第1話 無愛想な配達人
――人は何の為に働くのだろうか。
夢を叶える為? 目標を達成する為? 生きる為?
――人は何の為に生きるのだろうか。
自分の為? 誰かを守る為? 理由はないけど本能?
――では、俺は何の為に働いて、何の為に生きているのだろうか。
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ブロロロロ……
自問自答をしている彼の名前はグレイ。
とある事で逃げ込んだ街で、配送業の仕事をしている。
毎日変わらない業務には精が出ず、私生活すら何も見いだせない感情を抱いていた。
今日も古びたスクーターのエンジン音を鳴らし、無愛想な面立ちで、お客の荷物を配達する。
次の訪問先で丁度、午前中の配達分が終わるタイミングになる。
終わったらさっさと、勤務先に戻って昼飯を食べよう。
そうすれば、こんな渇いた気持ちもサッパリする筈だ。
グレイは心の中で呟きながら、スクーターの速度を速めていく。
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ブロロロロ……ブンッ。
グレイは、スクーターのエンジンを止めて、目的地の建物名を確認する。
『喫茶店マリス・ステラ』
荷物の宛先と一致した。
空の色に合わせた屋根と外壁、どうやらこの小さな建物で合っているらしい。
グレイはドアをノックして中に入る。
「失礼します、宅配便です」
奥から眼鏡をかけた、スーツ姿の黒髪長髪の女性が向かってくる。
「お届け、ありがとうございます」
「サインを頂けますか?」
グレイは、女性からサインをもらい、荷物を渡す。
「またご利用下さい。 失礼します」
その場から離れようとするグレイに、女性は声を掛けて呼び止める。
「少しお時間を頂けますか、『グレイ・アッシュ』?」
「構いませんが、どの様な内容でしょうか」
「内容については奥で…… こちらへ」
グレイは、案内されるまま喫茶店の奥に向かう。
飲食席がある部屋とは別に、左側に奥へと続くルートがあり、その先の階段を進む。
さらに、その奥に一室のドアがあり、そこに『指令室』と書かれた札が飾られていた。
「少しだけここでお待ちください」
そう言って女性は、指令室の中に入っていった。
喫茶店なら指令室ではなく、『オーナー室』と書くほうが良いような気もするが……
グレイは、小さな喫茶店が自分に何の用があるのか考えていた。
暫くして、女性が指令室から顔を出し、声を掛けられたので、グレイは部屋に入るのだった。