第3話 封書の配達
喫茶店マリス・ステラで、ルージュから受けた封書を目的の住所に届ける依頼。
その封書は、『討伐指令書』というもので、これは魔物と戦う討伐者組織に対して、魔物の討伐命令を下すものである。
封書を届けているグレイも以前は、討伐組織に加わっていた。
だが、ある事件を機に、組織に疑問を感じ、自分を責めるようになり、組織を逃げ出したのだった。
――気がつけばあれから二年が経過していた。
グレイは、素性を隠しながら逃げ込んだ街で、新しい生活をするために、職を探して働いた。
夢がある訳でもなく、希望がある訳でもなく、ただただ働いた。生きて逃げる為に。
だが、グレイには満たされない『何か』が感情の奥底にあった。
討伐組織から逃げたはずの感情は、ここにはない『何か』求めていた。
ブロロロロ……
グレイは、古びたスクーターを飛ばし、目的地の住所まで向かう。
住宅街の中を抜け、暫くすると人気のない通りに出る。
その通りをさらに進むと、何やら古びた小さな建物が目に留まる。
郵便ポストがあったであろう残骸には、ボロボロの表札が刺されており、そこには、『ハウス・ノクターン』と書かれていた。
グレイは封書の住所を確認し、目的地の住所だと確信する。
ポストがないため、直接手渡しでしか相手に渡す方法しか思い当たらず、玄関前に立ってドアをノックする。
「すみません、郵便です。 どなたかいますか?」
家の中に居るであろう住人に聞こえる様に声を張る。
……ドン、ドン、ドン、ドン!
足音が段々と大きくなって聞こえてくる。
(どうやら住人は居たようだな)
グレイは封書を渡す準備をする。
ガチャリ
ドアの空いた隙間から、背の低い小柄で茶髪ツインテールの少女が、睨むように顔を出してきた。