059 約束03
ショートテイル・ワイバーンは通常種と比べ、魔法の力が強大である。
魔法の力というのは威力のみではない。魔法を行使するに当たってあらゆる能力が桁違いなのだ。例えばそれは魔法を連発する上で必要な精神力であったり、発動に必要な時間の短さであったりする。
とりわけこの個体は後者が抜きん出ているらしく、攻撃魔法を放った直後でも次の魔法を撃つことができるようだ。
「レインさんっ!」
シスタノの叫び声が洞窟内に響く。
爆発による黒煙が立ち昇る中、彼女のもとへと跳躍するひとつの影があった。
「あちあちあちあち!」
ひとつの影――レインは衣服を燃やそうと上がる火を片手で何度も叩きつつ着地を決めると、不格好に飛び跳ねながら消火を試みる。
「アル、水!」
「持ってきてないぞ。すまんな」
「レインさん、わたしがっ」
ザックの脇にぶら下げた水袋を引きちぎり、レインに向けてすべてぶち撒ける。
ようやく火の消えたレインはほうっと息を吐き――瞬時に脇に飛ぶ。一秒前まで彼女のいた場所にワイバーンの攻撃魔法が炸裂し、地面を大きく抉り取った。
「レインさん、大丈夫ですかっ?」
「当たる直前でアルが障壁を張ってくれたわ。まあちょっと被弾しちゃったけど」
まだ余裕がありそうなレインの返事に、シスタノは胸を撫で下ろす。
ワイバーンが魔法を連発できるのは脅威だが、しかしよく考えてみれば、こちらにも同じことを軽々とやってのける仲間がいるのだ。彼一人でワイバーンと対等に渡り合えるのなら、レインが加勢している分こちらが有利だとも言える。
「それにしてもいつ休憩すんのよ、あいつはっ」
次々と襲い来る魔法を交わしながらレインがぼやく。そろそろワイバーンも体力的に小休止があってもおかしくないのだが。
「おい、レイン。一度下がれ。オレが前に出る」
「駄目よ!」
アルの指示に、しかしレインは頭を振る。
「私がやらなきゃいけないの。お母さんと約束したんだから――私が兵士を助けて戻るって約束したんだから。あの人にみっともない姿はもう見せられない!」
その言葉に、シスタノはふと気付く。
レインとルナベスタ。そっくりな顔をして性格は正反対だと思っていたが。
あの母にしてこの娘あり――どちらも周りが引くほど頑固で、負けず嫌いで。
私情を押し殺して娘を戦地へと送り出すルナベスタの心の強さを、娘のレインもしっかり受け継いでいる。
ワイバーンがついに顔を上げ、息継ぎの姿勢を取る。
「今だ、レイン」
「だああああっ!」
レインの剣は今度こそ、魔物の首を真横に斬り裂いたのだった。
日が沈む前に、三人は街の教会へと戻ってきた。
アルが担いできた兵士はすぐに治療に回され、そこで初めて聖堂内に溢れ返っていた傷だらけの兵士たちが一人も残っていないことに気付く。大方、ルナベスタがまとめて癒やしたのだろう。彼女ほどの能力があればそれも可能だ。
「レイン、あんたはまた……」
帰ってきた娘の姿を見やり、ルナベスタは嘆息する。
衣服のあちこちに焼けた跡。腕や足も黒く煤けて火傷も散見される。お仕置きを執行してからまだ一日も経っていないというのにこの有り様。ルナベスタは頭痛を堪えるようにこめかみを指で押さえた。
「また約束を破ったわね」
「ご、ごめんなさい……」
ひたすら縮こまるレインに、ルナベスタは救助された兵士が運ばれていった方を見やる。我が子は自分の危険を顧みず、傷ついた兵士を助けてくれたのだ。
ルナベスタはふっと微笑み、レインの頭を抱き寄せた。
「……よくやったわ」
「うん……、うん」
「たまには家に帰っていらっしゃい。今のところはそれで許してあげる」
そしてルナベスタはアルへと視線を移す。
アルは臆したりせず、その視線を真っ向から受け止めている。
「アルさん。あなた、出身は?」
「さあな。魔王城以前の記憶がないんだ」
「そう……」
ルナベスタはすうっと目を細め、アルを見つめている。
「何だ?」
「……いえ、なんでもないわ。うちの娘をよろしくね」
「ああ、任せておけ」
アルが頷く。それからルナベスタは胸に抱いたままの娘にこっそりと呟いた。
「アルさんって無鉄砲なあんたにはぴったりかもね」
「は、はあっ?」
驚いて顔を上げるレインを見下ろし、母は意地悪そうに笑う。
「家に帰ってくる時は彼も連れていらっしゃい。一緒に食事でもしましょう」
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