106 たかびー04
「これなんてどうですか? 落ち着いた雰囲気で素敵だと思うんですが」
「あらあら。ちょっと地味すぎるわねえ。これはどうかしら?」
「おい、ディモル。お前は子供服から離れろ。選ぶならこれだろう」
「さっきの武闘服の色違いじゃない! みんなこういうのを選びなさいよっ」
「……レインさん。それは甲冑です」
服を選び始めて一時間。そこでようやく悟ったことがある。
このメンバーでお洒落な服選びなんて絶対無理だ、という結論だ。
「な、なんで誰もお洒落な服のひとつも選べないのよ……」
そりゃあ当然だろう。ここにいるメンバーは今まで魔物を倒すことにしか興味のなかった人間と、人間の世界をまったく知らなかった引きこもりの魔王しかいないのだから。そんな者たちに流行りのファッションなど分かるはずがないのだ。
落胆するレインに、他の者たちも困り顔で打開策を検討する。もちろんそんな案など出るわけがないのだが。
「あ、そうだ!」
そう声を上げたのはシスタノだった。
他の仲間たちを見回して、顔の前で指を立ててみせる。
「自分たちで分からなければ、街の人たちを研究すればいいんですよっ」
「な、なるほど。その手があったわね!」
外に出て街を歩く人々の服装を参照すれば、少なくとも流行の傾向は分かるはずだ。そこから派生して自分たち流のアレンジを加えれば、流行を押さえつつも独自の色を取り入れた最高のファッションになるのではないだろうか。
「さっそく外に出てみましょう!」
逸る気持ちを全開にして飛び出していくレインを、仲間たちは追いかけた。
しかし――
「……なんでみんな似たような服ばかり着てんのよ」
レインが落胆するのも無理はない。店を出て道行く人々の服を見てみると、その誰もが同じような地味目の服ばかりを着ていたのだ。普段はまったく興味もなく、気にもしていなかったけれど、こうして改めて確認すると、どうやらこの街の住民たちはさほどファッションに関心を持っていないらしい。
これでは参考になるわけがない。レインはがくりと肩を落とす。
「うふふ。この大会って、ひょっとしたら住民のみんなにファッションへの興味をもっと持ってもらいたいって狙いもあるのかもしれないわねえ」
「こんな状況じゃあ、その仮説もあながち間違いとは言えないわね……」
ともあれ、これではまったく参考にならない。
レインたちはとぼとぼと店に戻るのだった。
「おい、レイン。オレに提案がある」
「却下」
「待て。話を聞け」
肩を掴むアルに振り返り、レインは鬱陶しそうに返答する。
「何よ、アル。しょうもない案だったらぶっ飛ばすわよ」
「任せておけ。これは革新的なアイデアだ」
三人を見回し、アルは提案する。
「オレたちは自分の『良い』と思った服を選ぶから失敗しているんだ。だから逆に『これは駄目だろう』と思ったデザインを選んでみてはどうだろう」
「なるほど。確かにその考えはありませんでしたね!」
シスタノが力強く頷くのと同様に、レインも予想外の妙案に唸ってみせる。逆転の発想が必ずしも良いとは限らないが、確かに試してみる価値はあるだろう。
そして四人の新たな挑戦が始まった。
「こ、これはさすがに無いわね……」
「うふふ。れーちゃん、そう思った物こそ試してみるべきよ?」
レインが手にしたのは布面積が異常に少ない水着である。嬉しそうなディモルに促されて試着室に入り、着ている服をすべて脱いだところで――
「おい、レイン。もう着替えたか?」
「ぎゃああああ! 勝手に開けるんじゃないわよ、このド変態!」
おもむろにカーテンを引き開けるアルの顔面にレインの正拳がめり込んだ。
「おい。グーで殴るのはやめろ」
「だったら殴られるようなことをするんじゃないわよ!」
「うふふ。れーちゃんのおっぱい、可愛い」
「あんたは後でぶん殴るから覚えてなさいよ、ディモル!」
レインが選んだ水着を皮切りに、シスタノとディモルもそれぞれ自分の趣味とは反したデザインの物を次々と選んでは試着していく。
よく分からないキャラクターが大きく刺繍されたシャツに、虹色のストライプが眩しいエプロン。可愛らしい子供服や甲冑のレプリカも試してみた。そして数時間が経過してから気付いたことがあった。
「ファッションセンスがない私たちが好みと違うものを選ぶと、さらにダサい服になるみたいね……」
どう考えても、いま試着したあれこれを着て外を出歩くことは無理だった。
「ど、どうしましょう。このままじゃ……」
「うふふ。あたしにいい案があるわよ?」
困り果てたシスタノに助け舟を出したディモルの案とは――
「店員さんに選んでもらえばいいのよう」
その至極真っ当な提案に、レインとシスタノは今度こそ力尽きて床にへたり込むのだった。





