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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第09章 東の魔王
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079 ガローゼオ03

 冒険者ギルドの受付嬢――ジュディは語る。


「じ、実はここ最近、魔物の侵攻が目に見えて激しくなってきていまして。見回りの兵士の数を増やしたり交替で一日中周囲を警戒したりの手を打ってはいるんですが、魔物の数が多すぎて対処しきれていないんです」


 国王ヴァレオンはギルドを介して冒険者を多く募っているという。割の良い報酬が提示されているため志願者は次々と現れるのだが、彼らが予想する以上の激務に辞めていく者も多いらしい。

 この状況が続くようであれば、隣国シュティーリアに応援を要請しなければならないほどの事態であるという。


「たった一日や二日で辞めちゃうなんて冷やかしと同じです。なので魔物の討伐に限定してクエストを探しているあなたたちも、てっきりそういう人なのかと勘違いしてしまいまして……。本当にすみませんでした」


 深々と頭を下げるジュディを見やり、レインは頭を掻く。


「いやまあ、そういうことでしたら……」

「そう悲観するな、ジュディ。レインはどれだけ腹を立てていても一晩眠れば綺麗さっぱりすべて忘れる便利な頭の持ち主なのだからな」

「あんたは黙ってなさい」


 慣れた動作でアルの脇腹に肘鉄を叩き込むレイン。それを見て短く悲鳴を上げるジュディだったが、まるで効いていないふうの涼し気なアルに、それ以上の反応は示さなかった。


「とにかく一日中外を歩き回って、魔物が現れたら全部倒せばいいんですね?」

「あ、いえ。お仕事は半日です。朝から夕方までの班と夕方から明け方までの班に分かれて、交互に任務に着いていただきます」


 なるほど、まあ普通の人間であればそうなるか――数日間アルを不眠不休で徘徊させようと目論んでいたレインは納得する。ともすればレインとシスタノで半日、アルが一人で半日という編成で回すのがいいだろうか。

 手持ちの金が尽きるであろう二日後に一度それまでの報酬を貰い、その金で滞在しながらまた数日見回りの仕事をすれば、少しずつではあっても所持金はプラスに傾くだろう。


「分かりました。ではその依頼を受注します」


 テーブル脇のペンを手に取り、レインは頷く。


「では詳しい内容を説明しますね」


 テーブルの下からクエストの依頼書を取り出してレインの前に置くと、ジュディは事務的に話し始めた。


「この国の現状は先ほどお話させていただいたとおりです。魔物たちによる昼夜を問わない執拗な攻撃に騎士や兵士、冒険者たちは日に日に疲弊し、国民たちの安寧が脅かされています」

「騎士隊まで? それって本当にまずい状況じゃないですか」


 王を守るための騎士隊の力が弱まるということは、王自身が危機に陥っているということ――つまりは国そのものが魔物の脅威に晒されているのである。いま城に魔物が侵攻してこようものならひとたまりもないだろう。


「そうなんです。倒しても倒しても魔物は次々と現れます。この国は防戦一方で、敵の本陣に攻めこむ余力はもうありません。なので皆さんには……」

「ちょ、ちょっと待って」


 ジュディに慌てて待ったをかけるレイン。


「今、本陣って言いました?」

「ええ、言いましたけど」

「それって魔物たちを指揮している誰かがいるってことですよね」


 本来、魔物が群れることはほとんどない。そのため数多くの魔物が一斉にこの国に侵攻してくること自体が異常だったのだが、それを指揮している人物、もしくは統率する知能を持った魔物がいるとなれば話は別だ。


「いや……、だけど国の存続を脅かすほどの魔物を指揮するって、普通に考えたらありえない話だし……。そんなとんでもない存在がいるはず――」

「――いますよ」


 ジュディは言う。


「ここから北東に進むと広大な花畑が広がる土地があります。その花畑に囲まれた大きな城――そこに『彼女』はいます」

「彼女?」


 眉間にしわを寄せるレイン。彼女ということは人間だろうか。

 その名を口にすることすら躊躇われるかのように顔をしかめ、ジュディは言う。


「魔王です」


 魔王――その言葉に戦慄が走る。

 思わず振り返るが、アルはいつもと変わらず澄ました様子だ。


「え、でも……。魔王って……」


 魔王ならここにいるじゃない――そう言いたいのをぐっと堪える。

 魔王アルヴァリオス――失くした記憶を取り戻すため、レインと行動を共にしている新米魔王である。魔王になって三年ほどの記憶しか持っておらず、彼の腹心だというエンダナが深く関係しているとレインは睨んでいる。

 彼女にとって魔王はアルただ一人であり、他にそう呼ばれる存在など聞いたことがない。

 しかし――


「ああ、あいつか」


 事もなく、アルはそう零すのだった。


「ちょっと、アル! あんた知ってんのっ?」

「知ってるぞ。名前までは知らないが、東の魔王と呼ばれる女は確かにいる」

「もっと早く言いなさいよ!」

「言う機会がなかったからな」


 確かにアルの言うとおりだ。そもそも存在自体を知らないのだから、東の魔王について訊くことも話題に上ることもあるはずがない。


「じゃあ魔物の攻撃を終わらせるには東の魔王に会わなくちゃいけないの……?」


 軽い気持ちで引き受けたクエストだったが、思わぬ黒幕にレインは目眩を覚えるのだった。

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