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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第02章 嘘つき姉妹の研究録
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016 魔物研究家04

 空は夕刻の色に染まり、村人たちは徐々に岐路へとつき始める。

 そろそろ底をつきそうな食料を補充するため、アルとレインの二人は村の露店を見て回っていた。とはいえ小規模な村の店である。量も品揃えもひどくささやかなものだ。


「うーん。あんまり買い込んじゃったら、他の人が困るかなあ」


 露店の主人を眺めつつ、レインは思案する。

 街の大通りにずらりと軒を並べる露店のように次から次へと商品が溢れ出てくるわけではないだろうし、ともすれば、自分が買ったことで次の人が買えなくなってしまうのではないかと懸念(けねん)しているのだ。


「できればたくさん買い込んでおきたかったけど、そうもいかないみたいね」

「買えばいいじゃないか。そのための売り物だろう」


 小首を傾げるアルに、レインはため息とともに返す。


「たくさん買っちゃうと、次の人が買えなくなるじゃない」

「それは後手に回ったやつが悪い。この世は先手必勝、弱肉強食だ」

「……あんたが言うと冗談に聞こえないのよね」


 となりのアルを見上げると、やっぱり彼は冗談を言っているふうではなくて。

 とりあえず相手をせず放っておくのが一番だ――レインは再び露店を見やる。


「商品がなくなって困るのなら、自分で魔物を狩りにいけばいいだろう。どこかに売って金に換えるもよし、焼いて食べるもよしだ」

「あんた基準で考えないでよ」

「グニーが狙っているレアモンスターとかいう魔物なら、それなりの金も手に入るんじゃないのか?」


 その言葉に、レインは眉根を寄せる。

 先ほど抱いた違和感が、胸の内でもやもやと渦を巻いているようだ。


「……ねえ、アル。さっき外で見た大きな馬、憶えてる?」

「ああ、憶えているぞ」

「あの馬を作ったのって、あんた?」


 レインの率直な問いに、しかしアルは(かぶり)を振った。


「オレが生み出した魔物ではないな」

「そっか。やっぱりそうだよね……」


 となると、あの巨大は馬はアルではなく、先代の魔王がこの世に生み出した魔物ということになる。しかし三年以上前から存在していた魔物だというのに、いまだその情報が(おおやけ)になっていないというのはどういうことだろう。

 研究所が隠蔽(いんぺい)しているのか、それとも――


「おい、商人よ。ここにあるものをすべて購入してもいいか?」

「え? いや、それはちょっと……」

「あんたはじっとしてて!」


 露店の主を困らせるアルを小突き、レインは二食分――つまりは二人の一食分の食材のみを購入するのだった。


「遅いよっ、レイン、アル! もうお腹がレア減りまくりだよっ」

「お二人とも、お帰りなさい。夕食の用意ができてますよ」


 姉妹の家に戻り、相変わらず散らかったままの本をよけて奥に入ると、ターニャがこしらえたという四人分の料理がテーブルに並んでいた。肉と魚、そして野菜。そのどれもが自分の知っている食材ということに、レインは胸を躍らせる。

 イボンの村を出てからというもの、ろくに料理のできないレインを横目にアルが一人で調理していた。しかし彼の用意する食材はいつも決まって謎なのだ。

 謎の魚に謎の野菜。その辺で狩ったという得体の知れない魔物の肉片――そんなものばかりを食べてきたせいか、彼女の感動もひとしおだ。


「ああっ、久しぶりのまともな食事!」

「おい、レイン。それはオレの料理がまともじゃないと言っているのか?」

「うっさいわね! そういうセリフはまともな食材を使ってから言いなさいよっ」

「むう。そんなものか」

「そんなものよ」


 二脚しかなかった椅子のとなりには、魔物の関連書を積み上げただけの即席椅子がそびえ立っている。少しでも座る位置を間違えれば、たちまちバランスを崩して倒れてしまうだろう。

 いや、むしろ大事な本を椅子代わりにしていることをまず指摘すべきだが、それを実行するより先にグニーが反面教師となったため、ここは何も言わないでおく。


「うん、美味しい!」


 結局グニーは床にあぐらをかき、レインとターニャは椅子に座っている。アルは本を積み上げた椅子に座っているのだが、こちらは崩れる気配がまるでない。

 (せん)だって本の椅子を崩壊させたグニーとしては、彼も自分と同じ道を歩むだろうと暗い期待をしていたのだが、これでは肩透かしもいいところである。


「あ、そうだ。レイン、アル。お風呂あるから入っていいよ」


 そんな何気ないグニーの一言に、レインの目が一瞬で輝く。

 風呂――そういえばここ何日も入っていない。魔王城からだいぶ離れたおかげで川も流れてはいるのだが、どうにも同行人の目が気になってしまうのだ。

 水浴びのひとつもできれば、そりゃあさっぱりするだろう。ついでに衣服も洗濯すれば、これ以上なく気分爽快だ。しかし、旅の連れが女性であれば気にならないであろうその状況で、残念ながらアルは男だった。


「すごいですね。失礼ですけど、この村の規模から考えると、お風呂があるなんて想像していませんでした」

「以前、でっかい魔物の骨を見つけてね。そいつを加工して作ったんだよ」


 なるほど、魔物研究家ならではの風呂というわけか。

 そう聞くと、居ても立ってもいられない。早々に食事を済ませ、


「じゃ、じゃあお風呂行ってきます!」


 そわそわとした足取りでもって、家の奥へと消えていくのだった。

 だが、レインは知らない。

 そんな彼女の背をじっと見つめる、アルの視線があることを。

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