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ワタクシ。Ritaであります!  作者: リノキ ユキガヒ
第一章「ワタシというモノ」
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 さぁ、彼女は褒めてくれたが。アパレルの権化のようなスタイリストが聞けばグーで殴り掛かって来そうなダ●エーで売っているブラウスと黒のパンツで私の身は包み込まれると、スタイリストさんのなにやら意味深な言動のあったメイクルームを後にした。

 そして私はスタジオのロビーへと向かった。広くない廊下ですれ違うスタッフさんと「お疲れ様」の軽い挨拶を交わす。

 私と挨拶を交わし、すれ違った直後。女性スタッフは何故か「キャー」と言う黄色い声を発しながら小走りで私の後ろの方を駆けていく。

 …?私だけが感じる妙な感じ。

 ひょっとしてまだ、メイクが落ちきっていなかったのか?

 そう思って顔をちょっと触ってその感触でそれを確かめようと試みた。

「ふむ。てか判らん」

 そう軽く呟くと、私は幾つかあるテーブルの内の一つに男女が些か難しそうな顔を突き合わしている所に足を向けた。

 私の履くローヒールのパンプスの足音にその男女は反応を示した。

「あ。リタさんお疲れ様です!」

 男性の方は腰かけていた椅子から何かバネ仕掛けの機械みたい立ち上がると私に一例をした。

「あ、お疲れ様」

 そんな彼とは違って控えめにというか?少しよそよそしい感じというか?何か微妙な距離感で挨拶を返した。

 そう、彼は私の事をマネジメントしてくれる人。つまりはマネージャーさんだ。

 少しラフな格好な私と違い。彼はネクタイにスーツとビシッとしている。髪型も少し長いがストレートが幸いして清涼感のある感じになっている。

 もともとファッションモデルが多数在籍する芸能事務所にいるからだろうか?その辺のセンスは私なんかより全然上な気がする。

 私より年上なはずなのに若々しい、初々しい感じが薄れないそんな印象を相手に持たせるが、黒縁のメガネの奥にある眼光はそれとは対極を生す手練れが持つ光を宿している。

 それだけで彼が並のマネージャーではない事を伺わせる。

 まぁ、それ位のセンスと勘所が無ければとてもじゃ無いがモデルのマネジメントなんて勤まらないのだろう。

 それにモデルは元より現場の連中に舐められたらこの稼業はやってはいけないだろう。

 そんな彼の向かいに座る人も中々一筋縄ではいかなそうな雰囲気を放っている。バリっと着こなされたスーツと、顎までのセミロングの髪型。野暮ったくも下品にも見えないスカートの丈。組まれた足の先には磨きあげられたパンプスが光を放っていた。正にヤリ手の雰囲気がムンムンだ。

「リタちゃんお疲れ様」

 笑顔でそう言うと彼女は手をひらひらさせた。

「あ、どうもお疲れ様です」

 私も挨拶を返すとテーブルへと視線を移した。

 ノートパソコンとタブレット端末がありその画面には先程撮られた写真のデーターが映し出されていた。

 彼女は慣れた手つきでノートパソコン。クリエイター御用達のリンゴのマークが入ったそれの画面を私の方に向けた。

「今月も期待できそうね」

 彼女はそう満面の笑顔で言うと椅子の背もたれにその身を預けた。キィっとそのちょっと洒落た椅子は金属の軋みを上げる。

 私もその声と音に釣られ彼女の方に顔を向けた。そこにはまだ人懐っこい笑顔をたたえた彼女がいた。

 何だろう?確かに彼女からは何か只者ではない雰囲気がにじみ出ているのだが、この笑顔を見るとそんな事より何か彼女の為に尽くしたくなるような気になるから不思議だ。


 こ、これがカリスマか?


 と、陳腐な表現をするならそれが一番解りやすいかもしれない。

 だが、それもそのはず、彼女は今若い人達の間で絶大な人気を誇るファッション雑誌

「J&J」

 の編集長。久我山香なのだ。

 世の中不況が叫ばれて大分…。というかもはやそれが当たり前の様になる位になるまでなってしまった今日において、廃刊寸前の本誌の売上部数を劇的に伸ばし、今や飛ぶ鳥を落とす勢いまでに復活させた久我山編集長。その彼女が言うには私にはそう言う秘めたる力があったらしい。

 にわかには信じがたいが今のこの状態を見るにそういう事なのだろう。

 まぁ、他の人から見ると実に羨ましい生活を送っているのは判るが、本人がそれをヨシとしているかと言えばそれはまた別の話しになる。

 何か他人事のような感じは受けるかと思われるかもしれないが。小、中、高と地味のお手本の様に生きていた私の人生。それが一つの出会いと、一つの悪ふざけから、思わぬ方向へとその舳先を向けた。

 まさか私がファッションモデルのRitaとして人生を歩むとは…。

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