表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第05章 おとなのおんなのこ
51/150

051 かかと02

 朝の稽古を終えたシスタノが急いで帰宅する日が何日か続いた。

 アルは何も気にしていないようだが、レインには気がかりのひとつとして映っている。彼女の身に何かあったのかもしれない――そう考えると本人に訊いてみたくもなるのだが、もし他人(ひと)に言いたくないことだったらと躊躇してしまう。

 あれでもシスタノはアルとレインの立派な仲間なのだ。だから仲間同士で隠し事はなるべくしないでほしいとは思うものの、話したくないことのひとつやふたつ、誰にでもあるわけで。

 訊くべきかそっとしておくべきか――むしろただの勘違いという線もあるため、今日までレインは知らない振りを装ってきた。


「でも気になるわね……」

「何がだ?」


 レインのつぶやきにアルが反応する。稽古で走り回って汗だくのレインに対し、彼はいたって涼しい顔だ。稽古前とまったく変わらない姿で首を傾げている。


「シスタノよ。アルは気付かなかった?」

「彼女はいつもどおりの動きをしていたぞ。正面がガラ空きになるから剣を外側に薙ぐなと何度も注意しているんだがな」

「いや、そういうことじゃなくてさ」


 やはり彼は何も気付いていないらしい。シスタノが帰っていった方角を見やり、レインは言う。


「あの子、なんか最近妙に急いで帰ってない? 彼女がこんな早朝からやらなきゃいけないような用事なんて私には思い浮かばなくて」

「ふむ。オレたちには分からない、あいつだけの用事があるんだろう」

「うーん、そうなのかしら。なんか気になるのよねえ」

「おい、レイン。いくら仲間とはいえ、他人に干渉してほしくないことだってあるだろう。余計な詮索はするな。そのくらい人として常識だぞ」

「……あんたに常識を説かれると、ものすごく泣きたくなるわ」


 全身の力が抜けるのを感じながらレインはぼやく。

 ともあれ一度気にしだしたらずっと気になってしまうもので。


「よし、明日はちょっと尾行(つけ)てみよう」


 人としての常識なんてどこ吹く風とばかりに、レインはそう呟くのだった。


 そして翌日。

 汗だくのレインと涼しい顔のアル。いつもと同じ光景である。


「ふむ。今日はこのくらいにしておくか。おい、レイン。お前の剣さばきは速さに頼りすぎている節がある。もっと緩急をつけろ」

「うっさいわね。それができるならとっくにやってんのよっ」

「できないからと諦めているのならお前の剣はそこで終わりだ。これ以上の成長は見込めないだろうな」

「ああもう、分かったわよ! 明日は絶対あんたに一発入れてやるからねっ」

「うむ、その意気だ」


 稽古後の恒例となった舌戦(ぜっせん)を横目に、シスタノは剣を収めて二人に頭を下げる。


「お疲れ様でした。それではわたしはこれで……」

「ああ、うん。また明日ね」


 シスタノの背を見送ったレインは、彼女の姿が消えたと同時に同じ方向へと歩き始める。いつもはパンなどの軽食やタオルを詰め込んだ愛用のザックを持ってきているのだが、今日は尾行の邪魔にならないよう剣一本だけである。


「アル。あんたは宿に戻ってていいから」

「何を言う。仲間が関係していることならオレも行くぞ

「……あんた昨日、余計な詮索がどうとか言ってなかった?」

「気のせいだろう」


 凶悪な魔物が跋扈する魔王城に単身で辿り着くくらいに身をこなせるレインと、元より気配を感じさせないアル。尾行のスペシャリストとしても大成しそうな二人はシスタノに気付かれることなくあっという間に追いついた。

 近道だろうか、裏道ばかりを選んで通るシスタノ。しかし彼女が向かうその方向には憶えがあった。


「この方向ってまさか……」


 レインの声と共に視界がひらける。

 そのうち住宅街にでもなるのであろう、周囲には何もない広大な土地。その中央にぽつんと大きな建物がそびえている。王宮のような外観をしたそれは、先日アルが少々事件を起こした高級レストラン――ハンマーズである。


「やっぱり。なんであんな所にシスタノが一人で……?」

「ふむ。ひょっとするとあいつは料理人にでもなりたいんじゃないか? もしくはウェイトレスかもしれんが」

「いや、まさかそんな……」


 そう否定はするものの、違うと断言できないのも事実だった。

 自ら仲間入りを志願してきた彼女だったが、そうは言ってもまだ十三歳の少女である。将来の道を決めるにはまだ早すぎる気もするし、もっといろんなことに挑戦したい年頃でもあるだろう。

 道を選ぶということは、他の道をすべて諦めることだ――子供の頃レインにそう語ったのは彼女の母だった。あまり思い出したくもない記憶だったため、レインは慌てて(かぶり)を振る。


「む。裏口に回ったぞ」

「私たちも行きましょう」


 夕方開店のこの店は明け方に店を閉めている。そのためこの時間にはもう正面は施錠されており、だから従業員たちが出入りする裏口しか中に入るルートはない。

 まあそれでもこんな時間では従業員たちもとっくに帰宅してしまい、裏口も鍵がかかっていて入れないと思うのだが。


「……開いてたみたいね」


 建物の角の向こうから扉の閉まる音。シスタノが扉を開け中に入ったのだろう。


「どうする、レイン?」

「うーん。特に危険はなさそうだし、とりあえず少しここで待ってみましょう」


 さすがに魔物が出るような場所ではないし、少なくともシスタノは剣士だ。彼女の荷物の中には剣もある。怪我をするようなことはないだろうという判断だった。

 しかしそれからいくら待てどもシスタノは出てこない。いい加減痺れを切らしたレインはふうっと息を吐く。


「私たちも入ってみましょう」


 壁を背にして扉をそっと開ける。顔だけ出して中を覗くと、狭い通路がまっすぐ伸びているのが見えた。


「突き当たりに従業員の控え室があるぞ」

「そっか。あんたここの構造を知ってるのよね」


 アルの言葉に従って薄暗い通路を歩くと、その先には扉があった。

 耳を当ててみると、中からぼそぼそと何か話している声が聞こえる。


「……開けるわよ」

「うむ」


 ドアノブを回してそっと引くと――


「ぎっ、ぎゃああああ!」


 真っ白な顔に赤や青の隈取(くまど)り。

 ひと目で分かる。人間の姿をした魔物が、レインの目の前に佇んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ