099 通路03
扉の前に立つ二人の男。カジノで見かけたディーラーと似たような小ざっぱりとした身なりではあるが、二人とも腰に剣を携えている。柄は使い込まれて古ぼけており、彼らがかなりの腕前だと推察できる。
「そこをどいてくれないか。奥から悲鳴が聞こえたんだ」
「気のせいでしょう。どうぞお引き返しください」
まるでそういったマニュアルでもあるように、黒服の一人は淀みなく返す。
「確かに人の声だったぞ。中を確認させてくれ」
「おい。引き返せって言ってんのが聞こえねえのか?」
なおも食い下がるアルに、今度はもう一人の男が野太い声を響かせた。
服の上からでも分かる盛り上がった筋肉。並の人間であれば、彼が腕を軽く薙ぐだけで骨の二、三本は折られ、はるか後方まで吹き飛ばされることだろう。
だが彼にとって非常に残念だったのは、相手が並の人間ではなく、魔王だったということだ。
「それが人に物を頼む態度か?」
アルは相手の目をじっと見据える。
「いいか。人に何かを頼むときは誠心誠意、つまり心を込めて頼むものだ。それがあってこそ相手は構えることなく素直に聞き入れ、互いの心同士が繋がり……」
「だああああ! うるせえっ!」
口上の途中で男が声を上げる。アルは多少むっとしたものの、動きはない。
しかし――
「おい、兄ちゃん。言うこと聞かねえならぶっ殺――」
瞬間。男たちが横手の壁へと勢いよく吹き飛ばされる。男たちは全身を強打し、折り重なるようにして床に倒れ込んだ。
どうやら気絶したようで、小刻みに痙攣しながらぐったりと横たわっている。
「……やりすぎじゃないですか?」
「このくらいなら構わんだろう。レインだったらもっとひどいぞ」
「そ、それもそうですね……」
扉には鍵がかかっていたが、アルが炎球の魔法でノブを溶かす。扉は軋んだ音を立てて奥側に開いた。
中へと足を踏み入れた二人の目に飛び込んできたのは――
「な、なんだお前たちはっ?」
無数の檻と、そこに囚われた何人もの少女たち。そして今まさに檻に入れようと少女の髪を掴む、腹の出た中年の男。男も他と同様の黒服に身を包み、突然現れたアルとシスタノの姿に驚いているようだ。
檻の中の少女たちは着るものを奪われ、裸の状態で閉じ込められている。
「アルさん、見ちゃ駄目!」
「む?」
正面から両手でアルの目を隠し、シスタノは顔だけ振り返って室内の様子を確認する。カジノよりひと回り大きな空間に檻が四つ。それぞれ二、三人程度の少女が入れられ、そのほとんどがぐったりと俯いている。
裸の少女たちの首には番号が記されたプレートが提げられ、シスタノでなくともこの場所の意味を理解することは易そうだ。すなわち――
「……人身売買ってやつですかね」
ぽつりと零したその言葉に、何人かの少女が反応した。
「た、助けて! 助けてくださいっ」
「お願いだからここから出してっ」
「助けてよお……」
明日をも知れない自身の境遇。彼女たちはシスタノに必死に訴える。涙を流し、檻から手を精一杯伸ばしている。その手を握ってもらえさえすれば救われるとでもいうように。
「侵入者め! ワシがこの手で始末してやるっ」
男は掴んでいた少女の髪を放り出し、腰の剣を抜く。しかしどう見ても先ほどの見張りたちより弱そうだ。腹を揺らしながら威嚇する彼を見やり、シスタノはアルの顔から手を離した。
「いいですか、アルさん。わたしが合図するまで絶対に目を閉じててくださいね」
「分かった」
そしてシスタノは太った男へと振り返り、自らも剣を抜く。
誰よりもアルやレインの近くにいた。誰よりも彼らの戦いを見てきた。誰よりもその強さを感じてきた。だから自分も、そうありたいと願っていた。
「わたしだって成長してるんです。見ててください、アルさん。目を開けずに」
「無茶を言うな」
そしてシスタノは男へ向かって地を蹴る。
その頃、カジノでは――
「あらあら。また負けちゃったわねえ」
「あんたねえ! 出てきた時の真打ち登場的なオーラはどこ行っちゃったのよっ」
レインに続き、ディモルがボロ負けしていた。
「もうお金ないわよっ? あんたが勝つと思って大枚叩いたのにどうすんのよ!」
「うふふ。それは困ったわねえ」
「うふふじゃないわよ! なんで楽しそうに笑ってんの、あんたはっ」
国王から賜った大金がわずかな時間で消え失せてしまった。半泣きのレインに、しかしディモルは頬に手を当てて楽しそうに微笑むばかりだ。
「でもねえ、れーちゃん。これは勝てなくて当然なのよ?」
「言い訳しないで!」
「言い訳じゃないわよう」
そして正面に立つディーラーを見やり、ディモルは言う。
「だってあの人、ズルをしてるんだもの」





