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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第03章 もふもふふれんず
24/150

024 もふらー01

 心地よい陽射しが、街道を南下するアルとレインを柔らかく包む。

 この辺りまでくると草木も青々と茂り、少女の心と足取りを軽くするのだった。


「いい天気ねえ。こんな日はずっと野原に寝転がっていたいわ」

「いたいなどと言わず、本当に寝転がってもいいんだぞ。そうすれば、オレはその間に昼食の用意ができるからな」

「うふふ。それもアリねえ」


 グニーとターニャの姉妹が住まう村を出て一週間ほどが経つ。同じだけの距離をもう一度歩けば二人の目指す街――王都シュティーリアに辿り着くとあって、二人の気持ちにもだいぶ余裕が出てきている。

 ここに至るまで、アルが食用の小動物を捕らえようとして丘を粉砕したり、魚を釣ろうとして川を粉砕したり、鳥を捕まえようと落とした稲妻で大地を粉砕したりと思い返せばいろいろあったが、今ではいい思い出である。


「――って、んなわけあるかああああ!」

「どうした、レイン。急に大声を上げて」

「あんたねえ! あらゆる行動の合間合間に粉砕を挟んでくるの、本当やめてくれない? この一週間でここ一帯の地形、だいぶ変わっちゃったわよっ」


 そんなレインの叱責に、しかしアルはいつもどおりどこ吹く風で、


「お、あそこにキャンプ跡があるぞ。どうだ、そろそろ飯に……」

「ちょっとは聞く耳を持ちなさいよ!」


 食材の調達を彼に頼むと、そのたびにどこかしらが崩壊する。そのためこの役目はもっぱらレインの仕事になっていた。


「はあ……。分かった、何か探しに行ってくるわ。……ん?」


 ため息をついたそのとき、街道沿いの大きな木の陰に、一人の男を見つけた。

 その男はせわしなく身体を揺らし、何度も周辺に顔を巡らせている。こんな所で何をしているのだろう――レインは小首を傾げる。


「おい、レイン。何をぼうっとしているんだ」

「あ、ごめん。ちょっと待ってて」


 アルをその場に残し、レインは男の方へと歩み寄った。


「あの、こんにちは」

「わあっ、びっくりした!」


 レインの声に飛び上がる男。二十代半ばくらいだろうか。額が隠れる程度の長さで綺麗に切り揃えられたブロンドの髪。情けなく下がった眉は、痩せ細った身体と相まってひどく頼りなさそうな雰囲気を漂わせている。

 突然声をかけてきた少女を見やり、男ははっとして顔を寄せてきた。


「も、もしかして君がミャウかい?」

「へ? ミャ、ミャウ?」

「あれ? 違った?」

「私はそんな名前ではありませんけど……」


 首を振るレインに、男はがっくりと肩を落とす。


「そっかあ、人違いか。ごめんね」

「いえ、それは別にいいんですけど……。こんな何もない所でそわそわしてるようだったので気になっちゃって。急に声をかけて、こちらこそすみませんでした」

「あはは。じゃあお互い様ってことだね」


 頭を下げるレインの肩に手を置き、男は力なく笑った。


「僕はパント。この先の街で教師をしてるんだ。今は人を待ってるんだけど、約束の時間をだいぶ過ぎているのに全然現れなくてね。彼女に何かあったんじゃないかと心配していたんだ」

「あ、私はレインです。あっちはアル。彼女にってことは女の人ですか」

「うん。ミャウっていうんだ。今まで手紙でやり取りをしててさ。実際に会うのは今日が初めてだから、顔も分からないんだよ。だから余計に困っちゃって……」

「なるほど。そういうことですか」


 そこでふと、パントはレインの背中に気付く。

 少女が持つにしては長すぎる剣。細身ではあるが、見る者が見れば、この長剣がいかに優れた逸品かはすぐに分かるだろう。パントが生計を立てているという王都シュティーリア――その国を治めている王から直々に授かった魔法剣なのだから。


「き、君、剣士なのかい?」

「え、ええまあ。一応……」


 その王都の武闘大会で優勝経験もあるレインなのだが、そういう話題には興味がないのか、パントは彼女のことをまるで知らないようだった。

 パントは再びレインへと詰め寄る。


「レインさん。君に頼みがあるん――」

「お断りします」


 パントの言葉を遮って、レインは即答する。こういうときの彼女は早い。


「まだ言い切ってないよ!」

「言い切らなくても大体分かりますよ。私にそのミャウさんって女性を探してきてくれってことでしょう?」

「そ、そうだけど……」

「私たちの旅はあまりゆっくりもしていられないんですよ。申し訳ありませんが、そのくらいはご自分でお願いします」


 さっきまで散々「ずっと寝転がっていたい」などと言っていた人間のセリフとはとても思えないが、彼女のそんな本心を知らないパントは今にも泣き出しそうな顔でもってレインにすがりついてきた。


「そこをなんとか頼むよ。魔物が出たら大変じゃないか」

「大丈夫です。この辺りには臆病な小動物くらいしかいませんから」

「そんなこと言わないでさあ。君は剣を持ってるじゃないか」

「小動物を仕留めるくらいで、この剣は使いませんよ」

「そこをなんとか! ここはひとつ!」


 ダメだ。この人と喋っていても埒が明かないわ――レインはとうとう根負けし、後ろで控えているアルに声をかける。


「アル、この辺りに人はいる?」

「いるぞ。あっちだ」

「生きてる?」

「ああ」

「ほら、パントさん。探し人のミャウさんはあっちにいるみたいですよ。こんな所でじっと待ってないで、早く行ってあげてください」


 ミャウが生きていると分かった以上、レインに捜索を頼む必要はなくなった――そう安心したのも束の間だった。


「それでも魔物が出たらどうするんだよおおおお!」

「だから出ないって言ってるでしょうが!」


 度を越えたパントの腰抜けっぷりに、今度こそレインの怒号が上がるのだった。

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