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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第06章 頑固母娘の約束
57/150

057 約束01

「アル、あんた馬に乗れる?」

「乗ったことがないから分からんな」


 レインの問いにアルは肩をすくめてみせる。

 実際そうなのだろうが、アルならもしやと期待する反面、馬の方が彼を怖がってしまうのではないかという懸念もあった。まあ馬のような繊細な動物であれば後者の確率が高いわけだが。

 しかしだからといって走って追いかけるような馬鹿げた真似はできない。

 すると知恵を絞るレインに手を挙げる少女がいた。


「レインさん、わたし乗れます!」


 いつものようなおどおどした様子はなく、胸を張って腕をぴんと伸ばしている。よほど乗馬に自信があるのだろう。


「じゃあシスタノは私を乗せて馬で行きましょう」

「おい、レイン。オレはどうすればいい?」

「あんたは走ってついてきなさい」

「分かった」


 アルが走る姿なんて一度も見たことがなかったが、魔王たる彼のことだ。どうせレインたちを振り切る勢いで走れてしまうのだろう。加えて先日のダンジョン探索でよく分かったが、彼は魔力のみならず体力も無尽蔵だ。どれだけ馬を飛ばしても平気な顔をしてついてくるに違いあるまい。

 レインは大通りを走って街門の傍の貸馬屋に駆け込むと、腰から下げていた小銭入れを手に取った。


「おじちゃん! 一頭貸してっ」

「おお、レインちゃん。なんだか外が騒がしいようだけど何かあったのかい?」


 店の奥から人の良さそうな中年の男が顔を出す。


「それはまた今度話すわ。とにかく急いで一頭貸してほしいのっ」

「別に構わないけど……。でも馬に怪我をさせないようにね。わはは」


 主人はちょっとした冗談のつもりで言ったのだろうが、今の状況ではとても笑えない。レインはおもむろに小銭入れを店のカウンターに置くと「じゃあ勝手に借りてくから!」と踵を返した。


 街を出ると道はふたつに分かれている。

 西側の道は魔物研究家であるグニーと彼女の妹ターニャが住まう名も知らぬ村に繋がっており、さらに進めばレインのかつての戦友、オーギュスやヒルダ、グタが今も滞在しているであろうイボンの村、そして魔王アルヴァリオスの城に辿り着くことができる。

 東側の広い道は隣国ガローゼオに続いていて、毎日朝から晩まで行商の荷馬車がひっきりなしに出入りしている。

 三人が向かうのはそのどちらでもなく、魔物が飛んでいったという北の山脈だ。


「アル、魔物の場所は分かる?」

「ここからではさすがに分からないな。もう少し進んでみないことには」

「じゃあとりあえず北にまっすぐ進んでみましょう。アルは何か分かり次第、私に教えて」

「分かった」


 今はとにかく進むしかないようだ。レインは手綱を握るシスタノに指示を出し、馬を前進させる。馬は徐々にスピードを上げ、みるみるうちに山の麓が迫る。

 振り落とされないよう当初は必死にシスタノの腰に腕を回していたレインだったが、あまりの揺れのひどさに次第に気分が悪くなる。母から受けた尻の痛みも悪化して、「これはもういっそのこと落馬した方が楽なのではないか」なんて考えまで浮かんでくる始末だ。


「シ、シスタノ……。ちょっと止めて……」

「はい? 何か言いました?」

「だから、と、止めて……」

「そうですね。まだ魔物の痕跡らしいものも見当たりませんし、もうちょっと先に進んでみましょうか」


 レインの訴えはシスタノに届くことはなく――疾走は前方にアルの姿を見つけるまで続いた。

 恐らく以前彼が話していた高速移動の魔法あたりを使ったのだろう。全身を細胞レベルで高速化させるため、生身の人間が使用するとあっという間に老化、衰弱死してしまうという危険な魔法だ。


「やっと来たか」

「アルさんっ? いつの間に追い越したんですか」


 馬上から声をかけるシスタノに、しかしアルは前方――山の麓へと視線を移して彼女に告げる。


「この山を西側から迂回するぞ。さほど高くない位置に洞窟が見える」

「洞窟ですか? 何も見えませんけど……」


 見えなくて当然だ。アルと同じ視野を持つ者がいたとすれば、それはきっと人間ではないのだから。


「ここからは道が険しくなる。シスタノ、馬はここに繋いでおけ」

「は、はい。分かりました」

「ついでにレインも一緒に繋いでおいても構わんぞ」

「え? アルさん、何を言って……って、わあっ!」


 肩越しに振り返ると、そこには憔悴しきったレインの姿。途中で落馬しなかったのが不思議なくらい弱ってしまっている。シスタノが身体を震わせた振動で、彼女の腰に添えられていたレインの腕がするりと外れ、体重が横に傾いていく。

 落ちる――シスタノが慌てて手を伸ばしたその時。


「おっと」


 落下するレインの身体をアルが抱きとめた。

 真っ青な顔色で浅い呼吸を繰り返すレインを見下ろしながらアルは問う。


「おい、レイン。魔物を倒す力は残っているか? なければここに置いていくが」

「……うっさいわね。残ってるに決まってんでしょうが」


 そう答える彼女の双眸は――双眸だけは、戦う意志をみなぎらせていた。

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