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ワタクシ。Ritaであります!  作者: リノキ ユキガヒ
第二章「ヤツらとワタシ」
7/47

 本日も仕事を終え、自宅という名の要塞に帰ってきた私。

 いつものように書庫というか書斎のような部屋のパソコンを立ち上げ、ネットを閲覧しようとした時、メールを受信している事に気が付いた。

 因みにこの部屋にあるパソコンはあくまで趣味の為にあるのであって仕事用ではない。不相応な仕様は現段階では不問とさせて頂く。

 仕事用には別にタブレットにもなるノートパソコンを寝室に用意している。勿論。アドレスは元より、使用するネット回線ですら別回線で、情報管理は徹底している。アカウントを変えるなどという手緩い方法ではない。このタブレット型ノートパソコンはモバイルルーター専用機で自宅の有線ネット回線には絶対に接続もしないし、ヤツらのメールアドレスなんかも入れていないし、自分の趣味を臭わせるモノは一切インプットしていない。完全に仕事用として独立させている。

 この仕事を初めてからというもの、この辺りには非常に気を遣っているつもりだ。と、いうか力を入れている。仕事用とプライベート用にスマホ二台持ちなど当たり前だ。

 一早くモバイルWi-Fiルーターも導入した。ビジネスの世界ではやはり機動力と情報の速さと共有は武器となる。今の世の中やはりネットなしで仕事を進めるのはナンセンスだ。デジタルコンテンツに迅速に対応できなければ力量を問われかね位だ。それは私のいるモデル業界としてもいえる事でそれらを持ち味として全面に売り出す者もいる。これらはアイドル業界を見て頂ければ納得してもらえるだろう。

 そしてこれにはもう一つ重要な意味がある。

 回線を分ける事によってメールを送り間違えるという凡ミスを防ぐ為でもある。

 仕事と私用が交わる事は絶対にあってはならない。

 特にヤツらを守る為にもこの辺りに一分の隙は許されない。ヒューマンエラーは時として思いもかけない事例を発生させる。

 戦争のみならず、私生活においても。

 男性諸君にはこの辺りはかなり共感できるのでは?


  ほほぅ…。


  因みに寝室の仕様は極めて凡庸なので説明は割愛させて頂く。

「っとヤツから確認のメールだな」

 ヤツ一号である小川さんからのメールの中身を確認した。

「会合の確認だな」

 そうつぶやくと返信用のメールを作成した。内容はいたってシンプル。

「当方、問題なし」

 そう返信して私は床に着いた。

 そして次の日の朝。と、いうかおおよそ午前十時十分前位。軍事マニア風に言うなら、

 

 マルキュウゴーマル時


  と、いった具合か?


 場所は近所のファミレスの前にいた。本日、モデルの仕事はオフで、私は待ち合わせの為にここにいた。

 小脇に抱えた高校生時代より使い古されたトートバッグの中には、管理人さんから受け取った冊子の入っている茶封筒が未開封であるのと、戦艦大和に関する書物数冊。それと旧帝海の艦艇が載っている書物が数冊ある。それに会合専用のスタンドアローンのタブレット端末。

 これだけあると結構な重さだ。私はその重さに耐える為にトートバッグを、左に右に架け替えていた。

 暫くすると小走りにこちらに向かってくる男性が目に入った。

「いやー。参ったダヨー」

 彼はそう言いながらゼイゼイと息を切らせ私の前で立ち止まる。

「お店のコが病気で一人来られなくなって、ギリギリまでオープン準備に戸惑ったダヨ。何とか抜けてきたダヨ」

 妙な口癖のある彼。私が日頃よりヤツと形容する人物の一人。小川さんだ。

「ふん。気合いが足りないからそうなるのよ」

 と、彼の顔も見ずに私は言い放った。

「今時そんなの流行らないダヨ」

 小川さんはそう言うと辺りを見渡した。

「カネコさんはまだ?」

「あの人が時間通りに来るなんてまず無いでしょ」

「確かに」

 小川さんはそう言うと背中にしょってあるバックパックをドスリと地べたに置いた。

「相変わらず重たそうなリュックね」

「え~と、軍用ノートパソコンにあとは資料が諸々ダヨ」

 軍用ノートパソコンとは随分仰々しい言い方だが、日本の家電メーカーが作り出した異常に『タフ』なパソコンの別名だ。

「中々紙資料の簡便さは手放しがたいものがあるわね」

「ダナ。確かにパソコンの方が膨大な資料をコンパクトに運べるけど、お目当てのファイルを探すのが大変ダヨ。書籍なら場所が代替分かるから検索は楽ダナ。ただ一回全部読まないと検索なんて出来ないけどね」

「確かに」

「ところで例の物は持って来ているダカ?」

「当たり前よ。私を誰だと思って?」

「カリスマモデルのリタ?」

「シッ!!」

  私は人差し指を自分の口に当てて小川さんの言動を制した。

「大丈夫ダヨ~その格好ならバレやしないダヨ」

 少々、殺気立つ私をよそに彼はノンビリ構えている。

 確かに今の私の格好は野暮ったい。メイクはしていないのは当たり前で。

 膝下丈のスカートに白のブラウス。黄色のカーディガンを羽織っている。髪は勿論束ねる事無くボサボサのままで黒渕のメガネ。おまけに足元は白のハイソックスに安物のスニーカーという具合。

 見る人が見れば「アレ」な感じの女性だ。

 その格好からとてもじゃないが私が、モデルのリタという事には思いもよらないだろう。

 隣にいる小川さんはカッターシャツにスラックスというごく普通のサラリーマンのような格好だ。

 まぁ、彼の職業は大手チェーン書店「文学堂」の雇われ店長なので職業なりの格好だ。髪型も短髪七三と小ざっぱりしている。

 ちなみに彼の務める店舗は私の住むマンションの斜め向かいにある。

 高校よりの腐れ縁とはいえここまで来ると正直発酵しているのではないかと思える位だ。

「会合の時間は過ぎたわね」

 私はトートバッグの中から会合用のスマホを取り出すと時間を見た。

「しょーがない、中に入って待ってようか」

 小川さんがそう言った瞬間にけたたましいエンジン音が私たちの耳に飛び込んできた。

「っかー。相変わらずダナ」

 小川さんがそう言う視線の先には真紅のオープンカーが。そしてそれは私たちの持つファミレスの駐車場に入ってきた。

 そのオープンカーは仰々しいエンジン音を轟かせながらバックで駐車スペースに収まるとエンジンを停止させた。

 辺りは板橋区っぽい静けさを取り戻す。

「んぁ。悪ィ」

 そう言いながら近づいて来たのは長髪の男性だ。

 とはいってもそのヘアスタイルはオシャレで伸ばしてる訳ではなさそうだ。おまけに薄汚れたツナギ姿だ。

 彼が言うにはイタリアのアルファロメオというメーカーの車だそうだが、そんな格好だと、折角のオープンカーも、整備士がなんかテスト走行してるようにしか見えない。

 彼はアゴの無精ひげを片手でいじりながら更に言葉を重ねた。その手は所々汚れている。

「んぁ。昨日、車いじってたら止まらなくて…」

 苦笑いと同意を求める視線を私と小川さんに飛ばす。

「やっぱり外車ってよく壊れるノカ?」

「んぁ?まぁ、壊れるというか…」

「そんなに大変なら国産の車にすればいいのに」

「んぁ!?解かっちゃいねぇなあ!イタリア車の持つ官能的なサウンドが。大体アレだぞ。これだけ科学が発達した世の中でもエンジンを自国で造れる国は限られているんだぞ。それにイタリアは元々航空機先進国で未だにレシプロ機の世界記録は破られてないからな」

「マッキMC72ね」

 私たちは他愛ない(?)会話を交わしながらファミレスの自働ドアを潜った。

「ようこそ。三名様ですか?空いてるお席どうぞ」

 パートタイムと思われるウエイトレスさんに席を案内されると私たちは窓際のボックス席に陣取った。

 午前中の昼前とあって店内の客はまばらで私たちの他には休憩中と思われるタクシーの運転手さんと、近所の主婦と思われるグループが散見される程度だった。

「あ、コーヒー三つお願いするダヨ」

 小川さんが席に着きながらウェイトレスさんに注文をしていた。

 彼女と小川さんは通り一辺倒なやり取りを済ますと席についた。

 配列はいつも通り。私が一人で座り、その向かいに小川さんとカネコさんが座る。

 カネコさんは窓際で、小川さんは通路側だ。私は二人の間くらい。三人の位置関係は私を頂点とした三角形を思い浮かべて貰えば解かりやすいだろう。

「はい。今月号」

 私はそう言いながら茶封筒を取り出すとテーブルの真ん中に置いた。

 小川さんの手がすかさず伸びて、その茶封筒の封を確認する。

「まだ、開けてないナ」

 彼は私の方をチラと見る

「当たり前よ」

「んぁ。小川さんの割り印がまだあるから未開封だな」

「満足?」

「確認はこれでいいナ」

「んぁ」

「デハ」

 小川さんはそう言うと乱暴に茶封筒を引き破いた。

 そして中には結束された三冊の雑誌の姿が露になる。

 彼は器用にその結束を解くとそれぞれの場所にその雑誌を置いた。

「各自、準備はいいか?」

 私はそう言った後に、改めて二人の顔と、各々の前に置かれた雑誌を眺めた。そして一度深呼吸をしてから言葉を発した。

「用意!」

 号令の様な合図に合わせて三人の手は雑誌の表紙に置かれる。

「テッ!」

 その言葉を皮切りに三人は雑誌を取り上げ貪る様に読み始めた。

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