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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第09章 東の魔王
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084 シスタノ03

 目の前には広大な青空が広がっていた。

 どうやら気を失っていたらしい。ぐるぐる回る頭に顔をしかめながら、レインはゆっくりと上体を起こす。


「……うえ、気持ちわる」

「ようやく起きたか、レイン」


 降る声を見上げると、すぐ近くに腕を組んだアルが佇んでいた。


「あんたねえ……。どんだけ全速力で走ってんのよ」

「舐めてもらっては困る。あんなものは全力の半分以下だぞ」

「はいはい」


 立ち上がろうとするが両足が体重を上手く支えきれない。倒れそうになるレインをアルはすばやく腕だけで抱きとめた。


「あ、ありがと」


 そのままアルの肩に掴まり、周囲へと視線を巡らせる。


「シスタノは?」


 二人はシスタノの行く手を遮る形で移動していたはずだ。しかし彼女の姿はどこにも見当たらない。もしかするとまだここまで辿り着いていないのかもしれない。

 しかしアルはそんなレインの疑問にあっさりと、


「もう行ったぞ」


 昨日の天気を話すように、事もなく言ってのける。


「え、行ったって……、先に?」

「そうだ。ずっと足止めしていたんだがな。お前がなかなか目を覚まさないから先に行かせた。ずっと待っていてもらうのも悪いからな」

「悪いのはあんたの頭でしょうが!」


 これでは何のためにつらい思いをしてまで急いだのか分からない。

 若干涙目になりながら怒鳴るレインを見やり、アルは「まあ待て」と彼女の顔を手のひらで押し返す。


「シスタノがここを発ったのはおよそ一時間前。徒歩でだ」

「いや、馬で移動してたでしょう」


 アルの手を押しのけながら反論するレインに、しかしアルは動じない。


「あいつを足止めしていたと言っただろう。そのとき馬にまで気が回らなくてな。いつの間にかどこかに走り去ってしまったようだ」

「じゃあシスタノは本当に徒歩で魔王城に向かったのね?」

「そう言っている」


 なるほど。それなら今から追いつくことも十分可能な範囲だ。一時間のハンデは痛いが、それでも馬で去られるよりはいい。

 問題は彼女がどのくらいの速度で移動しているか。そして自分のコンディションである。多少マシになったとはいえ、それでも今の状態で先程のように全力で走るのはまず不可能だろう。


「ちょっとずつでも追いかけないと、差は広がるばかりね」

「そういうことだ。またオレの肩に乗っていくか?」

「……ごめん。それはパス」


 もう二度とアルに担がれないようにしよう――そう誓うレインだった。


 一方、シスタノは――


「はあっ、はあっ……」


 背の低い丘を越えた辺りで、人ひとりがちょうど収まる窪みにひざを抱えて座り込んでいた。

 魔物に斬り裂かれた左腕の傷からは、回復の魔封石を使用した今も少量の血液が流れ出ている。よく見れば身体中のあちこちで裂傷や打撲が彼女の白い肌を赤黒く染め、意識と体温を徐々に奪いつつあった。


「マズいなあ……。このままじゃ倒れちゃう……」


 すでに視界は白く濁り始め、その向こうに星がチカチカと瞬いて見える。彼女の心をいま繋ぎ止めている感情はたったひとつ――憎悪だ。


「こんなところで寝てなんていられないよね……。わたしは魔王を……、西も東もまとめて討たなきゃいけないんだから……」


 そうは言っても傷だらけのこの身体ではもう、まっすぐ歩くことも難しそうだ。


「…………」


 ついに独り言すら発しなくなったシスタノは、目を閉じて意識を手放し――


「あらあら。こんな所でお昼寝かしら?」

「……ふあっ?」


 突然の――魔物だらけのこんな場所で耳にすることなどありはずがない人間の声に驚いて再び目を開ける。窪みの前。そこには純白のワンピースを着た女が一人、小首を傾げて物珍しそうにこちらを見下ろしていた。

 二十歳を過ぎたくらいだろうか。艶のある長い黒髪に、垂れた大きな瞳。微笑を浮かべながら、胸の前で両の手のひらを叩くと、


「なんだか楽しそうね。あたしも混ぜてもらっていいかしら」

「い、いや。これは別に楽しんでいるわけでは……」


 起き上がろうとするが、足に――全身に力が入らない。


「うーん。ひょっとして疲れちゃってる?」

「……まあ、それなりに」


 すると女は両手で口を覆い、驚いた様子を見せる。

 普通、これだけ全身血だらけになった人間に出会ったら真っ先にその反応をすると思うのだが、どうも彼女には少しばかり常識が足りていないらしい。


「あらあら、それは大変じゃないの。それじゃああたしのお家にいらっしゃいな。手当てをしてあげるから」


 そう言って、謎の女はシスタノへと手を差し出すのだった。

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