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ワタクシ。Ritaであります!  作者: リノキ ユキガヒ
第八章「記録!記録!記録!~それは戦艦武蔵のように」
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 私のポスターのドカチャカが落ち着いた頃。もう一つの記録が産まれようとしていた。

 出版不況がいわれる今日において、私がよく出させて頂くファッション雑誌「J&J」が何と、今月の販売部数において、全部門を制覇したのだ。

 この事を知ったのは某検索サイトのトピックスだ。具体的に言うと。


 店頭販売

 通販売上

 電子書籍部門


 だ。

 こと、通販と電子書籍については密林系サイトにてブッちぎりの1位を勝ち得たらしい。

 これには時代の流れもあるが、その勢いに自分も驚きを隠せなかった。

 このJ&Jの猛進を、私とマネージャーさんは別現場にいて知り得た。

 ひょっとしたらであるが、今編集部はお祭り騒ぎかも知れない。

 ファッション雑誌はその華やかさとは裏腹に、アパレル業界の不況と共に、その未来には少なからず暗雲が立ち込めている雰囲気がある。

 しかし、その暗澹たる雰囲気を一層せんばかりにその咆哮は、正に巨弾巨砲となり活路を見いだすべく希望という名の済射を放ったのだ!

 その末席にいる私ですら何か誇らしい気分になった。

 仕事を終え、ビルの谷間からとはいえ、見上げた空は心なしか晴れやかに見えた。

 この歴史的快挙は世間の話題を一時独占した。

 経済評論家と評する方々の分析によると、正に次世代型の売り方であり、EC部門の売上が店頭販売の売上を底上げしていったと分析している。

 つまりは、いままでファッション雑誌たるものはアクティブに動き回る、比較的友好関係の広い層に向けての発信が多かったのだが、ことJ&Jはどちらかというとインドア派。いわゆる引きこもり層に向けての発信が多いい。

 とはいえファッション雑誌元来のイメージである華やかな雰囲気を損なわず、絶妙なバランス間隔でその紙面を構成し、需要を掘り起こす事に成功したのだ。

 と、分析されている。

 手っ取り早く言えば、今までファッションとかに興味の無かった所謂、オタクさん達を狙い打ったのだ。



 …ん?



 べべべべべべべ別に私の事じゃねーし!

 私はただ単に言われた事やっただけだから!

 ふぅ…。

 多少取り乱したが、次回J&Jの編集部を伺う時は菓子折り位は持参しなければ。

 まぁ、私が何かするよりも先にマネージャーさんが既に何かしてるだろう。

 とまぁ。兎にも角にも今、ファッション雑誌業界といわず、出版業界全体にとってとても景気のいいある話でる事は間違いなないだろう。

 この事が起爆剤となり、出版業界全体が盛り上がってくれるならなお良しだ。

 私のギャラも上がれば…。グヘヘ。

 おっと。ファッションモデルともアロウモノガこのような下世話な物思いを抱いてはならぬ。

 常にフラットに、常にクールに、その存在はイノセントであり、無垢だ。

 忘れてはならない。


 しかし、あくまで、あくまでだ。希望的観測なのだが、今回の一件でお給金について何もない事はないかもしれない。

 そう思うと、口元が思わず緩んでしまう。


 ヒヒッ。



 

 私の下世話な思いとは逆に、J&Jの編集部に伺う機会は、話題騒然の時には無く、また、スタジオなどでJ&Jの面々と顔を会わせる事もなかった。

 そして時は流れ、J&Jの三部門制覇の熱が冷めかけてた頃だろうか?

 次回号の打ち合わせで編集部に行く事ととなった。

 しかし、打ち合わせの時間は私の仕事の都合で夜となった。

 正面口ではなく、建物の脇にある通用門から入館した。

 昼間と違って夜間の出入りは通用門となるのだが、ここを通る為には、入館手続きをしなければならない。

 実は私。この裏門というか、通用口というか?ここの夜の雰囲気がとても好きなのだ。

 防衛省の時のように明らかに厳しいセキュリティが求められる場合とは違い。その雰囲気に物々しさは無いが、それなりの強度が求められるのが解る。

 こういうと自分が高飛車に人間に思われそうで嫌なのだが、私自身で入館手続きをする事は余りない。

 マネージャーさんが列に並びその列から一歩引いた所に私は大体いる。人間観察というほど大それたものではないが、それら全体を視界にいれつつボンヤリ眺めて、マネージャーさんの入館手続きを待つ。

 入館手続きを待つ列は2、3人とさほど長くないが、それらを待ってる間にも人の往来は当然ある。

 頭をボリボリ掻きながら出ていく編集の方、それと入れ替わりに入るコンビニ袋をぶら下げた編集の方。編集の方はあらかじめセキュリティパスを持っている。それらの人らは入館証をかざすだけでノンストップで通りすぎて行く。

 我々はよくお邪魔するとはいえ、そのようなものは当然持ち合わせていない。

 それに類するものを借りるのだ。

 マネージャーさんの並ぶ列に視線を集中すると彼の前は何やら配達の方らしく、段ボール箱を小脇に抱えている。

 彼を飛ばしてその後ろは何と、白衣姿のお蕎麦屋さん。恐らくどこかの編集部の遅い晩ご飯だろうか?まぁ、大概がこういったものは週刊誌か漫画雑誌とかだろう。

 出汁の香り漂う通用口。私も今夜の夕飯はお蕎麦にしようかしら。

 と、思ってると

「リタさん」

 とマネージャーさんに呼ばれたので、彼のもとへと足早に寄っていった。

 彼のエスコートではあるが、エレベーターに乗り、J&Jの編集部を目指した。そこにたどり着く前に、いくつかの部署、編集部の前を通り抜ける訳だが、夜とはいえ館内に活気が無いわけではない。昼間と同じ賑わいはある。

 特に週刊誌などは入稿前ともなるとその賑わいと殺気はなかなかのものだ。

 私もこの出版社に出入りをしてかなりの年月が経つので、顔見知りがそれなりにいたりする。

 すれ違いざまに「やぁ」とか「おう」など声をかけられる。

 よく言えばベテランだが悪く言うとタダの古株だ。

 そんなこんなでJ&Jの編集部に着く訳だ。

 しかし、J&Jはつい先日入稿を終えたばかりなので、先程通りすがりで見て来た編集部のように殺気だった雰囲気はない。

 どちらかというと穏やかで凪いだ雰囲気だ。

「あ、いらっしゃい」

 一番奥の自身のデスクに座り、多少リラックスした感じで久我山編集長は私達を迎え入れた。

 勿論、彼女の持ち味であるあの人懐っこい笑顔はあるが、それも一仕事終えた後でどこか影がある様子だった。

 昼間に何かトラブルでもあったのだろうか?いつもの笑顔に添えられた僅かな違和感。

 彼女とはそれなりに長い年月を過ごしてきた。しかし、こんな表情を見たのは初めてだった。

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