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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第02章 嘘つき姉妹の研究録
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013 魔物研究家01

 大地には草木が目立ち始め、空を見上げると、そこには燦々(さんさん)と輝く太陽が昇っていた。たったそれだけのことなのに、レインにはそれが嬉しくて堪らない。浮き足立って不慣れなスキップなどするものだから、ちょっとした段差でも(つまず)いて転んでしまうのだった。

 目が悪くなるからと(たしな)めるアルにも、まったく聞く耳を持たないでいる。


「だってほら、太陽だよ? 太陽があるんだよっ?」

「昼間なんだから、そりゃああるだろう」

「ふふっ。太陽の光を浴びると、よくやく人間の領土に帰ってきたんだなって感じがするわ。やっぱり陽の光って偉大よね」

「偉大かどうかは知らないが、少しは前を見て歩け。また転ぶぞ」


 村人たちに見送られ、アルとレインがイボンの村を出てから二週間が経つ。

 結局最後まで彼らの恐怖心を拭ってやることはできなかったが、まあ結果としておとなしくなったので上出来の部類だろう。

 レインのかつての仲間――オーギュス、ヒルダ、グタの三人は、まだしばらくは村に残るらしい。村が魔王城からほど近いこともあって、あの地域ではろくな食事が取れない。そのため、彼らは村の外に出て、魔物を狩り、魚を釣り、ささやかな村の農業の後押しとして今後も関わっていくとのことだ。

 もちろん発案者はグタで、あとの二人は随分渋っていたようだが。


「そういえばさ、アルはなんで、あのとき私を助けてくれたの?」

「あのとき?」

「ほら、その……。私がオーギュスに『怪物』って呼ばれたときよ」


 お前なら魔王を倒せる。なんたってお前は『怪物』なのだから――オーギュスの言い放ったその言葉にひどく傷ついたレインを守るように、彼女の前に颯爽(さっそう)と歩み出たアル。もしかしたら彼はもう人間の心を理解して――


「腹が減っていたからな」

「……は?」


 しかし彼は胸を張り、己の善行を誇らしく語るのだった。


「あのとき空腹だったのは、なにもお前だけじゃない。ああいう話は食事しながらでもできるからな。まずは飯だと思ったんだ」

「…………」

「結果として、オレもお前も空腹で倒れることはなかった。すべては早々にあの場を収めたオレの手柄だな」


 そう言って口の端を上げるアル。

 レインは何も言い返すことなく、ただ黙って彼の尻を蹴飛ばすのだった。


「何をする」

「うっさい! せっかくほんのちょっとは感謝してたのにっ」

「そうだろう、そうだろう。やはり腹が満たされないことには……」

「そっちじゃないわ!」


 そんな会話をしていると、不意にアルが(こうべ)を巡らす。


「どうしたの?」

「……人間の気配がする」


 無論、レインには何も感じない。アルの神経が過敏すぎるのだ。


「どこよ?」

「あっちだ。移動してはいないようだが、ただならぬ殺気を感じるぞ」

「……まさか!」


 エンダナ――その名がレインの脳裏をよぎる。

 魔王アルヴァリオスがもっとも信頼を寄せる腹心であり、また、魔王自体をこの世界に生み出した人物でもある。魔王城を留守にし、もうしばらくは帰ってこないとアルは言っていたが、あれから二週間――そろそろ戻ってきていてもおかしくはない。

 魔王の不在を知った彼女がアルを探しているのだとしたら――


「いや、さっきも言ったが人間の気配だ。エンダナではない」


 身を硬くするレインの肩を叩き、アルは言う。


「む、動き始めた。――来るぞ」

「え? え?」


 レインが身構えるより早く草むらから飛び出してきたのは、紫色のたてがみを風になびかせた巨大な馬だった。ひどく興奮しているようで、アルやレインに臆することなく真っ直ぐ突っ込んでくる。


「くっ!」


 突進を横っ飛びでかわして地面を転がると、起き上がった勢いで腰の剣を握る。しかし彼女が体勢を整えたときにはもう、巨大な馬は土煙を残し、はるか遠くへと走り去ってしまっていた。


「……なんだったのよ。ああもう、鎧が土だらけじゃない」

「さっきから何度も転んでいれば、そりゃあ土も付くだろう」

「うっさいわね」


 アルを睨みながら鎧の土を手で叩いていると、


「ああっ、また逃げられたあ!」


 先ほどの草むらからまたひとつ、今度は人影が飛び出してきた。

 レインより少しばかり年上だろうか。動きやすさを重視した軽装に、首ほどまでの赤髪。日焼けした肌は健康的で、彼女が普段から外を活発に走り回っているであろうことが見て取れる。


「久々に出会ったレアモンスターだったのにい!」


 悔しがる彼女はふと二人に気づき、「おや?」と小首を傾げる。


「あなたたち、もしかしてレアモンスター?」

「なんでそうなるのよ……。見てのとおり人間です」


 内一人はレアモンスターどころの騒ぎではないのだが、もちろんここでは伏せておく。グタの提案に乗った以上、自分がまず徹底しなければいけない。

 日焼けした女は快活に笑い、二人のもとへと歩み寄った。


「冗談よ、冗談。驚かせて悪かったわね」

「まあ別にいいですけど。慣れてますし」


 そして彼女は名乗る。


「初めまして、旅人さん。あたしはグニー。魔物研究家よ」

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