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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第01章 素人魔王と怪物少女
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011 怪物05

 レインの激白にすばやく反応できた者はいなかった。誰しもが自分の耳を疑い、彼女とアルとを交互に見比べている。オーギュスとヒルダ、グタに加え、この村の長でさえもまるで放心しているかのように、皆が押し黙ってしまっている。


「えっと、だからね……」

「そ、そんなわけねえだろ!」


 その沈黙を破るレインに、オーギュスは叫ぶ。ヒルダの魔法が放たれる際、急に姿が見えなくなったと思っていたが、どうやら村人たちの陰に隠れていたようだ。

 村人たちは我に返り、一斉に彼を見やった。


「俺は騙されねえぞ! なんで魔王が人間と一緒に仲良く歩いてんだよっ」

「そ、そうよそうよ! オーギュスの言うとおりよっ」


 ヒルダも加勢し、周囲には再びどよめきが起こり始めた。

 まあ正直に話せばこうなるかもしれないということは、最初から予想していた。説明する余裕もなく恐慌状態に(おちい)るよりはいくらもマシではあるが、それではまず彼らをおとなしくさせるのが最優先だろう。

 そうは思うのだが、しかし――


「ちょっとくらい魔法が使えるからっていい気になるなよ!」


 地を蹴り、オーギュスが迫る。さすがは武闘大会上位の常連というべきか、その速度は凄まじい。二十歩ほどの距離をほんの一呼吸で詰め寄ると、手にした魔法の剣を腰に溜め、渾身の力でもって突き出す。

 彼の言うとおり、もしもアルが魔王ではなく普通の人間だったなら、この一突きで勝負は決まっていただろう。一般人を魔法の武器で葬ったとなれば、オーギュス自身も何らかの責任を問われることになるのだろうが、今の彼にその考えはない。


「くらえ! 偽物魔王!」


 だが、オーギュスの放った渾身の突きはアルの身体に大穴を開けることもなく、誰もいない(くう)穿(うが)つだけだった。

 そう、彼の目の前には誰もいなかった――レインを除いて。


「たああああっ!」


 剣を下段から斬り上げ、村の門へと迫る衝撃波をレインがいなす。

 オーギュスの――しかも魔力を持った一撃とあって、レインも最大限の力で対抗しなければ、きっと門もろとも吹き飛ばされていただろう。衝撃波は上空へと軌道を逸らし、薄黒い雲の切れ間に吸い込まれていった。


「なっ……! ど、どこに消えやがった?」

「オーギュス、右だ!」


 グタの声に振り返ると、いつの間に移動したのか、いまだ前方に突き出したままのオーギュスの剣をアルがじっと覗き込んでいた。あごに手を当て、感心するように何度か頷きながら、魔力の付与された一振りを眺めている。


「ふ、ふざけんな!」


 オーギュスの追撃はやはり当たらない。

 でたらめに振り回す剣戟(けんげき)を右へ左へと身をかわしながらも、アルの視線は剣から外れることがない。


「なるほど、これが人間界で最強クラスとされる魔法の剣か」

「くそっ、くそっ! 当たれよ!」

「ふむ。レインの持っている剣とはまた別の魔法が込められているのだな」

「くっ……、だりゃあっ」

「しかしまあ衝撃波とは、物騒な魔法が付与されたものだな。これを作ったやつは周囲の迷惑など一切考えていないのだろう」

「ぜえっ……、ぜえっ……」

「よく分かった。見せてくれて感謝する。礼にひとつ、いいことを教えてやろう」


 そしてアルは言う。


「適当に剣を振り回すと、すぐ疲れるぞ」


 その声が届くと同時、オーギュスはがくりと片膝をつく。剣を地面に刺し、肩を大きく上下させて恨めしそうにアルを見上げるが、睨まれている当人は相変わらずの涼しい顔で、それ見たことかとばかりに肩をすくめてみせた。

 よくやく沈静化した状況にレインはほっと胸をなで下ろし、グタを見やる。彼はひげの奥で苦笑し、数度首を振る。参戦する意志がグタにあったのかは分からないが、どうやらこれ以上手を出す気はないらしい。


「みなさん、聞いてください!」


 ようやく期が訪れたとばかりに、レインは声を張り上げる。


「まず最初に、私とアルにこの村を襲う意志はありません。みなさんを傷つける気もありません。その上で聞いてほしいのです」


 レインの呼びかけに、しかし呆然と立ちすくむ村人たち。下手をすれば何人もの死傷者が出ていたであろう戦闘がこの数分で二度も起こり、そして国王から直々に授与された魔法の武器を持つ二人が一方的にのされたのだから、それも無理からぬ話である。

 これから民衆がどう反応するか分からない――だからこそレインは慎重に言葉を選び、彼らの顔色をうかがうようにしてゆっくりと紡いでいく。


「私は彼を――魔王アルヴァリオスを人間として迎え入れたいと思っています!」


 それはレインが、アルを城から連れ出すときから決意していたことだった。

 人間と敵対する意志が彼にない以上、倒すべき相手はエンダナただ一人である。アルを人間として迎え入れるということは、彼をエンダナの手から離すということだ。アルが本当の意味で魔王になってしまう前に、人間と触れ合って人の心を学んでほしい――それがアルを連れ出した、レインの目的だった。


「おい、レイン。そんな話は聞いていないぞ」

「うっさいわね! あんたは黙っててっ」

「む、分かった」


 不承不承ではあるが口を閉ざしたアルを尻目に、レインは周囲を見渡す。

 よくよく考えてみれば、世界が大騒ぎになるような事態である。

 いきなり王国に戻らなくてよかった――冷や汗を流し、人知れずレインはつばを飲み込むのだった。

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