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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第10章 貧乏性と一攫千金
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099 通路03

 扉の前に立つ二人の男。カジノで見かけたディーラーと似たような小ざっぱりとした身なりではあるが、二人とも腰に剣を携えている。柄は使い込まれて古ぼけており、彼らがかなりの腕前だと推察できる。


「そこをどいてくれないか。奥から悲鳴が聞こえたんだ」

「気のせいでしょう。どうぞお引き返しください」


 まるでそういったマニュアルでもあるように、黒服の一人は淀みなく返す。


「確かに人の声だったぞ。中を確認させてくれ」

「おい。引き返せって言ってんのが聞こえねえのか?」


 なおも食い下がるアルに、今度はもう一人の男が野太い声を響かせた。

 服の上からでも分かる盛り上がった筋肉。並の人間であれば、彼が腕を軽く薙ぐだけで骨の二、三本は折られ、はるか後方まで吹き飛ばされることだろう。

 だが彼にとって非常に残念だったのは、相手が並の人間ではなく、魔王だったということだ。


「それが人に物を頼む態度か?」


 アルは相手の目をじっと見据える。


「いいか。人に何かを頼むときは誠心誠意、つまり心を込めて頼むものだ。それがあってこそ相手は構えることなく素直に聞き入れ、互いの心同士が繋がり……」

「だああああ! うるせえっ!」


 口上の途中で男が声を上げる。アルは多少むっとしたものの、動きはない。

 しかし――


「おい、兄ちゃん。言うこと聞かねえならぶっ殺――」


 瞬間。男たちが横手の壁へと勢いよく吹き飛ばされる。男たちは全身を強打し、折り重なるようにして床に倒れ込んだ。

 どうやら気絶したようで、小刻みに痙攣しながらぐったりと横たわっている。


「……やりすぎじゃないですか?」

「このくらいなら構わんだろう。レインだったらもっとひどいぞ」

「そ、それもそうですね……」


 扉には鍵がかかっていたが、アルが炎球の魔法でノブを溶かす。扉は軋んだ音を立てて奥側に開いた。

 中へと足を踏み入れた二人の目に飛び込んできたのは――


「な、なんだお前たちはっ?」


 無数の檻と、そこに囚われた何人もの少女たち。そして今まさに檻に入れようと少女の髪を掴む、腹の出た中年の男。男も他と同様の黒服に身を包み、突然現れたアルとシスタノの姿に驚いているようだ。

 檻の中の少女たちは着るものを奪われ、裸の状態で閉じ込められている。


「アルさん、見ちゃ駄目!」

「む?」


 正面から両手でアルの目を隠し、シスタノは顔だけ振り返って室内の様子を確認する。カジノよりひと回り大きな空間に檻が四つ。それぞれ二、三人程度の少女が入れられ、そのほとんどがぐったりと俯いている。

 裸の少女たちの首には番号が記されたプレートが提げられ、シスタノでなくともこの場所の意味を理解することは易そうだ。すなわち――


「……人身売買ってやつですかね」


 ぽつりと零したその言葉に、何人かの少女が反応した。


「た、助けて! 助けてくださいっ」

「お願いだからここから出してっ」

「助けてよお……」


 明日をも知れない自身の境遇。彼女たちはシスタノに必死に訴える。涙を流し、檻から手を精一杯伸ばしている。その手を握ってもらえさえすれば救われるとでもいうように。


「侵入者め! ワシがこの手で始末してやるっ」


 男は掴んでいた少女の髪を放り出し、腰の剣を抜く。しかしどう見ても先ほどの見張りたちより弱そうだ。腹を揺らしながら威嚇する彼を見やり、シスタノはアルの顔から手を離した。


「いいですか、アルさん。わたしが合図するまで絶対に目を閉じててくださいね」

「分かった」


 そしてシスタノは太った男へと振り返り、自らも剣を抜く。

 誰よりもアルやレインの近くにいた。誰よりも彼らの戦いを見てきた。誰よりもその強さを感じてきた。だから自分も、そうありたいと願っていた。


「わたしだって成長してるんです。見ててください、アルさん。目を開けずに」

「無茶を言うな」


 そしてシスタノは男へ向かって地を蹴る。


 その頃、カジノでは――


「あらあら。また負けちゃったわねえ」

「あんたねえ! 出てきた時の真打ち登場的なオーラはどこ行っちゃったのよっ」


 レインに続き、ディモルがボロ負けしていた。


「もうお金ないわよっ? あんたが勝つと思って大枚叩いたのにどうすんのよ!」

「うふふ。それは困ったわねえ」

「うふふじゃないわよ! なんで楽しそうに笑ってんの、あんたはっ」


 国王から賜った大金がわずかな時間で消え失せてしまった。半泣きのレインに、しかしディモルは頬に手を当てて楽しそうに微笑むばかりだ。


「でもねえ、れーちゃん。これは勝てなくて当然なのよ?」

「言い訳しないで!」

「言い訳じゃないわよう」


 そして正面に立つディーラーを見やり、ディモルは言う。


「だってあの人、ズルをしてるんだもの」

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