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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第11章 しゃれおつ大作戦
109/150

109 いと03

「お名前は存じ上げませんが、私に協力していただけませんか? これから始まる惨劇をただ黙って見守っていてくだされば結構ですので」

「いや、さすがにそれはやり過ぎですよ!」


 惨劇――舞台上のユージーナにとってはまさにそのとおりだろう。

 キャサンの申し出にレインは大きく頭を振る。ユージーナとは多少のいざこざもあったが、だからといってそれを免罪符に彼女に一生モノのトラウマを植え付けるわけにはいかない。


「やり過ぎ? そんなことはありませんよ。お嬢様が今まで私に行ってきた数々の悪行を思えば、むしろこの程度では生ぬるいくらいです」

「うぐ……」


 あの時――キャサンがユージーナを敷地の隅へと連行した時、レインが気付いた違和感は正しかった。主の手を引きながら、彼女は一瞬、背筋が凍るような冷笑を浮かべていたのだ。

 そんなキャサンの言い分に思わずたじろぐレイン。

 確かに自分は彼女たちの今までを知らない。だからキャサンがどれほどの怒りをその胸に秘めているかなど検討もつかないのだ。ぽっと出の自分がしゃしゃり出ていい話ではないのかもしれない――レインは眉根を寄せる。しかし――


「それでも駄目です!」


 レインは譲らなかった。


「こんな報復の仕方は間違ってますよ。何も知らない大勢の人を巻き込んで仕返しなんて悪質すぎます。あなたは多くの第三者に手伝ってもらわないと報復も満足にできない臆病者なんですか?」

「な、何を言うんですか!」

「やるなら一対一。ユージーナに直接やってください。その後は逃げるなり何なり自由にすればいいじゃないですか」


 面食らうキャサンに詰め寄り、レインは真っ向から抗議する。

 確かにユージーナは好きなタイプの人間ではない。でもだからといって間違ったやり方で恥をかくのはやはり間違っている。これがレインの本当の気持ちだ。


「で、でも、お嬢様はもう舞台に上がって……」

「まだ手はあります」


 舞台上では観客の声に応えようとユージーナが両手を上げる。途端、脇の縫い目がするりと解けた。そこから襟元、背中、腰へと連鎖して糸が抜けていく。

 ついにユージーナのドレスは細かく分断され――


「アル! ユージーナを隠して!」


 沸き上がる大歓声の中、レインがありったけの声で叫ぶ。

 分かった――いつもどおり抑揚のない彼の声が聞こえたような気がした。


 両手を上げた瞬間、身体中に冷気を感じた。

 ユージーナにはそれがなぜなのか分からなかった――下を向くまでは。

 それまでその身を包んでいたドレスがいきなり分解し、身体から離れてするりと落ちていく。手で押さえようにも間に合わない。両手は上がっているのだから。

 どうしようもなくて悲鳴が喉元までこみ上げてきた時――


「……これでいいか?」


 下着姿のユージーナを、温かい感触がふわりと包む。

 いつの間にか――本当にまばたきを一度するくらいの一瞬で、自分の目の前には上半身裸の青年の背中が立ち塞がっていた。ユージーナには、青年が着ていたのであろう上着が掛けられている。


「おい、レイン。聞いているのか? オレはこの後どうすればいい?」


 観客の方を向いたまま、青年――アルは腕組みをして次の命令を待つのだった。


 太陽は夕方の方向に傾き、観客たちはぞろぞろと帰っていく。大会の実行委員である商店街の男たちは会場の撤去作業に着手し、つい先程まで大歓声に湧いていたこの広場もすっかり静まり返っていた。

 そんな中、キャサンとレインは向い合っている。


「結局おたくのお嬢様が優勝かあ。やっぱり付け焼き刃のファッションじゃあ駄目なんですね。どうしても着せられてる感が出ちゃいますし。あはは」

「……今回は本当に申し訳ございませんでした」


 残念そうに笑うレインに、キャサンは深々と頭を下げる。


「やはりあなたの仰るとおりに致します。一対一。正々堂々とお嬢様をギャン泣きさせてみせますね。それまではもうしばらくお屋敷にご厄介になろうと思います」

「そ、そうですか」


 どうあっても彼女の復讐の炎は鎮火しないらしい。レインは苦笑する。


「それではまたどこかで。失礼致します」


 もう一度頭を下げ、大きな鞄を両手に抱えてキャサンは去っていった。

 彼女の姿が見えなくなるまで見送り、そしてそれまで気にしないようにしていた背後の視線に根負けして、レインは渋々振り返る。

 そこには自分を睨むシスタノと、それを眺めて微笑むディモルの姿があった。


「レインさん。わたしの言いたいことが分かりますか?」

「……はい。今後ろくに着もしない高価な服を何着も買った挙句、得たのは参加賞のエチケットブラシ一本でした」

「よくご存知じゃないですか。おかげでウチのお財布はスッカラカンですよ」

「ご、ごめんなさい……」


 シスタノの反対を押し切って参加した大会だったが、終わってみれば彼女の忠告どおり散々な結果になってしまった。シスタノが怖くて目を合わせられないレインは、ついつい隣の茶番に視線が行ってしまう。

 その茶番というのは――


「アル様! アタシのこの情熱的な愛を受け止めてくださいませえ!」

「断る」

「ああん。そういう素っ気ない所も愛しておりますう!」

「よせ。こっちに来るな」


 ユージーナに迫られるアル。どうやらユージーナは、自分の危機を助けてくれた彼に一目惚れしてしまったらしい。午前の女性の部が終わってからずっとこの調子である。一体いつまで続けるのやら。


「アル様ああああん」

「来るなと言っただろう」


 そんな二人を眺めていると、レインは身体中の力が抜ける思いだ。


「あはは……。あっちは平和そうでいいわね……」

「どこを見てるんですか、レインさん。今日という今日はじーっくりお説教しますからね。覚悟しておいてください」

「……はい」

「うふふ。れーちゃん、ドンマイよ」


 これからは地道に頑張ろう――そう夕陽に誓うレインなのであった。

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