第8話 新組織結成
翌日、グレイは昨日と変わらない日常を過ごす。
治安警備隊による民間人の避難により、大多数は、魔物との闘いの中に、生死を賭けた闘いがあったことなど知らないだろう。
もし知っていたとしても、魔物は討伐者が『討伐するもの』と捉えられ、殆どの一般人にとっても無関係な事に思われてしまうだろう。
その考えが、当たり前になりつつあるこの世界を受け容れなければいけなくなっている。
グレイは考えていた。
日常生活は昨日と変わらないが、何か違和感が残っていた。
魔物との闘いを機に、どこか心情が変わってしまったのだろうか。
いや、むしろ組織にいた頃と何も変わってなかったのではないのだろうか。
朝の配達分を鞄に詰め込み、事務所を発とうとするグレイに、事務員の女性から呼び止められる。
追加の配達依頼があったそうで、お客からグレイを直接指名してきたそうだ。
「グレイじゃなきゃダメですって。 行ってくれるかしら?」
「分かりました。 場所はどこですか?」
「『喫茶店マリス・ステラ』よ」
「またあの女…… ルージュだな」
グレイは呆れた様に心の中で呟き、ため息をつきながら事務所を後にする。
ブロロロロ……
朝の配達分を全て終わらし、最後に回していた追加依頼を終わらす為、『喫茶店マリス・ステラ』に到着する。
グレイは店のドアをノックして中に入ると、いつもルージュの隣に居る黒髪長髪の女性が現れる。
「お待ちしておりました。 どうぞこちらへ」
「毎度ご丁寧にどうも」
店の中を歩いていると、ふと初めて喫茶店マリス・ステラに来たことをグレイは思い出していた。
(ここ二日で、もう三回目だな。 このお店に来るのは)
完全に常連気分になっていることに気づく。
そう思い返している内に指令室に入り、ルージュと対面する。
「もうお前とは関わらないと言ったはずだったが?」
「今回は私ではなく、『彼女達』が会いたいらしくてね。」
「彼女達?」
ルージュの隣に少女二人が並び立つ。
昨日助けた討伐者達だ。
ここに立っているという事は、魔物との闘いで、大事に至らなかったようだ。
ツインテールのセピアから大声で話し出す。
「お、お礼を言いたかっただけよ!」
「セピア、その言い方は失礼よ」
「じ、じゃあシアンから言ってよ!」
「グレイ様、この度は助けて頂きありがとうございました」
「グレイでいい。 シアン、そんなにかしこまらなくていいさ」
「分かりました、グレイさん!」
「助かったわ、グレイ!」
「……セピア、お前は敬語の使い方を覚えろ」
そんなグレイと彼女達との会話に、ルージュが割って入るように話を進めてくる。
「ほら二人共、お礼と挨拶も済んだのだから、本題に入りなさいな」
「本題?」
急に二人から目力のある眼差しをグレイに向けられる。
(何を言う気なんだ、お前達)
セピアとシアンは、目で息を合わせて叫び出す。
「せーの……私達の組織に入ってください!」
「な、なに!?」
グレイは戸惑いながらルージュを見るが、彼女は笑顔で見つめ返していた。
直ぐに状況は把握出来た。
ルージュは彼女達を利用し、グレイを無理矢理組織に入れようとしているのだ。
「……すまない、少しだけルージュと話しをさせてくれ」
「あら、返事を返すのは彼女達にでしょ?」
「策士女、まさか最初からこれが狙いだったのか?」
「そんな訳ないでしょう? それに、前に比べて顔つきも柔らかくなったんじゃない?」
「……俺は俺自身にけじめをつけたい。 だから、お前を利用させてもらうぞ」
「前にも言った通り、私の目的はただ一つ。 組織の『真実の顔』を知りたいのよ」
「だが、それが上層部組織のやり方だとわかったら、加担しないぞ」
「私達の組織に居てくれるだけでいいわ。 今はね」
「今は? どういうことだ?」
「まぁ安心しなさい。 貴方には有益なことばかりだから」
グレイは腑に落ちなかったが、今はルージュを信じるしかない。
グレイは、話し終わるのを待っていた彼女達に、ルージュ達の組織参加に返事を返す。
彼女達は喜びながらグレイに抱き着いてくる。
(怪物の顔より、無垢な女性の笑顔は、何時でも大歓迎なんだがな)
グレイは素直に受け止めて思った。
そして、またセピアが大声で話し出す。
「シアン、さっそく新しい組織名を決めなきゃ!」
「待ってセピア。 指令官、決めていいですか?」
「いいわよ。 ではグレイ、契約等は別日にまた連絡するわ」
「やれやれだな。 二人とも、いい名前を決めてくれよ?」
「実はシアンと二人で付けたかった名前があるのよね」
二人は目で息を合わせて組織名を叫んだ。
「組織、『マリス・ステラ』」
こうして再びグレイは、討伐者として魔物討伐の世界に復帰するのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました!新組織結成編は終りになります。
続きを更新していく予定です!
※完結に向け数年ぶりに再開しています。初回より改稿しました。