第4話 二人の少女
「郵便? 人が来るなんて珍しいわね」
ドアの隙間から顔を出してきた少女は、不機嫌全開の口調で、グレイに話し掛けてきた。
グレイは、少女の態度に苛立ちを感つつも、手に持っていた封書を渡す。
「こちら、受領書サインを頂けますか?」
「めんどくさっ!」
更に少女は、大声とだらけた仕草をとりだした。
(嫌々でもサインを書いてもらわないと、俺の仕事が終わらないんだが)
グレイは無理やり少女の目の前に、封書と受領書を近づける。
一瞬、少女は目を大きく開き、驚いた表情を見せ、再びグレイを睨みだす。
「あんた、この封書が何か知ってんの?」
少女は、グレイを何者か探るため、試すような発言をした。
ーー『討伐指令書』、グレイにとっては、嫌なほど知っている封書だ。
だが、今は真面目に答えてはいけない。
討伐組織にいた人間であることを、証明してしまう事になるからだ。
「……お客様が書かれた手紙かと」
「ふーん。 で、どっから持ってきたのよ?」
少女の質問攻めは続いた。
ここは素直に、ルージュから依頼されたことを話すか、嘘で固めてしまうか。
ワンチャン、封書の印にさえ触れなければこの場をしのげるか……
グレイは、頭の中で様々な回答案を考える。
「喫茶店マリス・ステラからです。 『ルージュ』という女性から郵送を頼まれまして」
「し、指令官から! あんた、もしかして討伐組織の関係者じゃ……」
少女は、大声とわかりやすいリアクション反応を返してきた。
(やはり、素性を隠すのは無理だったか……)
グレイが諦めかけたその時、後ろから別の少女が声を掛けてくる。
「大きい声を出してどうしたの? セピア?」
その両手には、食材や雑貨類のが入ったビニール袋を握っていた。
見た目は、ドアの隙間から顔を出した少女と同じ年代くらいの印象。
もう少し細かく言うと、身長と体格から十代中半くらいだろう。
ドアの隙間の少女は、赤紫のツインテール、会話に入ってきた少女は、青髪のセミロングとわかりやすいと言えばわかりやすい特徴だった。
『セピア』と呼ばれた赤髪の少女が叫ぶ。
「シアン! どこ行っていたのよ!」
「見ればわかるでしょう? 買い物よ」
「どうして一人で行ったのよ!」
「何度も起こしても起きなかったからでしょう?」
少女達の口喧嘩が始まった。
このままではグレイの仕事が終わらない。
(付き合いきれないな)
グレイは無理やりにでも会話に入る。
「あの、受領書サインを早く頂きたいのですが」
「ごめんなさい、ここでいいですか?」
「ありがとうございます」
『シアン』と言う少女から、何の疑いもなくサインをもらう。
グレイは思いもよらぬ展開にチャンスだと思う。
直ぐさまその場をそっと離れ、止めていたスクーターにまたがる。
まだ口喧嘩を続けている少女達を横目で見ながら、スクーターのエンジンを掛ける。
(ルージュにこの受領書サインを渡せば、依頼は終了だな)
ブロロロロ……
グレイは、スクーターを走らせ、再び依頼主のルージュの居る喫茶店マリス・ステラに向かう。
(早く本来の配送業務に戻り、昼飯を食べたい……)
この依頼から解放されたい気持ちが、グレイを急がせるのだった。