第2話 紅色髪の女性
「失礼します」
そう言ってグレイは、指令室なる部屋に入った。
目の前には仕事用の机と革製の椅子、そこに紅色のセミロング髪の女性が座っていた。
整った綺麗な容姿に、清楚を感じるワンピース、ニット製のカーディガンを羽織っており、見た目から貴族の様な印象を覚えた。
「初めましてグレイさん。 私の名前は『ルージュ』。 お時間頂きありがとうございます」
「いえ、構いません。 それで、私に何の用でしょうか?」
「さっそくですが、この『封書』をある住所まで届けて欲しいのですよ」
グレイは、ルージュから渡された封書を手に取り、確認する。
そこには、見覚えのあるマークが印字されていた。
その印字について、グレイはよく知っていた。
『討伐指令書』というものだ。
だが、グレイは渡された封書を机の上に置いて、ルージュに返す。
「……すみませんがお受取できません」
「どうしてですか?」
「新しい配達の依頼は、事務所を通して頂く手続きが要りますので」
「では、個人的に貴方にお願いしますわ。 報酬はこれくらいでどうでしょう?」
ルージュは、少し重たそうな革袋を机に置く。
その拍子に硬貨がぶつかりあう音が、重く部屋に響き渡った。
そして、彼女は話しを続ける。
「これでお願いできるかしら?」
「……見ず知らずの私が届けるという保証は、ありませんよ?」
「大丈夫、貴方なら必ず届けてくれる」
グレイには、彼女の言っている根拠は、どこにあるのかわからなかった。
「申し訳ないですが、依頼はお断りします。 それでは失礼します」
グレイは、捨て台詞を吐くように後方を向き、入ってきた扉から部屋を退出しようとする。
だが、ルージュが背中越しに問いかける。
「貴方がその封書について、一番お判りでしょう、グレイさん? いえ、元『漆黒の討伐者』さん?」
(なぜ、その名前を!?)
突如グレイの全身に小さな電撃のようなしびれが走る。
足を止め、ゆっくりとルージュを睨むように振り向く。
ーー『漆黒の討伐者』。
それは、魔物と闘う討伐組織の総称として呼ばれている言葉だ。
それはつまり、グレイが過去に討伐者として生きていた事を知っている、と言うことを示しているようなものだった。
「……お前はあの組織の仲間か。 目的は何だ?」
「私の目的はただ一つ、組織の『真実の顔』を知りたいの」
「『真実の顔』?」
「さて、話を戻しましょうか」
ルージュは、一息ついてから話しを続ける。
「貴方が素性を隠して、この街に居る事を知っているのは、私だけ。 どうします?」
ルージュは微笑を浮かべ、グレイに明るい口調で言った。
グレイは、今の状況で断れる場ではない事を察した。
机の上に置いてある『討伐指令書』と報酬金を手に取って返答する。
「この『指令書』を届けるだけだ」
「交渉成立ですわね」
グレイは喫茶店を後にする。
『ルージュ』という女性は、その優しい笑顔と見た目とは裏腹な性格をしているように覚えた。
頭の中で様々な感情や思考がよぎりながらも、スクーターのエンジンをかける。
ブロロロロ……
「これは昼飯抜きかもな……」
溜息と一言つぶやきながら、目的の住所までスクーターを飛ばしていくのだった。