054 親心02
最後の最後まで準備や鍛錬を怠らない用意周到な母ルナベスタと、一度走り出したら最後まで突っ切る猪突猛進な娘レイン。血の繋がった母娘でありながら、二人の性格は相反している。顔の作りも長いブロンドの髪も同じだというのに。
「そういえば先日も郊外のダンジョンで無茶をしたみたいね」
ルナベスタは言う。
一見すると冷静な様子だが、その裏には溢れ出そうな感情を押し殺しているかのような雰囲気も伝わってくる。つまりは怒鳴りたいのを必死に堪えているわけで。
そんな母の気配に臆したレインはただただ背を丸め、小さくなっている。
「な、なんでそのことを……?」
「傷だらけになったあんたを治療したのが私だからさ。あの時あんたの仲間が教会まで呼びにきてね。わざわざ宿屋まで出向いて回復魔法を使ってあげたのよ」
そういえばあの時、気絶から目覚めたレインにアルはそう言っていた。名のある司祭に回復を頼んだ、と。ついでに言えば司祭からの伝言だという『目が覚めたらすぐ教会に来るように』との出頭命令も聞いたような気がする。
まあ司祭の正体に気付いたレインは聞かなかった振りをしていたのだが、まさかこうして無理やり連行されるなんて思ってもみなかった。
「大方魔王を倒したことで浮き足立っていたのでしょう。あれほど自分の力を過信するなと言っていたにも関わらずね」
「べ、別に過信なんて……」
「黙りなさい!」
ルナベスタの一喝で途端に口をつぐむレイン。きっと幼い頃からきつく躾けられてきたのだろう。母の一声は娘に反論の余地を与えなかった。
「約束を破ったあんたには罰を受ける義務がある」
「そ、そんな! それだけは……」
「さあ皆さん、娘にお仕置きの準備を!」
ルナベスタが声を上げると、奥に控えていたのであろう司祭や修道女がわらわらと姿を現す。そして腰を抜かすレインを一斉に押さえつけ、彼女が暴れないようにしっかりと手足を拘束した。
「や、やめて! やめてくださいっ」
「問答無用。約束を破ったあんたがすべて悪い」
瞬く間にレインは四つん這いの格好を取らされる。突き出した尻をルナベスタに向けている状態だ。その傍らには修道女がひとり何もせず立っており、レインの尻がルナベスタへと向いたところで――
「失礼します」
言うが早いか、おもむろにレインの下着を下ろしてしまった。
「いやああああ! み、見ないでええええ!」
それまで事の成り行きをじっと見守っていたシスタノはレインの悲痛な叫び声に慌てて目を背けるものの、アルは正面を――尻を出したレインを凝視したままだ。腕を組んだままぼうっと静観している。
「悪い子にはお仕置き。それは当然の躾けであり、親の責務よ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「さあ、お尻ぺんぺんの時間よ」
お尻ぺんぺん――親が子を膝に乗せて尻を叩くという、痛そうではあれどどこか微笑ましい様子を想像するところだが、この母は違った。組み敷かれた娘と十分に距離を取り、片手を突き出して魔法の詠唱を始める。
そして――
『ウィンド・シュート』
圧縮された空気の塊がレインへと奔る。
魔法は術者の魔力によって威力に差が出るものであり、だから最高司祭の代役を務めるほどの実力を持つルナベスタが放ったそれは、とても初級魔法とは思えない圧倒的な質量を持っていて。
「あぎゃああああ!」
しっかり踏ん張っていないと十人ほどの司祭たちがまとめて吹き飛びそうな衝撃が、寸分の狂いもなくレインの尻にヒットする。たまらず悲鳴を上げるレインに、しかしルナベスタは容赦をしない。次から次へと魔法を撃ち、そのすべてが実娘の尻を的確に痛めつけていく。
「死なない程度にやってあげる。あとで回復してあげるから我慢しなさい」
「だ、駄目っ、これ以上は……!」
「私が駄目だと言ったことをあんたはやったのよ。因果応報ね」
そして二十数回目の魔法が直撃した時、ついにレインは意識を失ったのだった。
ぐったりとして動かなくなったレインに修道女が下着を履かせると、司祭たちがそれを数人がかりで担ぎ上げ、ルナベスタのもとまで運ぶ。ルナベスタは娘の情けない姿を眺めて嘆息し、やがて再び魔法の詠唱を始めるとレインの尻に手を当てて回復魔法を行使した。
『ヒール』
先日ダンジョンから脱出したレインに使ったものより幾分ランクの下がる魔法である。もちろん瀕死だったあの時とは状況がまったく違うし、何よりルナベスタの魔力は他の司祭のそれを圧倒している。
真っ赤に腫れ上がった尻は見る見る間に元通りになっていった。
「この子を奥の部屋で寝かせておいてください」
「分かりました、ルナ様」
レインが司祭たちに担がれたまま奥へと消えていくのを見送って、ルナベスタは「さて」とアルたちに向き直った。
王国の司祭ルナベスタと魔王アルヴァリオスがついに対峙する。





