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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第03章 もふもふふれんず
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028 もふらー05

 とてもいい天気だった。

 心地よい風が吹き、頭上では小鳥たちが仲良く歌っている。眠りへと誘う暖かな陽光に抗いながら、アルとパントは何をするでもなく大きな木にもたれ、ぼうっとどこか遠くを眺めていた。


「……いい天気ですね」

「そうだな」

「アルさんは、レインさんとはずっと旅を?」

「ひと月弱といったところだな」

「そうなんですか。それまでは何をされていたんですか?」

「掃除と料理と洗濯。あと散歩だ」

「へ、へえ……」


 あまり他人の事情を詮索するものではないが、アルの話しぶりではまるで主夫のような生活である。休日の大半を自室で過ごすパントにとって、アルの話には少しばかり興味があった。

 だが、だからといって土足で踏み込んでいいわけではない。誰にだって不可侵な領域というものはある。教師であるパントは特に、そういったデリケートな部分を扱う話題には敏感だった。矢継ぎ早に質問したい気持ちをぐっと堪え、再び遠くを眺めるのだった。


「……遅いですね、レインさん」

「そうだな」

「ミャウさんとは会えたみたいだけど、何かトラブルでもあったのでしょうか」

「トラブルと言えばトラブルかもしれんな」

「え?」


 パントが振り向くと、アルはある一点を注視しているようだった。その方角は、レインがミャウのもとへと歩いていったそれである。彼の表情からは何も読み取れないが、トラブルと言うからには穏やかではない何かが起こっているのだろう。

 しかし()も言われぬ焦燥感が押し寄せてくるものの、アルはいたって平常心で、まるでトラブルなど瑣末(さまつ)な問題だとでも言うようにまったく動く気配がない。


「行かなくていいんですか?」

「どこへだ?」

「レインさんのところですよ。トラブルなんでしょう?」


 立ち上がるパントを見やり、アルは「心配ない」と返す。

 相棒であるレインをよほど信頼しているのか、彼の心に焦りはない。凶悪な魔物が跋扈(ばっこ)している魔王城の方から旅を続けてきたという二人のことだ。きっと彼女はそれほど強いのだろう。ならば自分ひとりで焦っていても栓のないことだ。

 嘆息し、パントがもう一度腰を下ろそうとしたそのとき。


「――来るぞ」

「え?」


 アルの視線の先へと顔を向けると――


「たーすーけーてええええ!」

「もっふーもふっ! そーれもっふーもふっ!」


 背の高い茂みが突如爆発し、枝葉が勢いよく弾け飛んだ。それを押し退けて飛び出してきたのはレインと――絶対関わってはいけないとひと目で分かる様相の屈強な女装男だった。

 二人とも何やらひどく興奮している様子で、見る限りではどうやらレインが女装男に追われている形のようだ。レインの胸にはなぜかしっかりとうさぎが抱えられていて。


「レイン、元気そうだな。それだけ走れるのなら十分じゃないか。そのまま街まで行っても一向に構わんぞ」

「冗談言ってないで助けなさいよおおおお!」


 アルとパントが見守る中、レインと女装男は大きな木の周りを回り出す。あまりのスピードに草が吹雪のように舞い上がり、下手をすれば竜巻になるのではないかと不安になってさえくる。

 しばらく傍観していたアルだったが、やがて立ち上がってレインに声をかける。


「おい、レイン。そのうさぎをこちらに投げろ」

「聞こえないいいい! 何か言ったああああっ?」

「うさぎをよこせと言ったんだ」

「ああああ! そういうことねええええ!」


 ようやく理解を示したレインはすかさずうさぎをアルへと放る。途端、それまで彼女を追いかけていた女装男の軌道がアルへと修正された。


「うおおおお! うさちゃああああん!」


 恐るべき速度で迫る男に、しかしアルは動じない。宙を舞ううさぎを片手で受け止め、跳躍した男が自分に接触するギリギリのところで横に避ける。

 女装男はその勢いのまま、一瞬前までアルのいた場所――大きな木の幹に頭から激突し、両手を伸ばした体勢のままずるずると地面に滑り落ちるのだった。


「な、なんですか、この魔物はっ?」

「落ち着け、パント。こいつは人間だ」

「人間っ? 嘘でしょう!」


 衝撃で葉を落としながら揺れる木の陰から顔だけ覗かせるパントは、この女装男を魔物だと勘違いしているようだった。まあその身なりと奇行を見れば、誰だってそう思うのかもしれないが。

 ともあれ、これでようやく静かになった。ふと木の反対側に目をやれば、体力をすべて出し切ったレインがうつ伏せの状態で倒れている。軽装とはいえ、鎧や剣を携えたままでの全力疾走だったのだから、無理もあるまい。


「おい、レイン。倒れるのはいいが、下着が見えているぞ」

「……せえ、ぜえ。……うっさい、わね。見るんじゃ、ない、わよ……」


 どうやらはだけたスカートから丸見えの下着を直す気力もないらしい。パントはちらりとそちらを見やるが、レインの尻を目にした途端、顔を真っ赤にしてすぐにそっぽを向いてしまう。

 さて、とアルは先ほどから倒れたままの女装男を見下ろす。木に激突した衝撃で気絶してしまったのか、男はぴくりとも動かない。


「たしかザックにロープが入っていたな。とりあえず縛り上げてから起こすか」


 臆病な教師パントと臆病な筋肉女装男ミャウ――もふもふめろめろテンションズの文通で交流を深めた二人は、こうして運命的な出会いを果たしたのだった。

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