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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第07章 たたかうおっさん
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064 奇跡の茸02

 布で顔を覆った覆面店長エグバート――オクビョーマスクが経営する仮面カフェの店頭で騒ぎ立てる輩は全部で三人。どれも言ってしまえばチンピラである。

 大声でクレームとも呼べない罵詈雑言を繰り返す彼らを眺め、列を成す客たちは不安そうに顔を歪めていた。


「おうおう、この落とし前どうつけてくれんだ? ああん?」

「こりゃあもう店を畳むしかねえな!」

「違いねえぜ! 客のことを思うならさっさと店をやめちまえっ」


 言いたい放題の男たち。しかしそんな彼らの猛攻撃も長くは続かなかった。


「ねえ、あんたたち」


 後ろから肩を叩かれてチンピラのひとりが振り返ると、そこには剣と軽鎧を身にまとった少女の姿があった。長いブロンドの髪を後ろでひとつに縛った可愛らしい少女である。


「なんだ姉ちゃん、いま忙しいんだからあっち行ってろよ」

「残念ながらそうもいかないのよ。私はここの店長さんに用事があるんだから」


 そこでようやく頭を上げたエグバートは声の正体に気付く。


「レ、レインシーさん!」

「こんにちは、オクビョーマスクさん。あなたに訊きたいことがあるんです」

「おうおう、姉ちゃん! 割り込んでくるんじゃ――」


 レインの肩を掴もうとした瞬間、チンピラが宙を舞った。空中で一回転半して頭から地面に落ちる。何が起こったのか分からず、他のチンピラたちは倒された仲間とレインとを交互に見やるのだった。

 実際はチンピラの力を利用して前方に放り投げただけなのだが。


「て、てめえ! 邪魔するんじゃねえよっ」

「いや、ちょっと待て……。たしかこいつ、レインシーとか呼ばれてたぞっ」


 レインシー・カイルガイル――今やこの国中の人間が知っている大英雄である。


「まずい! テオ坊っちゃんに報せないとっ」

「こ、これで終わったと思うなよ!」


 倒れたままの仲間を両端から支え、チンピラ三人衆はいそいそと逃げていった。そんな彼らを冷めた目でしばらく眺めていたレインはふうっと息を吐いて振り返ると、再び深く頭を下げているエグバートを見下ろした。

 これ以上待ち時間が長引くと客たちが怒り始めるかもしれない――レインは単刀直入に問いかける。


「エグバートさん。私たち、あなたの依頼したクエストを見て来たんですけど」

「ああっ、見てくれましたか。ありがとうございますっ」

「クエスト内容に書かれていた、あなたの知らない食材って何ですか?」


 レインの問いに、エグバートは「なんだ、そんなことですか」と笑う。


「ワタシが名前だけ知っていて、見たことのない食材です」

「……それは何ですかと訊いてるんですが」


 自分の視点で答えられても、こちらとしては何も分からない。エグバートが何を知っていて何を知らないのかもまるで分からないのだ。

 苛立ち始めたレインの様子に気付いたのか、エグバートは途端に慌てだす。


「こ、この国周辺で手に入るものはひと通り知ってます。名前を知っているものはすべて見たことがありますし、お菓子の材料として使ってみたこともあります」

「…………」


 だとしたらもう東の隣国ガローゼオまで足を伸ばすしかない。もちろんその間に宿代は尽き、帰ってきた頃には宿の外に荷物が放り出されていることだろう。

 仮に持ち帰ったものが正解でエグバートが知らない食材だったとしても、宿屋の女将さんから失った信用は元に戻らないし、不正解でエグバートの知っている食材だったとしたら宿屋に戻る金は手に入らず、あの母が待つ実家に帰らざるを得ない状況に陥ってしまう。


「ヤバい。めちゃくちゃヤバいわ……」


 天を仰ぐレイン。しかし天は彼女に何も授けてはくれなかった。


 ――と、落胆していたのだが。

 冒険者ギルドのクエスト斡旋係ミゲリアはレインの相談に笑って答える。


「ああ、今日はガローゼオからのキャラバンが来る日だから大丈夫じゃない?」


 東の隣国ガローゼオ――ここシュティーリアから馬車で一週間ほどの距離に位置する王政国家である。剣の修業にばかり明け暮れていたレインにはよく分からないのだが、どうやらふたつの国をいくつものキャラバンが行き来しているらしい。


「きっと特産品もいくつかあるはずよ。商業区の広場に来るから覗いてみなよ」

「ありがとう、ミゲリア! 恩に着るわっ」

「あはは。まさか英雄様から恩義を感じていただけるなんてね」


 カウンターに頬杖をつき、ミゲリアは歯を見せて笑う。


「おい、レイン。もう昼をだいぶ回っているぞ」

「急がないと売り切れちゃうかもしれませんよ」


 レインの後ろでアルとシスタノが声をかける。

 彼らの言うとおり太陽はすでに西の空へと傾き始めている。さすがに売り切れることはないと思うが、急ぐに越したことはない。


「じゃあね、ミゲリア。また来るわ」

「はいよ。あなたたち用に面倒なクエストを用意して待ってるわ」


 手を振って見送ってくれるミゲリアに手を振り返し、レインたちは商業区の広場へと向かうのだった。

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