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3話 荒神祭(二)

更新頻度を改めることにしました。これから十六話まで毎日あげます。

「東、ムルチ」

「西、シュリ」


東側から娘たちが高く声をあげる。ムルチはへらへらと娘たちに手をふり、投げキッスをしている。この男、初戦からこの調子である。


「みんな今晩一緒にねような~」

「地にかえれっ!!」


準決勝でムルチに負けたヤシューカが折られた腕の治療を受けながら怒鳴る。対戦相手のいつもの調子にシュリも思わず笑ってしまう。アグニは儂ももう少し若ければのおと溜飲を下げる。


「両者、」


ムルチとシュリの目があう。


「始め。」


アグニの号令とともに、ムルチは両腕を翼に、下半身を猛禽類のそれに変えていく。


バチィッッ


シュリが電光を放ちムルチの変態を妨害するが、ムルチは体を旋回させて電光を交わし、回した翼で風刃を飛ばしてくる。やはり、ムルチの変態のスピードは速い。


ッドオォォォン


シュリは風刃をよけ右に転がる。そこに低空で滑空してきたムルチが突っ込んでくる。


ッガガアアアン


趾に装填した湾刀は追い風をうけて強力な風の双剣を作り出す。土俵に亀裂が走る。鉄剣をおるそれをシュリはなんとか背をのけぞらせてよけた。が、ムルチは今度は下段に蹴りこんできた。シュリは右手を地につき体を反転させて紙一重でそれをよけ、そのまま側転の要領で間合いをとろうとする。さらに追い込もうとしたムルチを地面から生え出た土槍で襲う。狙うは範囲の広い翼だ。


「怖いねえ」


ムルチは羽根を畳み、地に足をつけて土槍をよける。すると、狭い土の壁がムルチを取り巻いた。一瞬だったが、視界がふりになったムルチに、シュリは土壁ごとその腰めがけて長剣を振る。


ドッ


ムルチはシュリの狙いを悟っていたかのように湾刀で長剣を受け止めた。しかしシュリは受け止められたところを起点にし、ムルチのこめかみめがけ最大限の電光をまとわせた回し蹴りを放つ。


バシィィィィィィッ


手応えあった。が、ムルチは片手で放電に耐え蹴った足を掴んでいた。


「!!!!!!」

「しびれるうううううううう!!!!」


逆に電流をぶちこまれながら土俵の向こうにぶん投げられた。


「っくっっっ」


土俵から出る!!息が止まる電気ショックの中シュリは回避の為全力で集中しようとした、しかし


(駄目だっ)


集中しすぎると、あの力が出る。結果、シュリは土壁を作り出し、思い切りぶつかって思い切り地面に落ちた。


ズザザザザザザアアアアッッッッツ


気合で体をおしあげ、回転しながら滞空する。顔中血だらけ砂だらけである。歯が何本かいった。


(くそ、ポールの時よりでかいのでいったのに)


ムルチの頑丈さに舌をまく。追撃はとまらない。浮かび上がるシュリの足をとろうと、上昇気流で下からつきあげてくる。ムルチに飛ばれると、実戦経験が少ないシュリの不利になる。なんとかムルチの完全変態をはばもうと無我夢中で翼を狙う。そして、舞い上がる砂埃を見て、ある策を思いついた。


 しばらく、二人の攻防が続いた。シュリは息を切らしながら、ムルチの攻撃を紙一重でよける。仕掛けを気取られないよう気をつけながら。中途半端な状態で上空からおりてこないシュリに、砂埃で視界が悪くなってきたムルチは、変態に集中しようと攻撃の手をとめる。


(いまだっ)


シュリは土俵沿いにゆるく起こしていた一方方向の風のスピードを全力でまきあげていく。


フオオオオォォォォォォォ……

ブオオオオオオオォォォォオオオオオオオォォォォォォッツツツツッ


通常の魔族たちは、気候変動に類するような魔法は起こせない。雲を動かし雷を落としたり、暴風でハリケーンを作るには莫大な魔力量が必要で、さらにはその莫大な魔力を繊細に練り上げるコントロール力がいるからだ。しかし、その瞬間、シュリはムルチを中心にした台風の目をつくりあげた。ポカンとするムルチ。


「…ははっ、んだこれ」


嫌な予感に唾をのむ。風の中心は真空状態になり、―――突然風がやんだ。

無風状態のところにシュリは砂を巻き、


「炎か」


アグニの予言通り、小さな火を投げ入れた。


ヒュウっ――――――


圧縮する空気、無数の砂塵が着火する。そして



ッボオオオオオォオオオオオオオオオオオオオンンンンンンンンンンン



ムルチが、爆発した。

燃え残った火の中、ムルチが倒れている。シュリは息をきらしながら、地上におりムルチの様子を見る。


(立つな、立つなよ…!)


まだ魔力に余力はあるが、知っている魔法をかけあわせ最大火力を出す策だった。というかこれで立てたらおかしい。右向きにたおれこんだムルチは方翼で体をつつみ爆発から身を守ったらしい。体の右側の肉がところどころやけおち、骨が見えるほどえぐれている。


「ムルチ…」


ムルチは微動だにしない…


(やったのか…?)


が、ムルチは体をおこし同時に近距離から風刃を放った。


「ええっ??う、うわあああああぁぁぁx」


シュリは間抜けな声を出しながらのけぞり、風刃をよけた。


「ばっか、さいごまで、ゆ…だ…ん…すんな…」


笑うムルチは白目をむき、ばたりと倒れこんだ。


「へ…???」


シーンとした空気があたりをつつむ。アグニは冷静に秒をかぞえると。ムルチの顔をのぞきこむ。


「うん、息しとらんな。ヤシューカ、人口呼吸、レタ、蘇生をたのむ」

「ええええええ?????!!」


ヤシューカが爆笑しながら土俵にとびこみ心配蘇生をはじめる。レタもあわててかけつけ、エーテルをふりかけ回復魔法を施す。


「ムルチさまー!ー!!!」


ムルチファンの娘たちの無意味な声援。ぽかんとするシュリの腕をつかむアグニ、老いた審判は可笑しそうに目をほそめている。


「勝者。シュリ」

「うおいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃx!!!!」


勝ち札を失った男たちが、男泣きしながら地面をたたく。サラが天蓋からかけつけ、シュリを抱きしめた。ダンのとなりで鼻息荒くシュリを見守っていたエダマメは両手をあげておたけびを上げようとしたが、後ろにいたカイに口をふさがれた。カイはエダマメにダンの方を見るように促す。ダンをふくめ、大人たちはまだ体も出あがっていない少年が放った桁外れの魔法に畏怖の目をむけていた。


「なんだ?あいつ…?」

「竜人って…あんな強いのか…?」


コロッセウムは異様な空気となりしばし静寂となった。


「見事であった。―――シュリよ。」


自分の名を呼ぶ声にシュリは驚きの瞳をむける。視線の先には、モンテ・クリストフ伯爵が冷えきった目で自分を見下ろしていた。おそらく物心ついてから伯爵に「ゴミ」以外の名でよばれたのは初めてである。


「強者に、拍手を」


パチパチ、と手を叩く伯爵におくれて、さざなみのように拍手が続く。


「シュリ、勝者には望んだものを得る権利がある。生来の契約はかえられぬがな」


言外に奴隷の立場は変えられないといいながら、伯爵はシュリに望みをきく。ごくり、とシュリは唾をのむ。こぶしがふるえる。


「土地を…家を建てる権利を。そこで暮らしたいです。」

「よかろう。ダン、あとでみつくろってやれ。それからアグニ、こいつを精鋭に入れてよくしこめ」

「「はっ」」

「では、試合の見とどけは以上とする。後は好きにしろ。私は館にもどる。サラこっちに来い」


伯爵が立ち去るのを、一同片膝をつき送り出す。シュリは信じられない思いで、天蓋を見上げた。カイと目があう。


(やったな)


無言で口をうごかし、表情をゆるめた相方を見て、シュリはじんわりと勝利の実感をえた。いつの間にか陽はかたむき西日の刻になっている。



 ぱちぱちと焚火がはぜる。祭りの後の夜は大きな炎をもやす。ほうぼうで冗談を言い合う声、笑い声、嬌声がひびき、歌い手たちが歌をうたい、調子にのった者が踊りはじめる。


「いいぞ!!もっと回れ!」


酒に酔ったポールが剣をまわし、蹄をうちならしながら馬人の踊りを披露している。


「まわれまわれ!バカにしてた餓鬼にまけた、無様なやつはだれだあ??!」


ムルチは包帯だらけで両脇に馬人と鷹人の娘をはべらせ、敗者のみじめさなどかけらもかんじさずにガハハと笑っている。


「てめえ覚えてろよ!!」


やけになって踊るポール、剣に炎をふきかけ回る姿は見事である。


「私もまざる!」


興にのったヤシューカが金の鈴をつけた布をひらめかせながら、人々の手拍子にあわせ翼をひろげ始めたら宴も本番だ。


「これ、一緒にのも~」


サラが器にいれた果実水と、焼き串を持ってきた。カイとシュリは南の櫓で一晩砂漠の警備だ。


「え??」


同じ器で飲もうというサラにシュリは固まる。サラは専用の食器があるお嬢様であり、自分たちと口移しで何かをわけあうなど考えられない立場だ。


「だめ?」


えへ、と上目遣いで笑う。


「は?無理。」


固まるシュリの隣でカイがさらりと言いにくいことをいう。


「命令したらいいじゃん。呑んで怒られるのは俺らだし。一緒に飲んでもサラが主人で俺達が奴隷なことは何も変わらない」

「カイいいすぎ!」


シュリはカイのあまりの物言いに信じられないと目をむける。


「みんなの前で奴隷に抱き着くなよ…。だから伯爵様に殴られんだ」


えっと、シュリはサラをみる。


「あちゃー見られてたか。」


サラはへらへらと笑って頭をかく。


「へへ、いいじゃん一緒にレタのおっぱいをのみあった仲じゃないか!混ぜなさい!」


ケラケラと笑うサラをけっと睨むとカイは器をうけとり、ぐいっと飲む。そしてシュリに器をわたす。土器の器はひやりとつめたい。口にふくむとトロリとした甘い果実の味がした


「…うめー」


大人達の方から、歌声がきこえる。サラが曲にのっておどりだす。微妙にテンポが悪い。


「サラ…へたくそ」


思わず気になってシュリも踊ってしまう。


「えっこう?」

「こうっす」

「ふふ、シュリがずれてんじゃない?」

「は〜?ちょっと!カイ唄ってくれ!」


二人につられてカイは唄いだす。身に染み付いた音楽を、夜風にのせる。三人は夢中になって、唄い踊った。踊り疲れた頃には焚火は消されあたりは静かになっていた。冷たい風が吹きすさび、三人は汚れた毛布に身をひそめた。櫓の前方、建設中の砦と足場に月光があたっている。シュリのすぐ隣にはサラがいる。


「サラ、一緒に見張りすんの?」

「もーちょっとしたら帰ろっかな~…」


 遠くの星をみるサラ、砂丘に星が瞬いている。


「せいじんしても殴られんのか~」


シュリが星をみながらぼそっと言った。


「ジェットの親父なんか奥さんのことしょっちゅう殴ってるぞ」

「なんで?」

「女のくせにだって」

「女?女には優しくしろってムルチが言ってたぞ」

「うーん。」

「ムルチはヤシューカにぼこぼこにされてるけどそれはいいのか?」

「この前ムルチに頭突きした時ウォーターバッファローの突進みたいだったもんな」

「こらこら」


 少し間があき、三人は静かになる。シュリはうとうとしはじめた。カイはちらりとサラをみる。男の自分達と一緒にいて怒られないのだろうか?と少年は考える。


「女の顔なぐるとかありえねー」

「ふふっ…お父さんもさ、誰かに殴られてるみたいだよ」

「…伯爵様が?」

「夢でね、よくうなされてる。そんな日はよくないね」

「夢でって…」

「最近ね…お父さんの事かわいそうだな、って思う時がある」

「かわいそう…?」

「うん。かわいそう。めーっちゃくちゃむかつくし腹がたつけど、かわいそうだからもっと嫌。お父さんも戦士なのにね。戦いなら殴られたら殴り返すのにさ、殴られると殴られっぱなしで、自分より弱い人しか殴れないのね。」


カイは黙る、そうなのだと知っているから。


「…」

「ほんとむかつく。」

「…」

「カイの大事なおねーちゃんの顔をさ!」


にやっと笑うサラ。ふいうちの冗談にカイは顔があつくなった。


(なんだこれ??病気か??)

「はあっ?!ぶっ…」


ぐごー


シュリのいびきが響き渡る。突然の間抜けな音に、カイとサラは目をあわせ、そして爆笑する。


「今日、シュリの竜巻見た時、めちゃくちゃ興奮しなかった??」


両手をにぎりしめてサラが鼻息をあらげる。


「なんかさ、負けねええええ!!って」


感情をこめて負けねーのジェスチャーをするサラに、カイも思わずわらう。


「うん。」


同じことを思う二人の立場は違う、この夜が終わるのが、三人は嫌だった。


シュリは退屈すると寝ます。


種と属性魔法

荒地の民

 鷹人 風・雷

 馬人 土・水


竜種 

 竜人 全属性(威力 カス)


その他 

 ニンフ 水属性(回復魔法) ※レタさん


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