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作者: stardust

「どこからいらっしゃったんですか」

「わたしですか。わたしは地球の者ですよ」

「なるほど。でしたら、いずれはガニメデに」

「ええ、まあ地球はもう終わりですから」

「あっさりとおっしゃることだ。寂しさはないのですか」

「いいえ、寂しいですよ。しかし仕方のないことだ。

 だからこうして地球と、そして衛星である月へのお別れの旅に出ているのです」

「地球の方は皆、そのようにきっぱりとお別れなさるのですか」

「いいえ、一部の者たちは地球と運命を共にすると言って聞きません。愚かなことです」

「...愚かですか」

「ええ、愚かです。エウロパに行けば皆生き延びることができるのです。

 しかし、星に縛られて動けない。体の一部でもないというのに。これは愚かとしか」

「 ...まあ、そうかもしれませんなあ」



「時にあなたは月のご出身でしたか」

「...いかにも。私は生まれてからずっとここにおります。」

「そうですか。では、もうすぐあなたも故郷とお別れだ」

「...」

「月の方の移住先はエウロパでしたか。これからもご近所ですね」

「...私は月に残ります」

「月に残る?なぜ」

「私の居場所はここしか有り得ないのです。月を離れるなど考えられない」

「愚かなことだ。郷愁は素敵なことだが、それに縛られてはならない。

 今では生存可能な惑星・衛星は100を超す。もはや土地と人とは可分なのです。

 だから考えを改めるべきだ。私と共に木星の元へと行きましょう。」

「あなたは先ほど体の一部ではないと言ったが、それは誤りだ。

 月は生まれてから運命を共にした、私の体の一部。体の一部に縛られるのは当然

 でしょう」

「体の一部?それはあなたがそう思い込んでいるだけでしょう。

 月はあなたが偶然に生を受け、偶然に去ることがなかっただけの、唯の土台です

 よ。

 他の土台があれば新たな生活を享受することができる。

 ここに残れば、あなたの人生は確実に後2か月だ。それでもいいのですか」

「いいのです。私の望みは月と共にあることだ」

「月と共にあること?違うでしょう。あなたの望みは月で幸福な生活を得ること

 だ。

 しかしそれは不可能になった。月は2か月で生存不能になり、そこに幸福な生活

 など求められない。

 ならばせめてエウロパで幸福な生活を得ればいいでしょう。

 新たな土地で美味いものを食い、好きな歌を歌い、幸せな家庭で過ごす。

 あなたはそれよりも、月と共に死ぬことをお望みか」


「...悪いが、もうここを去っていただいてもよろしいか。あなたとは話が噛み合わ

 ない」

「いいえ、私はあなたが考えをお改めになるまで」

「やめなさい。確かに私の望みは月と共に死ぬことなどではない。

 あなたの言うように新たな土地では幸せな生活を享受できるかもしれない。

 だから、それをしない私は愚かだ」

「ならばなぜ」

「しかしそれ以上に、人の価値観に土足で上がりこんで正論を振りかざす者の方が

 よっぽど愚かだ。

 あなたは私を変えたいが、あなたは私を見ていない」

「心外だ。私は心からの想いを伝えているに過ぎない」

「そうでしょう。だから早くここから立ち去る方が幸せだ。

 あなたを説得したところで私は幸福を得ず、ここで死ぬのだから」

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