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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第09章 東の魔王
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093 ディモルフォセカ08

 ガローゼオと魔王城のちょうど中間地点――シスタノとディモルが出会ったあの丘から、アルとディモルは目下に広がる草原を見下ろしていた。


「そもそも魔物をけしかけたのはあたしじゃないからね」


 頬をぷうっと膨らませるのはディモル。どうやらガローゼオの現状を自分のせいにされたことが気に入らないらしい。

 そんな彼女を横目で見やり、アルは「そうか」とだけ返答した。


「だってあたしは可愛いものが好きなのに、なんで魔物みたいな可愛くないものと関わらなきゃいけないのよう。それっておかしいでしょう?」

「そうだな。どうせエンダナあたりが差し向けたのだろう」


 あの女ならやりそうなことだ――アルは目を閉じて頷いてみせる。もちろん彼女がそうした理由までは知ったことではないのだが。


「レインたちがガローゼオに移動するまでには片付けよう」

「うふふ。あーちゃんなら信じてくれると思ったわ」


 レインとシスタノは、ディモルの転移魔法によってすでにガローゼオに向かっている。シスタノの貧血症状が尋常でないため、ガローゼオであれば適切な救命処置が取られるであろうこと、そして魔王城からの長い距離を彼女に歩かせるわけにはいかないことから、転移魔法の出番と相成ったわけだ。

 魔法での移動であれば、実際に二週間以上かかるとはいえ体感としては一瞬だ。


「しかしまあ、よくあれだけの魔物が一斉に動いたものだな」

「統率者が不在だというのにねえ。洗脳でもされているのかしら」

「あながち間違いとも言えんな。エンダナなら可能だろう」


 ここで詮索を続けたところで自分たちのやることは変わらない。アルはふうっと息を吐き、手のひらの上に収まる大きさの魔法球を出現させた。ディモルも同様に同じものを発動する。


「では始めるか」

「うふふ。可愛くないものを消していくのは何だか楽しそうねえ」


 二人は丘の下の魔物に向かって大きく跳躍した。


 レインとシスタノがガローゼオに転移すると、そこはギルドの横手の路地裏――シスタノと決別したあの場所だった。確かにここなら人目に付かないが、いろいろと気まずい雰囲気が漂うのは否めない。

 とはいえ、それも過去のことだ。二人が大通りへと顔を出すと、街は盛大な盛り上がりを見せていた。

 初めて訪れた時には誰もが沈んだ顔をして、明日をも知らない恐怖に怯えていたものだが、今はそんな空気はまるでない。それが何故かなんて誰かに訊かずとも、二人はその理由を知っていた。


「どうやらやってくれたようね、あの二人」

「そうみたいですね。ディモルさんは本当に力を貸してくれたんですね」


 街の住民が浮かれたように盛り上がる理由――それはもちろん、アルとディモルによって魔物が殲滅されたからだろう。ディモルがアルを手伝うと名乗り出た時は半信半疑だったが、どうやらそれは杞憂に終わったらしい。


「……でもどうしよう。ディモルを仲間に入れるなんてまったく想像できないわ」


 三人の仲間として迎え入れてほしい――ディモルはそう言った。それがよく熟考してのことなのか、それともただの思い付きなのか、それすらも分からない。常に笑みを絶やさない彼女の表情からは、本心はうかがい知れないのだ。


「まあそれは後回しにしましょうか。まずはシスタノの治療をしなきゃね」

「すみません。迷惑をかけてばかりで……」


 深々と頭を下げるシスタノに、レインは首を振る。


「シスタノ。あなたは私たちの仲間よ。だからあなたがかけたのは迷惑じゃなくて心配よ。それもまあ、こうして生きて戻ってきてくれたんだから良しとするわ」

「レ、レインさん……。ありがとうございますっ」


 再び頭を下げるシスタノの肩に、レインはそっと手を置く。何か気の利いたことでも言おうと口を開けた、その時だった。


「あらあら。美しい仲間愛ね。感動しちゃうわ」

「うわあっ!」


 気配もなく背後から声をかけてきたのはディモルだった。その後ろにはアルの姿もある。二人は魔王城の時とまったく変わらない――怪我も服の汚れもない風体でもってレインたちを見つめている。


「ちゃんと約束を守ってくれたのね、ディモル」

「うふふ。もちろんよ、れーちゃん」


 彼女への不信感はまだ完全に拭えたわけではないが、とりあえず今回はしっかり仕事をこなしてくれたようだ。


「それでね、れーちゃん」

「……私はまだあんたを仲間に入れる気はないから」

「あたしね、ここの国王さんから魔物をやっつけたお礼を貰っちゃったのよ」

「いや、私の話を聞きなさいよ」

「でもあたし、人間のお金ってよく分からないのよね。使い方っていうより必要性のことなんだけど。だから全部れーちゃんにあげるわ」

「ようこそ、ディモル! あんたは今から私たちの仲間よっ」


 レインの横でシスタノが「ええ……」とジト目を向けているが、とりあえずそれは気付かない振りをする。所持金が底を尽きかけているレインにとって、シスタノの視線なんて瑣末なことだ。


「そんな基準でいいんですか、レインさん……」

「いやあ、最初からディモルはいい人だなって思ってたのよ。人じゃないけど」

「あらあら。それじゃあこれからよろしくね、れーちゃん」


 横暴とも取れるレインの決定に、シスタノは目眩を起こしそうになる。

 ここは放っておいてとりあえず治療院に行こう――盛り上がるレインとディモルから目を背け、シスタノは一人、盛大なため息を漏らすのだった。

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