104 たかびー02
「というわけでお洒落な服を買いに行きたいんだけど……」
「駄目です」
レインの頼みは寝起きのシスタノにすっぱり断られてしまった。まだ眠いのか、目が完全に開き切っていない。なんだか半眼で睨まれているようで、レインは声を詰まらせる。
「これで優勝すれば結構いい額の賞金が手に入るのよ」
「必ず優勝できるという保証はありません。駄目です」
先日の賭博の一件以来、金の管理はレインからシスタノへと移っていた。
あれほどの失態を見せたレインなのだから、そこはまあ仕方ないだろう。問題は移った先だった。ただでさえ几帳面で金の出入りにも厳しいシスタノである。彼女に財布を持たせるということは、これまでのような緩い生活が出来なくなる恐れがあるのだった。
現に今も、彼女は頑としてレインの頼みを却下している。
「それではわたしはもう少し休みますので」
「ちょ、ちょっと待って!」
貧血がまだ完治していないシスタノは、休むのが当面の仕事だ。普通の生活なら問題なくとも、走ったり重たい物を持ち上げたりしようとすると途端に息が上がる彼女は、剣を振るうことが出来ないため早朝の稽古も見合わせている。
シスタノは「まだ何か?」とレインを見やる。
「だってほら、シスタノは可愛いしディモルもスタイル抜群だし、優勝も狙えるんじゃないかなって思うんだけど……」
「それで優勝できなかったら服を買ったお金はどうするんですか? お洒落な服は値が張りますし、冒険者であるわたしたちはそれを普段着にすることも出来ませんよね。一回しか着ないような高価な服を買う余裕なんてウチにはありませんよ」
「……ごめんなさい」
まったくの正論に謝ることしか出来ないレインだった。
しかし追撃は別の方向から飛んできた。
「うふふ。しーちゃんも可愛いお洋服を着たいでしょう?」
それは二人のやり取りを後ろから見守っていたディモルだった。
「着たい着たくないの問題ではありません」
「あたしたちはそりゃあ冒険者だけど、毎日ずっと魔物と戦っているわけじゃないでしょう? クエストを受注していない日なんていくらでもあるし、お洋服を一回しか着ないってことはないんじゃないかしら」
「まあ、それはそうですけど……」
「可愛いお洋服を着たしーちゃんはきっとすごく可愛いんでしょうねえ」
「そ、そんな。わたしなんか……」
「ううん、きっと可愛いわ。冒険者の装備とのギャップがさらに可愛さを引き立てるのよ。他の人たちよりずっと可愛いに違いないわ。見てみたいなあ」
「えへへ。そうですかねえ」
そこでディモルはレインに「今よ」と目配せする。レインは頷いて、
「ね、ねえ、シスタノ。せっかくの機会だし、どうかな……?」
「んもう。しょうがないですね。今回だけですよ?」
難攻不落と思われたシスタノが呆気なく落ちた瞬間だった。
そんなわけで、店が開く時間帯まで待って、四人は服屋を訪れた。
店内は右側が男性エリア、左側が女性エリアに分かれ、手前から売れ筋、大人、子供のエリアと区切られていた。四人が物色するのは当然、左側手前の女性売れ筋エリアである。
店がそういう趣旨なのか、奇抜なデザインのものはほとんどない。どれもその辺でよく目にするような、当たり障りのない服ばかりだ。
「うーん。こう言っちゃ何だけど、あんまりパッとしないわね」
「そうですねえ。でもわたしはこういう素朴な感じの方が好きかもです」
「うふふ。二人は何を着ても可愛いわよう」
女三人でああでもないこうでもないと喋りながら物色する。服のデザインだけでなく、顔立ちや髪の色との相性もあるため、なかなか結論が出せないでいる。
レインは長いブロンドの髪を後ろで束ね、吊り上がった大きな瞳をしている。
灰暗色のタートルネックのノースリーブに、若葉色のミニスカート。魔物と戦うときはこの上に同じく若葉色のブレストプレートを装備する。
シスタノは良くも悪くも平凡な顔立ちで、明るいオレンジ色のボブ。
浅葱色の大きな半袖シャツに膝上丈の黒いスカートで、戦闘時はレインより厚めの鉄製のプレートを装備している。
ディモルは少し垂れた瞳に長い黒髪。誰もが振り返る美女である。
豊満な胸を隠し切れない白のワンピース。彼女は初めて出会った時からこの衣装を変えたことがない。
「この中で一番優勝の可能性があるのは間違いなくディモルね。まずはディモルの服を選びましょう」
「あらあら。あたしはれーちゃんとしーちゃんにいろんな服を着せて、目の保養をしたいんだけど。きっと楽しいわよ?」
「……それはまた別の機会にして」
レインは嘆息し、楽しげに微笑むディモルの提案を受け流した。
すると店の奥の方から突然、
「ちょっと! 何よ、この杜撰な縫製はっ」
甲高い怒鳴り声が店内に響き渡った。
耳を覆いたくなるようなソプラノに、レインとシスタノは顔を見合わせる。
「ここをよく見なさいな! 糸のほつれがあるでしょっ。このアタシにこんな出来損ないで出場しろって言うの、あなたはっ?」
「も、申し訳ございません。ユージーナお嬢様」
ハンガーラックの隙間から奥を覗いてみると、金髪縦ロールにふわふわドレスのいかにもなお嬢様が、付き人と思われる女を怒鳴りつけていた。
「いいこと、キャサン! 明日の大会で優勝するのはアタシ、ユージーナよっ」





