⑤
「ちょっと~。それ位の事、私が知らないと思って?」
「そういう意味じゃないダヨ」
「んぁ。しかしカメラっていつの間にかファインダーとか覗かなくなったよな」
「あー。ほとんどが携帯の影響ダナ。コンデジなんて最たるもんだよ。今時のカメラは一眼レフでさえミラーレスになってファインダー覗かないダヨ」
「本当、いつの間にかだわ」
「んぁ。隊長はモデルなのにその編は疎いの?」
「モデルだからってカメラに詳しいなんて無いわよ」
「モデルさんはあくまで写される側だしナ」
「んぁ」
「そーねー」
「んぁ。そりゃースマホで弾道計算ができる時代だもんな。そんなふうになっても不思議はねーよ」
「随分極端な例えダナ」
「んぁ。時代は進んだって事よ。車がキャブレターからインジェクションに進化するように」
「その例えもどうかしらね…」
「しかし、戦艦大和って本当に日本の重工業の礎ダナ」
「魚雷を二十発近く喰らっても沈まなかった武蔵を見た米軍が航空機の優勢を疑ったわ」
「それを知ってたから戦後日本に造船の依頼が殺到したトカ」
「んぁ。大和を造ったドックは未だに呉にあるもんな」
「大和のドックで思い出したケド、編集長さんの名前は久我山さんなんダナ」
「そう。あの伝説の高射砲と同じ」
「んぁ。B29を二機一辺に墜としたってヤツか」
「そ。米軍の記録にはないらしいけど」
「んぁ~」
「リタに久我山、本当にでき過ぎてるダナ~」
「全く」
「二人の名前が旧陸軍由来ダなんて」
「んぁ」
「そりゃそうともうすぐじゃないかしら?買い出しの日」
「あ、そうだったダナ」
「んぁ。神保町の?」
「そう」
私達はこの定例会以外にももう一つ定期的に会合を行っていた。
大体季節の変わり目にそれは行われ、それは
「神保町の買出し」
と我々は呼んでいた。
神保町。いわずと知れた日本の書店街でその街にはありとあらゆる書物がある。
その中には勿論軍事に精通した書店もあり、我々はそこに行くのが目的だ。
そして、本は大量に買い込むと思わぬ重さになる。それらを持ってヒイヒイ言いながら電車にのるのは疲れるし、キャリアを持って行ってひんしゅくをかいながら電車に乗るのも気が引ける。
そこで重宝するのが車を持っているカネコさんだ。
とは言ってもカネコさんは仕事の都合上よく車を乗り換える。今乗っているのもイタリアの車で、疎い私にはなんだかうるさい派手な感じしか印象が無い。
前回も確か外車だったような気がするがうるさくて派手な印象しか無い。
と、いうかあの真っ赤なオープンカーで都内を走る訳だが、乗車しているのがゴリゴリの旧軍マニアというのはいかがなものか?
モデルの私が言うのなんだが確実に似合わないだろう。
いや、だからと言ってハマーやらジープやらならイイ訳でもない。ましてやチハなんて言語道断。
正に「着ていく服がない」を地で行く感じだ。
オープンカー。確かに撮影とかでたまに運転席に座ったり脇に立ったり、前の方に座ったりはしたりするがそれはそれなりの格好をしているからこそ見れるものであって、私の普段の姿でオープンカーの脇に立てばよくても「通行人A」だ。
「ねぇカネコさん?やっぱり車はアレになるの?」
私はちょっと申し訳無さそうに聞いてみた。
「んぁ?」
彼はちょっとキョトンとした表情をして一回駐車場に停めてある自分の車をチラと見た。
「んぁ。そうだけど何か問題ある?」
「問題というかなんというか…」
「んぁ!隊長まさか」
「そうそのまさか!」
「トラックじゃないと間に合わない位買い込むつもりダカ?」
「違うわよ!」
突然入る小川さんの茶々に思わず声をあげる。
「んぁ。じゃイーんじゃねーの、確かにリアシートは狭いけど板橋から神保町なら問題ねーべ」
「そ、そうなの?」
「自分ならトランクでも大丈夫ダヨ」
「んぁ。確かにおまえの体格ならいけっかもしれねーけど、そりゃ法律違反だからな、やめとけ」
どーにもあの派手なオープンカーには乗らないといけないハメになりそうだ。