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魔王さまの後日譚  作者: 桜庭ごがつ
第10章 貧乏性と一攫千金
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102 返報03

 少女たちが公言すれば、きっとこの地下賭博場も終わりだろう。

 解放された喜びから涙ぐむ彼女たちと、床にへたり込んだまま上の空のトマスを交互に見やり、レインは腰に手を当てて息をつく。今日は早朝から慌ただしかったが、これでようやくゆっくり出来るというものだ。

 さすがのアルも今日くらいはもう市場へ出かけようなどとは言わないだろうし、もし言ったとしても、それを断る口実になる程度にはレインも疲労している。


「とりあえずここにいる男たちの服を譲ってもらいましょうか。さすがに彼女たちをあの姿のまま外に出すわけにもいかないしね」


 少女たちは囚われていた部屋に乱雑に置かれていた布切れを身体の前面に当てているだけで、後ろから見れば一糸纏わぬ姿のままだ。そんな格好で外に出ようものなら自警団に捕まるか、最悪、欲情した男たちに襲われてしまうだろう。

 レインは黒服たちへと視線を移し、手を差し出した。


「ねえ、あんたたち。今すぐその服を脱ぎなさい。もちろん上下共ね」

「ひいっ。わ、分かりましたっ」


 男たちが慌てて服を脱ぎ始めたのを確認し、レインはディモルへと向き直った。

 スマートとまでは言わないが、それでも彼女は一滴の血も流させずに事を収めて見せた。これがもし自分やアルだったら、問答無用で暴力沙汰にしていただろう。相手を徹底的に痛めつけ、二度と悪さができないように暴れたはずだ。

 自覚があるのかないのかは分からないが、ディモルはそういう能力に長けているような気がする。


「すごいわね、ディモル。あんた、監視の魔法なんて使えるのね」


 感心するレインに、しかしディモルはトマスを一瞥し、


「うふふ。そんなの使えるわけないじゃない」

「え? でもさっき……」


 それはディモルがトマスに囁いた言葉だ。今後トマスが悪事を働くたびに、彼女が自らお仕置きをしに現れる、と。確かそんなようなことを言っていた気がする。トマスがこうして放心してしまっているのも、ディモルのそのセリフが原因だったのではないだろうか。

 しかし元凶たるディモルはにこりと微笑み、


「こんな可愛くない人間を四六時中監視なんてしたくないわよう」


 平然と言ってのけるのだった。

 そういえば彼女は初めて会ったときからこうだった。色とりどりの可愛らしい花を部屋で育て、ベッドは愛くるしい動物のぬいぐるみで埋め尽くされていた。目がチカチカするようなパステルカラーを好み、自分の名前ですらお気に入りの花の中からシスタノに決めさせたほどだ。

 よくよく考えてみれば、そんな彼女が可愛らしさの対極にいるような中年の男をずっと監視し続けるだなんて無理な話である。


「まあいいけどね。本人の耳にも届いてないみたいだし」

「うふふ。でもあたし、れーちゃんやしーちゃん、あーちゃんは大好きよ?」

「はいはい。それはどうも」


 再び少女たちへと目を向ければ、どうやら全員黒服を着込んだようだ。どうにも怪しい集団に映るが、全裸で外に飛び出すよりは何倍もマシだろう。

 レインは数度手を叩き、彼女たちの視線を集める。


「じゃああなたたちはここで解散よ。さっき分けたお金を持って好きな所に行ってちょうだい。今度は悪い奴に捕まらないようにね」


 少女たちは何度も頭を下げて礼を言い、太陽の待つ地上へと飛び出していった。


「……おい、シスタノ。そろそろ目を開けてもいいか?」

「あ、忘れてました。もういいですよ、アルさん」


 後頭部できつく縛られた布をシスタノが解くと、アルは薄く目を開いた。


「ふむ。どうやら失明はしていないようだな」

「するわけないでしょ。大袈裟なのよ、あんたは」

「あらあら。二人とも仲がいいわねえ」

「ディモルさん。それは二人を刺激するだけですよ」


 早朝から始まったほんの数時間の出来事が今、ようやく終わろうとしている。外に出ればまだ太陽が真上から少し傾きだした頃だろう。

 肩を回しながら出口へと歩くレインを引き止めたのはディモルだった。


「れーちゃん。他のテーブルのお金も戴いていく?」

「はあ?」

「結構あるわねえ。さっき女の子たちにあげた分よりは少なそうだけど」


 すべての卓を歩き回って引きずりだした金は、レインたちが当初持っていた額のちょうど半分くらいだった。それでも当面の生活には十分すぎる大金である。


「ディモルさん。さすがにそこまでは――」

「貰ってく! 全部回収するわよっ」

「レ、レインさんっ?」


 自分たちの金を少女たちに分け与え、それで綺麗に終わると思っていたのに。

 貧血などは関係なく、シスタノは途端に身体が重くなったような気がした。


「アル! あんたも持つの手伝いなさいっ」

「分かった」

「うふふ。二人はやっぱり仲良しねえ」


 大金に群がる三人を半眼で眺めながらシスタノは呟く。


「……よし。帰ったらすぐ寝よう」


 それは現実逃避に似た、彼女なりの処世術だった。

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