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ノーマルチョコレート  作者: 猫柳 芽
2/6

【Part1】

ここから本格的にストーリーが始まります!

春。

桜舞い散るこの季節。

学生達は学年が一つ上がり、大人への階段を上っていく。


私の通う『東花高校』も丁度、始業式を終えたところだ。

晴れやかな舞台の後には、友達との会話も弾む。


「今日から2年生か~。可愛い後輩の面倒、ちゃんと見なきゃな~。」

「そう考えると、1年生は楽だった…。」

「ついこの間まで、その楽な位置にいたんだよな。」

「なんだかもう、1年生だった頃が懐かしく感じる…。」

「え?早くね?」


ドンッ


「あ、悪い。立てるか?」

「…。」

「え、ちょっ!せっかく手を差し伸べてやったのに無視かよ!」

「…。」

「!?な、何だよ!何睨んでんだよ!」

「おいおい。やめとけよ。冷血漢に何言ったって無駄だよ。」

「あーあ。冷血漢とだけは同じクラスになりたくないなぁ。」

「…。」


こんなの、言われ慣れている。

変わらぬ日常だ。


この学校には一風変わった少女がいる。

笑わない、泣かない、怒らない。

全てに関して無関心で、無反応。

長い長い黒髪に、血の気のない真っ白な肌が人間味を感じさせず、ますます恐怖を感じさせる。

そこにいるだけで周囲の空気が凍りついてしまうようで、いつの日か『冷血漢』と名付けられていた。

そんな少女はいつだって冷静沈着…


「…。」


ガチャッ


「…。」


ボッ


「はぁ~~~~~~~~~~」

「ビックリした~~~~~~」


な、訳ではない。

トイレの個室の中、一人真っ赤な顔でキョドっているのは、冷血漢こと『白井 雪菜』。

心の無い人形とか、冷血漢とか言われているけど、実際は違う。

本来なら話をするべきタイミングで、どうすればいいのか分からずに沈黙。

そして気が付くと周りから人がいなくなっていった。

話したいけど話せない。

簡単にまとめると『人見知り』『コミュ障』といったところだ。

あ、『赤面症』でもあったりする。


「ぶつかっただけでも無理なのに、手なんか掴めないよ~…」


人との関わりも無に等しかったから、男慣れしていないのもある。

このままではいけないことは分かっているんだけど…


小さいときだって、周りと関わりたくなかったんじゃなくて、関わる時間が無かったっていうか?

やっと関わる時間ができたと思ったら、関わり方が分からないという手遅れの状態だったっていうか?

思春期真っ最中だったから男子は特にね…


壁にもたれて心の中で言い訳を並べる。


小学校低学年くらいまでは色んな子と仲良くしてた気がするんだけどなー…

仲良くしてたっていっても、たまに話す程度がほとんどだったっけ…

えーっと…

…ん?ちょっと待てよ。

幼稚園の頃に、1人の男の子といつも仲良くしてたような?

…誰だっけ?


頭にはボヤ~っとしたシルエットしか浮かばない。

名前さえも覚えていなかった。


「えっと。確か、私より背が高くて、いつも笑ってて…」


必死で記憶を辿り、再び忘れないように声に出す。

何も覚えていなかったその子だが、考えれば考えるほど暖かい気持ちになってくる。

その子の事を思い出せば、何かが変わるかもしれない。

その一心だった。


「あ…右目の横にほくろがあった気が…」


ガチャ


「クラス一緒でよかったねー」

「うん。離れたらどうしよって思ってた。」


扉の開く音と同時に、誰か入ってきた。

とっさに口をつぐむ。

何故か、今の私を見られたくなかった。


こうやって本当の自分を隠しているから『冷血漢』とか言われているのに…

心では分かっているのに…!

足が!口が!

動かないぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!


私が頭を抱えて悶絶している間にも、私の存在に気づいていない彼女たちはお喋りを続ける。


「でもさ…私達、ある意味、可哀想じゃない?」

「あー…冷血漢と同じクラスだから?」

「そーそー。同じクラスの人が言ってたんだよね。あんなのと一緒とか死ぬ~。」


耳に入ってきたのは、私に関する、決して良くはない話題だった。

というか、『あんなの』って…


「っていうか冷血漢ってさぁ、私達と関わる気ないよね。」


関わる気はある、むしろ関わっていきたいと思ってる。

でも少し…怖い。


「分かる。一人が好きなんじゃない?」


…一人は嫌いじゃないけど、好きでもない。

私だって友達が欲しい。


心の中で喋り続ける。

少しでも孤独を感じないため。

実際に話しかける勇気は…私には無いから。


「でさー…あれ?誰かいるじゃん。」

「…本当だ。個室一個閉まってる。」

「…。」


ここでやっと私に気づいた彼女達は話を止めた。

気まずい沈黙が流れる。


え?私が何か言うべき?

ど、ど、ど、どうしよう…どうすれば…


「…ねぇ、さっきから何も言わないし、もしかして冷血漢なんじゃ…」

「え?マジ?…早く行こう!」


あぁ…せっかくのチャンスが…

バタバタという足音が遠ざかった途端、目から涙が溢れ出た。


「あれ…おかしいな。…止まってよ…!」


皆に誤解される毎日。

その種をまいたのは自分。

だけど、辛くて辛くて仕方がない。

本当の自分を皆に知ってもらいたい。

…きっともう手後れだと思うけど。

それでも…


パンッ


涙を拭い、自分の両頬を叩く。

泣いたって状況は変わらない。

今が嫌なら、自分の力で何とかするしかない。

そう、少しずつでも変えていこう。

改めて決心を固めると、少し気持ちが楽になる。


「よーし!早速クラスに行って実践…」


そこまで言って、大切なことに気づいた。


「まだクラス確認してない…」


確か、掲示板に貼り出されているはずだ。

急げば、まだ間に合う。

私はすぐにトイレを飛び出した。


・・・


「うわっ…冷血漢。」

「早く行こうぜ。」

「…。」


賑やかだった掲示板の前から、どんどん人がいなくなっていく。


…まぁ、原因は私なんだけど。

さっさとクラスを確認して行こう。

いつまでもいたら、普通に迷惑だろうし。


掲示板へ向かってできた花道のような空間を足早に進み、すぐさま名前を探した。

1組から順に、目で名前を追っていく。


「あ・・・3組」


3組は廊下の一番奥にあるクラス。

移動教室は遠いが、他のクラスより窓が多く開放的なのが特徴だ。

私にとってはとても嬉しい場所だった。

早速、掲示板を離れて教室へ向かう。

すると…


「お!3組だ!」


という声が掲示板の方から聞こえてきた。

反射的に振り返ると、さっき手を差し伸べてくれた人がいた。

同じクラスなんだ…


「…さっきはごめんなさい。」


喉の奥から絞り出した謝罪の言葉は、とても小さな声だった。

しかし彼は掲示板に夢中で、もう立ち去ったと思っているのか私の存在すら気づかない。


いつかはこれを大声で言えるように…

そもそも、こういうことを言わなくてもいいような行動ができるようになりたい。

っていうか、なる!


そうやってポジティブに考えるだけで、目の前がパッと明るくなり、視界がみるみる広がっていく。


…にしても、彼の隣にいる人…何か引っかかる。

後ろ姿を見ているだけで、心がモヤッとするような…


「お前もだぞ!長瀬!」

「おぉ。」

「え!長瀬くん3組?」

「私、一緒!よろしくね!」

「うん。よろしくね!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


…あぁ、そういうことか。


違和感の謎は一瞬にして解けた。

あいつは『長瀬 昴』。

学校一のモテ男で、王子様的存在。

そして、私の大嫌いな奴。

いつも浮かんでいる笑顔の奥に、何かある気がして怖いのだ。


長瀬までは結構距離があるし、目が合うはずもない。

だけど、何となく目を逸らす。

長瀬の方からはまだ、女子達の黄色い声が響いている。

私は黙ってその場を離れた。


「…。」


そして私は知ることになる。

私の勘は結構当たるということを…


・・・


色々あって、ようやく教室に辿り着いたものの、私は教室のドアの前に佇んだまま動けずにいた。

緊張して、足が前に進まないのだ。


分かってるよ?

こんなことしてたら余計に怪しいって。

さっきから皆の視線が背中に刺さりまくってるし。


ええい!

こうなったら勢いで…!


ガラッ


私が教室のドアを開けると、賑やかだった教室は一瞬で沈黙に陥った。

皆の視線が私に集まる。


う…失敗した…。

何でこんなに勢いよく開けちゃったんだろう。

でも負けない!


と、教室に足を踏み入れると、ヒソヒソと囁く声が聞こえてきた。


「うわ…マジで冷血漢と同じクラスじゃん。」

「マジ最悪。2年生の学校生活終わった~」


そこまで!?


…はぁ。

この調子じゃ、友達はできそうにないなぁ。

って、駄目駄目!

弱気になるな私!

せめて隣の席の人くらいは…


「席、ここか…。あれ?隣、白井さん?よろしくね。」

「…よろしく。」

「あ、僕は…」

「長瀬 昴。」

「僕のこと知っててくれたんだ。嬉しい。」

「…。」


私は前に向き直り、頭を抱えた。


あぁ。

神様はなんて残酷なのでしょう。

よりにもよって!

何で!

長瀬 昴ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!


「よし、皆席に着いてるな?朝礼始めるぞ~」


担任にあたる先生の声に皆は静かに前を向き、囁き声も止んだ。

私の席は窓側から2番目の列の1番後ろという、地味に先生と目が合う席だ。

実際に目が合い、すぐに逸らされた。

(先生!?)

唯一目が合うとすれば隣にいるキラキラ野郎だけだろう。

彼が動くたびに香る洗剤の香りが、うっとうしいくらい存在を証明している。


…ん?

長瀬という悪しき存在で意識してなかったけど、反対側の隣の席があr


「あ。そこの窓側の列の一番後ろの席のやつは諸事情でしばらく来られないそうだ。」


へー…って、私の横じゃん!

意気揚々と空席に目を向けたことが無性に恥ずかしくなってきて、私は縮こまった。


その間も、私なんて見えないかのように担任は淡々と説明を続ける。


「机の上にクラス名簿置いてあっただろう?それ使ってクラスメイトの名前、早く覚えろよー。」

「え?冷血漢って、白井雪菜っていうんだ。」

「え?名前あったんだ。」


え?名前無いと思ってたの?

私にも名前くらいあるよ。


「でも、いいな~冷血漢。長瀬くんの隣なんて。」


じゃあ、席替わってよ。

というか、冷血漢に戻ってるし。

名前どこにいったの?


「ちっ!長瀬ばっかりモテやがって!でも、いいやつだし。俺も白井の席に座りたい!」


いや、だから席替わってよ。

それに、冷血漢じゃなくて白井…

あれ?合ってる…


二人だけではない。

周囲から、私を羨ましがる声が沢山聞こえる。


…私にとっては地獄席なので、本当に誰か替わって下さいよ。

というか、何でこんなのがモテるんだか。

まさか…秘伝のコミニュケーションのコツとかがある!?


そんなことを考えながら偵察も兼ねて横目でチラッっと長瀬を盗み見る。

長瀬は名簿に印をつけているところだった。

女子の名前の横には丸を。

男子の名前の横にはバツを。

…あれ?

よく見ると、5人だけ印がついていない。


・私『白井 雪菜』

・クラス一スポーツ万能な『田中 愛』

・クラス一明るい『中川 桃花』

・クラス一賢い『林 なな』

・クラスのムードメーカー『平井 雛』


この5人。

全員女子ということ以外は、全くといっていいほど共通点が無い。

私は何だか不安になり、こっそり名前をメモした。

小さなメモ用紙を適当に鞄に突っ込み、再び長瀬の様子を伺う。


長瀬は印をつけ終わると、素早く紙を隠し、いつも通りの笑顔を浮かべた。

そう、私の隣にいたのは、いつもの長瀬だったのだ。

誰にでも優しい、皆の王子様。

勿論、印のことは気になるが、訊かなかった。

元々、そんな仲じゃないし。

だけど、一番の理由は…何故か、訊いてはいけない気がしたから。


そしていつか、


_あの印の本当の意味を、私は知ってしまう_

ここまで読んで頂き、ありがとうございました!


誤字脱字、文法的間違い、不快な表現等ございましたら、指摘して頂けると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 雪菜ちゃんの気持ちがめちゃくちゃ分かりやすく物語が進んでてまるで自分もその世界に入り込んだかのような感じがした~!! [気になる点] 長瀬くんが何のために印つけてるのか気になる…!! 印つ…
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