そこ、僕の席だと思うけど…」

「…止めて!来ないで!」


こんなに大声を出したのはいつぶりだろう。

長瀬も驚いたのか、一瞬足を止めた。


が、また一歩一歩近づいてくる。

そしてついに…


「…!?」

「あ…いや…これは…」

「…。」


おそるおそる顔を上げると、長瀬は大きく目を見開いた後、あの黒い笑みを浮かべた。


「…へぇ。机漁りなんて、いい趣味してんな。」

「え?」


明らかに低くなった声に思わず立ち上がる。

すると長瀬は小さく笑いながら、私を壁へと追いやってきた。


「お前って面白いよな。本当の自分を出せずに、オロオロして。」

「は…?」

「しかもちょっとからかっただけですぐに赤くなってさ。それを隠せてるつもりなのも面白かった。」

「なっ…」

「本当に、捨てられた子犬みたいにプルプル震えて傑作だったわ。」

「え…」

「今みたいにな。」


ついに私の背中が壁についてしまった。

その瞬間、顔の真横の壁が大きく揺れた。

生まれて始めての壁ドンは、長瀬の強烈壁パンチで終わった。

それだけでも怖いのに、ズイッと顔を近づけて追い討ちをかけられる。


「で、何を見たの?」

「な、何も」


とっさに目を逸らすと頬を掴まれ、無理矢理目を合わされる。


「あの光景を見られてよく言えたなー?」

「う…」

「あぁ、そっか。だってお目当ての物が無かったもんな?」

「え、」

「探していたのは…これだろ?」


長瀬は肩にかけていた鞄から、印の紙を出す。


「な、何で!?」

「何?もしかしてバレてないとでも思ってたの?始業式の日、俺のこと見てたことも?告白現場に居合わせたのも?俺を何回か尾行したことも?全部、バレてないって?」

「そんな…全部…バレてたの…?」

「で、これを皆に見せて俺を貶めようって?」

「待っ…」

「でもさ、冷静に考えて、こんな紙がなんの効力を発揮するわけ?」

「え?」

「お前の考えは大体合ってるよ。俺はこういう奴だ。でも、この印が、その証明になるか?事情を知らない奴が俺の本性を理解するほどの証拠になるのか?」

「そ…れは…」

「そんなわけないよな?なぁ?お前はいつも詰めが甘いんだよ。」

「…。」

「この際だから教えておいてやるけど、そもそも最初からお前を嵌めるつもりだったんだよ。だってそうだろ?わざわざ、こーんな証拠を残すわけねーじゃん。」


確かに。

怒りで頭が沸いていたからかな。

普通なら分かったはずだったのに。


長瀬の高笑いがただただ教室に響いた。

何も言い返せず目が泳ぐ私に、長瀬はますます笑みを深める。


「それよりさ、ただでさえ苦手意識をもっているお前が、他人…しかも俺の机を漁るような子だって知ったら、皆はどう思うだろうな?」

「…脅すつもり?」

「別に?ただ…皆の王子様の俺と、嫌われ者のお前が違うことを主張した時、皆はどっちを信じるのかな?」

「なっ…!そ、そっちこそ証拠なんてないでしょ?」

「…あるんだよなぁ、それが。」


長瀬は私から離れ、ロッカーの上に置いてあった段ボール箱を開ける。

中から出てきたのは…カメラ。

よく見ると、段ボールには穴が空いていて、私の行動の一部始終を記録していたらしい。

画像はいくらでも修正できるから、私を悪者に仕立てあげるくらい簡単だということは、すぐに察した。


…嫌だ。

こんなの見られたら終わりだ。

やっと…やっと普通に暮らせると思ったのに。

…なのに…


「ねぇ。」

「!?」

「何か言うことないの?そうやっていつまでも固まってないでさ。」

「な、何かって」

「例えば、これからどうして欲しいとかさ。…これ、皆に見せようか?」


長瀬は楽しそうにカメラを弄んでいる。


「…止めて。見せないで。」

「そんな命令口調なんだ。へー。」

「…止めて下さい。皆に見せたりしないで下さい。」

「ぷっ・・・あははは!」


私は悔しかった。

でも何もできない。

こんなことで高校生活を終わらせたくない。

俯き、唇を噛み締めていると長瀬の足が視界に入る。

顔をあげると長瀬は笑顔で言った。


「いいよ。」

「…え!」


案外、軽く返ってきたうれしい返事。

私が瞳を輝かせていると、長瀬はクスクス笑い、私の髪を大きな手で掬い上げた。


「!?」


あまりのくすぐったさに体が反応する。

だけど、髪にキスされながら放たれた言葉は私を絶望に叩き落とすスタートの合図となった。


「俺の言いなりになるならね。」

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!


誤字脱字、文法的間違い、不快な表現等ございましたら、指摘して頂けたら幸いです。

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