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ワタクシ。Ritaであります!  作者: リノキ ユキガヒ
第四章「天気明朗なれど…」
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 某月某日、天気・晴


 首都高の高架から見え隠れするどこまでも澄み渡る青い空。国道十七号線を一台の真紅のオープンカーが駆け抜ける。

 中世の盾を彷彿させる印象的なフロントグリル。

 そこに光り輝くする紋章のようなエンブレム。

 車列の中に響き渡るV型エンジンの排気音。

 個性的な面構えと相まってなんともイタリア車らしい主張を放つ。

 そんな自己主張を具現化した車。


  アルファロメオ


  は、三人の旧軍マニアを乗せてひた走る。

「んぁ、今日は中山道空いてんな~」

 カネコさんは上機嫌で愛車のハンドルを握る。

 逆光の対策の為か?彼は今日オークリーのサングラスをかけている。

 我々ミリタリーマニアの間ではシューティングゴーグルとして目を保護する為、有名なメーカーなのだが、ポリカーボネートの丈夫さを世に知らしめた製品としても有名で、防弾サングラスの異名を持つ。

 しかし、このサングラスの異名を考えると、カネコさんが何故サングラスをかけているかを別の意味で深げに考えてしまう。

 まぁそんな事はさておき、原付の免許すら持っていない私には今の道路状況がどうなのか正直解らない。

「空いてる」と言ってる割には右に左に車の間を縫う様に走らせているのはなんでだろう?

 カネコさんがハンドルを切るその度に私の身体は左右に降られる。しかも何かタイアから「キュッ」と言う音が稀に聞こえてるような…。

 「ねぇカネコさん!タイア鳴ってない?」

 エンジンの音とボウボウと唸る走行風に負けない様に私は声を張り上げた。

「んぁ!あぁ!この車FFだからリア鳴りやすいんよ!セッティング変えなきゃなぁ!…」

 私には答えになっていない意味不明な言葉を投げかけられたが、セッティングとは?

 三式戦・飛燕のスーパーチャージャーのセッティングがシビアなのを本で読んだが、車のセッティングとはいかに?エンジンの事なのか?しかし、カネコさんはリアと言っていたから何か後部のどこかしらの事なのだろう。

 アイアンサイトで照門の事をリアサイトともいうし…。

 私の疑問をよそにマシンはご機嫌なサウンドを公道にブチまけながら駆けていく。

「アン?」

 カネコさんが何かに気付いたらしくアゴをしゃくりながら視線をバックミラーに飛ばす。

「んぁ、上等じゃねーの」

 彼はそう呟くと、シフトノブに手を伸ばした。

 この瞬間私には嫌な予感しかない。

「我に追い付くグラマン無し!」

 カネコさんは唐突にそう叫ぶとギアチェンジをしながら思い切りアクセルを踏み込んだ!

「グラマン!?」

 私は素っ頓狂な声をあげるも強烈な加速Gのせいでシートに思い切り押さえつけられた。

「一体何…?」

 猛烈な勢いで流れていく景色の中でうめくように声を出す。一瞬瞑った目を開くとその中にチカチカと光る赤いランプの様なものを後方に発見した。

「嘘ッ」

 と心の中で叫ぶ。

 カネコさんの車を赤色灯を付けた白と黒の緊急車両が猛烈な勢いで追いかけて来ている!いやいやいや!洒落にならないって!カネコさんを何とかなだめて…

「こうなると、どうしようもないダヨ」

 小川さんは悟ったようにリアシートに伏せながら私にそう言った。

「ちょ、ちょ、ちょ、カネコさん落ち着いて」

「んぁ!?高機のパーカーがイキッてんじゃねーよ!!」

 答えにならない叫び声しか返ってこなかった。彼は猛烈な勢いでハンドルを切る。それと同時に私は右側頭部を窓ガラスに思い切り打ち付けるように何か見えない力で押さえつけられた。タイアがキィィィーという悲鳴のような音を立てている。それと同時に何かゴムの焦げたような匂いが鼻をついた。凄まじい横Gが私の身体を襲う。

「あががが」

 もうなにが何やら、板橋の中山道を走っているのになぜか大海原が見えた。


 きらめく波間の遥か彼方になん筋もの航跡。それは恐らく戦艦、空母を含む大艦隊。

「敵艦見ゆ!」

 偵察機・彩雲の真ん中に搭乗する私は声を張り上げた。

 それと同時にその艦隊からチカチカと光る何かを見たと思ったら爆ぜる音と共に機体が強烈に揺さぶられた。

「艦砲射撃!!」

 直感的にそう感じると同時に機体は急上昇に転じた。

「後方より敵機!グラマン!来るッ!」

 後部座席の小川さんの叫び声が伝声管を越しに聞こえる。

「チッ!もう追い付かれたか!?全速降下で振り切るぞ!」

 カネコさんはそう叫ぶと操縦桿を思い切り倒した。頭を置いてけぼりにされそうな位に凄まじい加速とマイナスG。彩雲はほぼ垂直に降下する。ウォーンという不安を煽る音に全身が包まれる。

 機体の横を赤い火戦がヒュンヒュンと過ぎていく。

 追撃機が牽制射を加えながら我々の退路を遮る。

「ムオオオオ!高度五千!速力三百ノット!!」

「カネコさん引き起こして!」

「まだまだ!!」

 座席越しにも解る位に海原が目の前に迫る。高高度では見えなかった、白波の様子が目視できるようになってきた。機速が増すごとに増えていく機体の振動。ゴトゴトと悪路を走る様に上下左右に激しく細かく揺れる。

「もうダメ!」

 私は思わず目を瞑った。

「おらぁ!」

 カネコさんの叫ぶ声と同時に何か踏みつける「バン」という音が機内に響いた。

 彼は計器版を踏み台にして思い切り操縦桿を引いた。

 全身の血液が足に一気に集まる感じに一瞬飛びそうになる意識。機体から聞こえる「ミシリ」とも「ギシリ」ともいえない不穏な音。思わず「くぅ」という苦悶の声を私はあげてしまった。

 後頭部と背中が座席を突き抜けそうな位の力で押さえつけられる。しばらくすると身体がフッと軽くなった。彩雲は水面ギリギリの所で水平飛行になったのだ。

 その直後。ズドン、ズドン、という鈍い音が耳に入ってきた。

 その音に釣られて思わず後ろを振り返る。何本かの水柱が上がっていた。

 恐らく追撃していた敵機の何機かが機体の引き起こしをできずに海面に衝突したようだ。

「ふぅっ」と私は思わず安堵の溜息をはいた。


  「我に追い付くグラマン無し…」


  そう呟く。



んぁ。彩雲で全速急降下ってできたのか?

普通はしないダヨ。

そうね。

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