022 希少種05
妹は姉を思い、姉のために偽りの希少種を仕立て上げ続け。
姉は妹を思い、妹と離れないよう偽りの活動を語り続ける。
互いが互いを思い、騙し合い続ける。
「アル! 魔物が村に到着するまであとどのくらい?」
「このまま走り続ければ十分間に合う距離だ。……お、さっきの男たちだな」
「もう手は振らなくていいから!」
大工たちを追い抜きざま手を振るアルを諫めつつ、レインは舌打ちする。
迂闊だった――たしかにこの一帯は安全な部類ではあるが、夜になればそれなりに魔物も出没する。レインとしては、その魔物もさほど大したことはないだろうと高を括っていたのだが、アルに『危険』と言わしめるほどの魔物となるとさすがに放ってはおけない。
「……見えた! 村よ!」
レインの横を走るグニーが指をさす。
目をやれば遠くで土煙が上がっている。アルの言う危険な魔物が、もうすぐそこまで迫ってきているのだ。しかし、
「まだ遠いわね」
この距離ならなんとか一度姉妹の家に戻り、アルが魔物を抑えている間に装備を取ってくることも可能かもしれない。なんといっても彼は魔王アルヴァリオスだ。抑えるなんて言わず、いっそ撃退してくれてもいいくらいだ。
と、思ったのだが――
「ターニャ!」
村から出て通りを越えた先――例の茂みから、家で姉の帰りを待っているはずの妹が飛び出してきた。
グニーたちの姿に気付き、驚いて目を丸くしている。
「え……、な、何で? 今日は帰り早くない?」
「何ではこっちのセリフ! もう村から出るなってあれほど言ったのにっ」
レインの叱責に身をすくませるターニャ。
だが問答はひとまず後だ。今はまず装備を取りに――
「……うそ」
目を離したのは、ほんの一瞬だったはずだ。ターニャを見つけ、声をかける――たったそれだけの数秒で、気が付けば三人の目の前には漆黒の巨大な馬が立ちはだかっていた。
「ま、また馬……?」
「よくよく縁があるな。まあ今度の馬はキリング・デイ――本物の魔物だが」
「キ、キリング・デイ? そんな魔物、聞いたことないんだけど」
「それはお前が無知なだけだ。数年に一度は人里近くに現れるぞ」
「……ああ、そういうことね」
そっけないアルの返答に、レインはひとり得心する。それはきっと魔物研究所が隠蔽しているレアモンスターだ。その存在を知っている人間なんてほとんどいないだろう。
「とにかく早く倒さないと! アル、行ける?」
キリング・デイの目の前には、突然の出来事に驚き、腰を抜かしてへたり込んでいるターニャ。巨大馬は最初の獲物を見つけたとばかりに鼻息を荒くしている。
武器を所持していないレインはアルに助けを求めるが、しかし期待に反して彼は静かに首を振るのだった。
「ここはオレの出る幕ではない」
「ちょっと! 何寝ぼけたこと言ってんのよっ」
「……おい、グニー」
奮然と声を荒らげるレインなど気にも留めず、アルは後ろで硬直しているグニーを呼んだ。途端、彼女ははっと我に返る。
「タ、ターニャ!」
「グニー。お前は魔物研究家だったな。だったらあいつを仕留めてみせろ」
「そ、そんな……、それはただのポーズだって、さっき言ったでしょ!」
「いいのか? 妹が聞いているかもしれないぞ」
アルに窘められ、グニーはぐっと声を詰まらせる。
「ターニャを助けられるのはお前しかいないぞ。見てのとおり、武器のないレインはまったくの役立たずだ。さあグニー、お前はどうするんだ?」
「あ、あたしは……」
キリング・デイが咆哮を上げる。空気が鋭く震え、大地が震撼する。
「あたしは……」
「お姉ちゃん!」
ターニャが叫ぶ。
「――こっちに来ちゃダメ! 逃げて!」
その言葉を――大切な姉を危険から遠ざけようとする妹の悲痛な叫びを。
聞いた瞬間、グニーは妹へと駆け出した。
「ターニャ、いま助けるよっ!」
魔物研究家であろうとなかろうと、研究所の職員でもない限り情報を知り得ないレアモンスター、キリング・デイ。弱点なんて知らないし、そもそも武器も持っていない。そんな状態で勝てるわけがない。それでも――
「ここでやらなきゃ、あたしはお姉ちゃん失格だよ!」
キリング・デイの巨大な蹄がターニャに振り下ろされる。





