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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第11章 しゃれおつ大作戦
103/150

103 たかびー01

 どうやら自分はベッドで眠っていたようだ――レインは目を覚ます。

 まだ太陽が昇っていないのか、外から聞こえる音は少ない。商業都市であるここガローゼオでは早朝から様々な荷物の搬入があり、そのため馬車も多く行き交っているのだが、それはあくまで街から離れた商業区の話だ。特に多くの旅行者が利用しているこの宿泊区は、喧騒から隔離された静かな区画である。

 眠っていたようだ、としたのには理由がある。理由と呼べるほど大したことではないが、つまりはいつものように前の晩、呑んだくれた結果なのだった。


「……もう少し寝よ」


 朝の稽古はアルとシスタノの二人でやればいい。なんならディモルが横手で応援してもいいかもしれない。ご近所さんの迷惑にならない範囲であれば、自分のことなど放っておいて勝手にやってほしいというのが本音だ。

 剥いでしまった布団に丸まり直し、レインは再び心地よい眠りの世界へと――


「おはよう、れーちゃん」

「……さすがに慣れたわ」


 二度寝のタイミングで起こされる毎度のパターンに、レインは目を閉じたままで返す。こうなることは正直うっすらと気付いていたのかもしれない。

 起こした声の主――ディモルは「あら? 驚かないわねえ」と頬に手を当てる。


「せっかくれーちゃんが好きそうな話を持ってきたのにい」

「悪いけどまた後にしてくれる? 正確にはお昼以降で。ではおやすみなさ――」

「お金の話よ?」

「おはよう、ディモル。今日もいい天気ね」


 途端に上半身を起こすレインを見やり、ディモルはいつもながらの優しい笑みを浮かべた。そして衣服を纏っていないレインの胸や腰をまじまじと眺め、


「うん。さすがれーちゃんねえ。その身体つきならいけると思うわ」

「何の話よ。てか、そんなにじっくり見ないでよ」


 レインは恥ずかしそうに両手で胸を隠す。


「うふふ。れーちゃんのおっぱいって小さくて可愛いわねえ」

「ぶっ飛ばすわよ、あんた」


 自分の三倍はあるディモルの胸を睨みながらレインは毒づいた。こんな胸を持つ女に褒められても喧嘩を売られているとしか思えない。

 ディモルは「嘘じゃないわよう」と微笑み、胸の谷間に挟んでいた紙切れを取り出した。


「これをれーちゃんに見せたかったの」

「……あんた、わざとやってるでしょ?」

「うふふ。何のことかしら?」


 奪うようにしてディモルの手から紙切れを受け取ると、それはどうやらイベントを告知するチラシのようだった。白と黒を基調としたシックなデザインで、上部にイベントの名称が記されている。


「えーと……。『ちょべりぐファッション大会』?」


 まだ眠たげな目をこすりながら読み上げる。

 ちょべりぐファッション大会――それは魔物の脅威が去った記念として催される大会のようだ。誰でも参加は自由で、参加者の中で一番ファッション性の高い者が優勝となり、賞金を手に入れることができるという。賞金額はそれほど高くはないが、数日分の生活費にはなるだろう。


「ふうん。いいじゃない」

「でしょう? れーちゃんとしーちゃんなら絶対優勝できるわよう」

「優勝者が二人ってのは無理でしょ。てか、あんたは参加しないの?」


 話を聞いていると、ディモルはレインとシスタノだけに参加させようとしているようだが――レインの問いに、しかしディモルは腰をくねらせたりして、


「ええ? あたし? うーん、どうしようかしらあ? でもれーちゃんがそこまで言うのなら出てみてもいいかなあ。しょうがないわねえ」

「……うざ」


 どうやらディモルも参加する気はあるみたいだ。レインとシスタノはともかく、彼女のプロポーションを持ってすれば本当に優勝が狙えるかもしれない。


「それで開催日は……、明日っ?」


 思わず大声を上げるレイン。

 チラシを何度読み直しても、開催日は明日の日付になっている。


「ちょっと、ディモル! なんでもっと早く言わなかったのよっ」

「あらあら。本当ねえ。ごめんね、れーちゃん。うっかりしてたわ」


 そう言って舌を出してみせるディモルに悪気はなさそうだ。そういえばシスタノが言っていたような気がする――ディモルは極端に物忘れがひどい、と。その時は大して気にしていなかったが、まさかこのタイミングで忘れるとは。


「こうしている暇はないわ。早く明日の準備をしないと!」

「ねえ、れーちゃん。外に出る前にとりあえずパンツは履いた方がいいわよ」


 ベッドの上で立ち上がるレインを見上げ、ディモルは楽しげに指摘する。

 彼女の言葉にアルも腕を組んで数度頷き、


「そうだぞ、レイン。人間には服を着るという習慣があるのだから――」

「って、あんたはいつ入ってきたのよっ!」


 アルの顔面に飛び蹴りを食らわせると、彼は微動だにせずに「たった今だ」などと愚直に答えてみせる。ベッドの脇に立て掛けておいた剣に手を伸ばすレインを、ディモルはまあまあと宥めるのだった。


「あーちゃんには、後であたしがキツくお仕置きしておくから」

「……いや、あんたたちの感覚でキツくしたら街が吹き飛んじゃうからやめて」


 ともあれ――明日の決戦に向けて、レインはまずパンツを履くのだった。

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