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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第11章 しゃれおつ大作戦
107/150

107 いと01

 明日の大会で優勝できる服を選んでほしい――そう言われても、それが分かれば誰も苦労はないわけで、結局店員が見立てたのはそこそこデザインの凝った普通の服だった。

 大会当日。中央広場の一角に作られた舞台セットの前には五十人程度の観客たちが集まっていた。自らの服装に関心がない者も、やはり他者の――きれいな女性の着飾った姿には興味があるようだ。


「結構人が集まってきてますね。この分だと始まる頃には倍くらいに増えるかも」


 舞台の裏から客の様子を窺いながらシスタノが呟く。緊張しているのか、その声は若干震えていた。


「何人集まろうと関係ないわよ。呼ばれたら舞台に出て、審査員の質問に一言二言答えるだけじゃない。魔物と戦うより簡単だわ」

「あらあら。れーちゃん、魔物を比較対象にしちゃダメよう」


 レインとディモルはいつもどおりで、行きに買ったパンを頬張っている。新品の服を汚さないかと冷や冷やしているのはシスタノだけで、二人は何も気にすることなく口を動かし続ける。


「もうっ。お二人共もう少し緊張してくださいよっ。なんで本番直前にパンなんて食べてるんですか。優勝できなかったら賞金は手に入らないんですよ?」

「だって朝食べてこなかったから、お腹すいちゃって」

「大会が終わるまで我慢してくださいよ。ほんとにもうっ」


 舞台の裏には簡易的な小屋が建てられ、小屋と舞台との間をカーテンで間仕切りされている。小屋で着替え、出番を待つ者はカーテンの内側で待機するという形である。カーテン内にはテーブルと椅子がいくつか備えられており、朝の抽選で出番が中盤になったレインたちは、まだ着替えずにくつろいでいた。


「おい。まだ準備しなくていいのか?」


 カーテンをくぐるようにして現れたのはアルだ。大会は午前中に女性の部、午後に男性の部に分かれており、いま待機しているのは女性のみである。


「アルさん。いいところに来てくれました。お二人に何か言ってやってください」


 常識を語りたがるこの男であれば、きっとレインとディモルを注意してくれると思ったのだが――彼は手に下げた紙袋をレインに渡し、


「頼まれていたサンドイッチだ。ちゃんと三人分あるぞ」


 まさかのおかわりに思わずずっこけるシスタノ。

 確かにアルは常識に口うるさいが、レインの頼みには基本的に忠実なのだ。


「ありがとう、アル。もう出ていっていいわよ」

「分かった。では客席で見ているとしよう」


 アルの後ろ姿を見送って、自分に差し出された紙袋に首を振りつつ、シスタノは大きなため息をひとつ。こんな調子では優勝どころか参加賞すら危うい。無事登壇できるよう、今は祈るばかりだ。

 すると奥の小屋の扉が開き、聞いたことのある――あまり聞きたくない笑い声がカーテン内に響き渡った。


「おーっほっほっほ! 無様に負けると知った上でよくもまあ出てきたものねっ」


 振り返るまでもなく、それは昨日のどこぞのお嬢様、ユージーナだった。


「って、こっち向きなさいよっ!」


 振り返るまでもなかったから振り返らなかったのだが、どうやらそれが気に食わなかったらしい。ユージーナはこちらを指さしてぷんすか怒っている様子だ。

 レインは渋々そちらに目を向ける。


「何か用? お嬢様」

「だ、だから言ったじゃない。無様に負けると知……、聞きなさいってば!」

「悪いけど今忙しいのよ。サンドイッチ食べてるから」


 テーブルに並べられたサンドイッチはあと四つ。半分がシスタノの分で、残りのひとつずつがレインとディモルの分である。忙しなく口を動かすレインを見やり、ユージーナは顔を真っ赤にして詰め寄ってきた。


「ちょっと! 人の話は最後まで聞くものよっ」

「だから今忙しいって言ってるじゃない。人の話は最後まで聞きなさい」


 さらに何か叫ぼうとするユージーナとレインの間に割って入ってきたのは付き人のキャサンだった。あまり眠れていないのか、目の下にくまができている。


「お、お嬢様。本番前にお怒りになられると、せっかくのメイクが台無しですよ」


 その言葉にユージーナは「そ、そうだったわね」と一歩引いた。彼女の顔をよく見たわけではないが、そういえば確かに昨日より派手な顔立ちをしていたような気がする。きっとこの大会のために朝早くから準備してきたのだろう。

 本番直前まで食事している自分とは大違いだ――レインは感心する。まあだからと言ってサンドイッチを持つ手を止める気はないが。


「あなたたちは本番でけちょんけちょんに負かしてさしあげるわ。今から覚悟しておきなさい。おーっほ……、って、だから聞きなさいよっ!」

「お嬢様。あちらで待機しましょう」


 キャサンに敷地の隅へと連行されていくユージーナ。

 その様子を横目で眺めていたレインはふと気付く。


「あれ? あの人、今……」


 その時、会場側から拡声魔法を通した大きな声が周囲に響き渡った。


『みなさん、お待たせしました! 第一回ちょべりぐファッション大会、いよいよ開幕ですっ』

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