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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第04章 新進気鋭の冒険者
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036 朱月石02

 自分の戦士生命は――いや、人としての生命すら今日で終わるだろう。

 シスタノはそれでも身構える。

 ハイゴースト――戦死者たちの魂が幽鬼となり、その集合体がそう呼称される。狙っても滅多に出会うことのない魔物だが、志半ばで息絶えた冒険者たちの死屍が積み上がるここダンジョン第六階層では珍しいことではないのかもしれない。


「……ごめん、みんな。わたしもここまでみたい」


 彼女がここに辿り着くまでの間、仲間たちは一人また一人と次々に魔物の餌食となり、気が付けばシスタノだけが生き残っていた。それでも彼女が逃走しなかったのは、ひとえに仲間たちの思いを受け継いでいるからである。

 ダンジョンの奥に茂るという、どんな病気をも癒やす伝説級の薬草、ヨジョ草。愛する母親が大きな病に倒れ、医者からも匙を投げられてしまったシスタノには、もうヨジョ草しか頼れるものがなかった。


「でも最後まで足掻いてみるよ……」


 母の娘として生まれてまだ十三年――今まで迷惑ばかりかけてきた。母の反対を押し切って冒険者になったのは、彼女に楽をさせるためだ。迷惑をかけ続けてきた自分が冒険者として大金を稼ぎ、母がゆっくり暮らせるような大きな家を購入するのが夢だった。

 その母が病気で倒れた。結局自分はまだ迷惑しかかけていない。心配しかさせていない。――嫌だ。このままさよならなんて絶対に嫌だ。


「だってそうじゃないと、みんなに怒られちゃうもんね……」


 最初に声をかけてくれたのは幼馴染みで冒険者の少年。それから彼の仲間という男女三人が、シスタノのパーティとして参加してくれた。危険なのはみんな知っている。それでも彼らは、母の病気を治すというシスタノへの協力に名乗りを上げてくれたのだ。

 自分がここまで来られたのは、彼らの力があってこそだ。だからこそ、このまま逃げ帰るわけにはいかなかった。


「もう力なんて残ってないけど……、でもやらなくちゃ」


 杖代わりにしていた剣を構え直す。その先にはハイゴースト。

 傷だらけの身体に鞭打ち、シスタノは声を上げる。


「行くよ……!」


 おぼつかない足取りで一歩ずつ、ハイゴーストへと迫る。

 背後からけたたましい足音が近付いてきたのは、その時だった。


「どいてどいてええええ!」


 思わず振り返ったシスタノの目に映ったのは、ものすごい勢いで走り来る一組の男女の姿だった。すぐには思い出せないが、少女のほうはどこかで見たことがあるような気がする。

 走る少女はシスタノの存在に気付き、続いてハイゴーストへと視線を向けた。


「アル! 足場作って!」

「分かった」


 少女が跳躍すると同時、彼女の足元に魔法の力場が発生する。少女がそこに足を乗せると、アルと呼ばれた青年が腕を前へ伸ばす。彼の腕に連動するように力場が少女を前面へと押し出し、その勢いを乗せて彼女は空中で再び跳躍した。

 弓矢のような速度でハイゴーストに迫る少女は肩越しに剣を引き抜き、一振りで魔物を斬り裂いたのだった。


「……す、すごい」


 自分があれほど苦戦し死をも覚悟した魔物が、わずか数秒で消滅したのだ。

 体の震えもそのままに目を見張るシスタノだったが、当の少女剣士と青年は彼女の視線などまるで意に介さず、ハイゴーストの消えた辺りでしきりに頭を巡らせ、何かを探している素振りを見せていた。


「……ない。ここにもないわ。アル、そっちはどう?」

「こっちも見当たらないぞ」

「じゃあもっと奥ね。急ぎましょう」

「待て、レイン。ここは一度体勢を立て直す意味でも夜食にしないか」

「うっ、たしかにちょっとお腹減ってきたけど……。でも我慢!」

「そうか。では先を急ぐとしよう」

「うん。……あ、そこの人」


 突然声をかけられ、シスタノは「ひゃい!」と間の抜けた返事をする。


「多分あなたの仲間だと思うけど、上の階層で倒れてた人たち、みんな手当てしておいたから。帰るときに拾っていってね」

「……え? え?」

「じゃあ私たち急いでるから。気を付けて帰るのよ」


 それだけ伝えると、少女と青年はまたあっという間にダンジョンの奥へと消えていった。その場に一人残されたシスタノはしばし呆然とし、それからようやく少女の言葉を反芻する。


「手当てって……。生きてる? みんな生きてるの……?」


 膝から崩れ落ちる。涙は次から次へと溢れ、流れては落ちていく。


「ありがとうございます……。ありがとうございます……」


 そこでふと思い出す。

 青年が口にした、レインという名前――そうだ。レインシー・カイルガイル。

 たしか昨年、武闘大会の決勝でオーギュスと戦った少女剣士だ。魔王討伐の旅に出たはずだが、ここにいるということはまさか――


「レインさん……」


 二人の消えた先を、シスタノは熱い視線でもって眺めるのだった。

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