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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第04章 新進気鋭の冒険者
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041 朱月石07

「まあ分からないことは、いくら考えても分からないものだ」


 投げやりなようでもあったがアルの言葉には納得せざるを得なかった。幸い人の気配もないようだし、ともすればここであれこれ頭を捻ったところで意味はない。

 いま優先させるべきは伝説の薬草、ヨジョ草の発見と採取である。


「今ひとつ釈然としないというか腑に落ちない部分はたくさんあるけど、今はそれに構っている場合じゃないってのも確かよね。いいわ。ここはアルの言うとおり、先に進みましょう」


 改めて周囲を見回すと、ここは大きな空洞のようだった。岩肌が剥き出しの壁は天井に向かうほど徐々に中心へと狭まっており、巨大なドーム状を形作っていた。

 出口は三ヶ所。内ひとつは階上への階段だろうから、残る二つの内片方が階下へと繋がる道である。もしくは階層はここで終わり、二つの出口がその先で繋がっているだけかもしれないが。


「アル、先に進むにはどこに行けばいい?」

「ちょっと待っていろ」


 アルが目を凝らす。

 以前、魔物研究家の姉妹が暮らす村で使った魔法である。視線を壁に反射させ、直線では見ることのできない死角まで見通すことができるという。

 しばらく顔の角度を微調整していたアルだったが、やがて「ふむ」と唸りレインへと向き直った。


「あちらへ行けば階下に繋がる階段がある。その隣りは階上への階段だな。あの道を進むと、ここほどではないが広い空間に出る。魔物は六体だ」


 それぞれの出口を指さし、ひとつずつ説明していくアル。やはりまだ下の階層はあるらしい。レインはがくりと肩を落とす。


「どうする、レイン? まずはこの階層をすべて調べておくべきだと思うが」

「そうね、まずはこの階層の広い空間に行きましょう。シスタノ、この先に魔物がいるらしいから、私とアルが戦っている間はアルから離れないでね」

「わ、分かりましたっ」


 彼女を安全な場所に置いておければ一番いいのだが、残念ながらここに安全地帯はない。高速で動き回るレインの傍につかせるわけにもいかないため、結果としてあまり動きのないアルの元に置いておくのが最善の手段というわけだ。


「じゃあ行きましょう」


 ランタンを灯し、レインを先頭にして三人は先へと進む。

 空洞から出る道は狭く、レインとアルが横に並べば身動きが取れなくなりそうな道幅である。こんな所で魔物と遭遇したら戦うどころではない。祈るような気持ちで歩調を早めるレインだった。


「……っと、抜けたわね」


 距離的には徒歩数分といったところか。狭い道を抜けた先は、アルの言葉どおり広めの空間になっていた。その中心付近には先ほどと同様の魔獣――ケルベロスが六体、こちらに気付いて唸り声を上げている。


「ひっ、ひいっ」

「落ち着いて、シスタノ。あれもきっと幻影――ただの幻よ」


 こちらの意識が反映されるというのであれば、ひどく弱々しい魔獣を想像すればいい。ほんの一振りで呆気なく屠れるような、その辺の犬猫レベルのケルベロス。今でこそ怯えてしまっているが、そんなシスタノでも簡単に倒せてしまえるような弱さを反映できたのなら攻略も易いものだ。


「とはいえ、あの姿を見ながらだと難しいわね……」


 レインが呻く。

 まあその姿だけ見れば、凶悪な魔獣ケルベロスなのだ。それが弱体化した姿などなかなか想像できるものではない。


「別にいいけどね。さっきと同じことを繰り返すだけだし」

「レイン、来るぞ」


 アルの呼びかけが合図となり、ケルベロスが一斉に襲い来る。

 しかし動きは先ほどと変わらない。フェイントもなく真っ直ぐ二人へと走る。


「シスタノはアルの後ろへ! アルはなるべくそこから動かないでねっ」

「はいっ!」

「分かった」


 二人の返事を聞き、レインは剣を抜いて魔獣へと駆ける。


「ケルベロスは弱い、ケルベロスは弱い……」


 そう口に出しながら剣を横薙ぎに一閃。魔獣はあっという間に両断された。

 たしかにケルベロスには自分の意志が反映されているようだ。この調子なら戦闘もすぐに終わる――そう油断したのがまずかった。


「レインさん!」


 シスタノの声に振り返ると、背後からケルベロスが飛び掛かってきていた。爪を回避しようと無理に体勢を変えると、これまでに蓄積された疲労からか、膝が自重を支えきれず尻から転倒してしまった。

 そこに別の魔獣の牙が襲い掛かり――


「……いや、大丈夫」


 レインは口の端を上げる。どれだけリアルに見えても所詮は幻影――実体のないただの幻なのだ。どれだけ攻撃を受けようと、その牙が自分に突き立てられることなんて――あった。


「うああああっ!」


 レインの左肩に突き刺さった魔獣の牙は、彼女の肉をやすやすと食いちぎった。


「うぐ……、ま、幻じゃないのっ?」


 肩から大量に流血しながら、レインは苦しそうに呻くのだった。

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