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ワタクシ。Ritaであります!  作者: リノキ ユキガヒ
第三章「仕事人リタ」
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えーいこうなれば!!


私はスロットルを目一杯にふかした。そして吸入圧力計に目をやった。

零戦のエンジンには常に過給機による圧力がかかっている。現在の車でこそよく聞くターボというやつだ。このターボとかいう機構の通称は航空機業界だと排気タービンといったほうが通りがいい。

だけど零戦の過給機はそのターボではなく、スーパーチャージャーという機械式の過給機だ。

ターボ、いわゆるターボチャージャーとスーパーチャージャーの違いは、前者は排気圧を利用し、後者はエンジンのクランクシャフトやカムシャフトから動力を得て過給機。コンプレッサーを駆動させる。余談だがターボチャージャーはかなりの高温、高圧力になるためその実用化には当時はかなりの技術力が必要とされた。それが災いして残念ながら旧軍の方では実用化には至らなかった経緯がある。

戦後になって自動車のスポーツモデルの方ではかなり搭載されてはいるがそれでも素人が扱うとタービンブローやエンジンブローの憂いに合う。

長々と過給機の説明をしたのはこの過給というものが解らなければ私の今からする行為の危険性が理解しづらいからだ。

零戦の計器にある吸入圧力計、いわゆるブーストメーターには自動車のタコメーターのいうところの赤く書かれた範囲。レッドゾーンがある。

パイロットの間ではこのレッドゾーンは赤ブーストと呼ばれており、緊急時のみ数秒の使用が可能だった。それ以上の使用は当然エンジンに深刻なダメージを与える為、利用はかなり限られた。

現代風に言うなら


スクランブルブースト


もしくはオーバーブーストだろう。


私は計器盤の端の方にある握把に手をかけた。

視界の端にP51が悠々と旋回しながら迫ってくる。圧倒的な性能差を見せつけるように、太陽の光を弾き機体をキラキラと輝かせながら。

思わず奥歯に力が入る。

P51が丁度真後ろに来た時。私は意を決して赤ブーストを掛けた!


「おや?二人して何の相談~?」


突如スタジオ内に響く明るい声。


思わずそちらに視線を向けるカメラマンさんと私。

正に天祐!

と叫びたくなる位にそれはグットタイミングだった。

P51の機体が高射砲のような弾幕に包まれるのが私には見えた。

しかもこの高射砲は普通の高射砲とは一味も二味も違う大口径高射砲だ。

なんせ一発でB29を二機撃墜した伝説の高射砲。久我山の12センチ高射砲だ。

それくらいに久我山編集長の笑顔が眩しかった。

そう。私を窮地から救ったのは久我山編集長の放った一言だった。

「ダメよ~。うちの売れっ子モデルに手を出しちゃ~」

久我山編集長は冗談交じりにそう言いながら私たちの元へと寄って来る。その後ろには編集の方々。それはもう味方の高射砲弾幕をもろともせずに突っ込んでくる五式戦のように。

ちなみにP51の天敵は陸軍、いや大日本帝国軍最後の正式戦闘機キ100「五式戦」だ。

「よっしゃ切り抜けた」

私は心の中でそう思うとカメラマンさんの傍からそそくさと離れた。

「じゃ、みんな揃った事だし撮影の方をはじめましょうか」

久我山編集長の号令一下、スタジオ内は急に慌ただしい雰囲気になった。


「ぶははは」


ファミレスの店内にカネコさんの笑い声が響く。

「本当に参っちゃうわよ」

私はそうボヤクとコーヒーを啜った。相変わらず冷めているが。

「んぁ。いつもオーバーブーストをかけないといけない職場なんてヤバいな」

「まったく身体に毒ったらありゃしない」

「んぁ。もうさ、バーンと言っちまえよ」

「まぁそれが出来たら楽なんだけど…」

「問題は受け入れてもらえるかどうかダナ」

「んぁ。だな」

三人のテーブルに少し沈んだ空気が漂う。それを埋めるように店内のBGMが耳に入ってくる。

「んぁ。どーでもいーけど隊長。スーチャーとターボの違いなんていつの間に知ったのよ」

カネコさんがいきなり脈略のない質問を私にとばす。

「え?カネコさんが教えてくれたんじゃないの?」

「んぁ。そんなの言ったっけかな?」

カネコさんはそう言いながら頭を掻きつつ天井を見上げる。

「まぁ、隊長なら聞かなくてもある程度は自分で調べちゃうだろうけど」

「んぁ」

「まぁ、そうなんだけど」

「んぁ。レシプロエンジンの歴史はシリンダーにいかに多くの空気を取り込むかの戦いだからな」

「確かに」

「んぁ。素はといえばターボもスーチャーも高高度の空気不足を解決する為の策だしな」

「そう。当時の日本には高温に耐えられる合金の開発ができなくて排気タービンの方はついに実用化できなかったわ」

「だな、その代わりに水エタノールとかでゴマかしていたダヨ」

「んぁ。結局空気を高圧縮すると熱問題が発生するからその辺のノウハウが無かったのも痛いな。水エタノールは気化熱を利用した冷却方法だな」

「性能は根性でどうにかなるものでもないしね」

「んぁ。今の自動車業界がターボ天国なのがうそみたいダワ」

「そうなの?」

「んぁ。名立たるスポーツカーはそうだし、有名なタービンも日本がほとんど占めてる。外国だと、ギャレット位しか聞かないな~」

「三菱、石川島播磨重工業とかダカ?」

「んぁ」

「やっぱり航空機メーカーが主なのね」

「んぁ。あんま馴染みねーけど、船舶用とか大型のディーゼルエンジンとかはどうしても重工業の分野になるからな~。やっぱりその編が幅を利かせてる」

「ま、厳密にいうと風車もタービンの一種ダヨ」

「あー成程。空気の流れを運動エネルギーに変換するから?」

「んぁ。モデルとは思えねー言葉だな」

「失礼ね」

「あっはっはっ。そりゃそうと隊長が好きな戦艦大和にもタービンはあるダヨ」


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