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ワタクシ。Ritaであります!  作者: リノキ ユキガヒ
第三章「仕事人リタ」
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 落とされる爆雷と言う名の言葉。ソナーに響く爆発音。水中を伝わる衝撃は艦を揺さぶり私の鼓動を早くする。

 面舵か?取舵か?潜行か?浮上か?

 三次元航行が可能な潜水艦の複雑な選択肢が私の思考を掻き乱す。

 しかし、決断は待ってはくれない。時間という壁は容赦なく無慈悲に私に迫り来る。

 

「こう見えて色々あるのよ。お付き合いとか」

 

 私は更に潜る事を選択した!

 こうなればとことん潜ってやる!

 私の心が水圧という無言のプレッシャーに耐え切れず圧壊するのが先か!?

 このままお茶を濁す感じで逃げ切れるか!?

 その運命を天に託した!

「へーそうなんですかー」

 意外にも彼女の返事はあっけなかった。正直拍子抜けに等しい解答に私の気は一気に緩んだ。

「へ?」っとヌけた声が出そうになったがそこはこらえた。

 

「行ったか?」

 

 潜水艦の艦長が艦内で見えぬ敵を見るように上の方に視線を向ける。

 それに釣られる様に他の乗員も顔を上げる。

 気配から察してどうにか敵艦は去ったらしい。

 その証拠に、衣装をメイク中に汚さない為に掛けてある肩のタオルが取り除かれる。

「はい、お手彼様でした」

 メイクの彼女が笑顔でそう言うと道具を片付ける為に私に背を向けた。

 私は潜望鏡深度まで無音浮上する様に、横目で彼女の動向を伺った。道具を片付けるのに集中していて今のところは私の事は眼中に無いらしい。

「この好機逃がすまじ!」

 ディーゼル主機が一気に唸りをあげる!

「お疲れ様~」

 と小言で言うと私はメイクルームをそそくさとあとにしてスタジオへと向かった。

 スタジオの方は幸いにも誰もおらずガランとしていた。

 多分打ち合わせでカメラマンを含め編集の人達もラウンジに居るのだろう。

 室内をぐるりと見渡してみる。

 まぁアパレルで使う撮影スタジオなんでそんなに広くはない。

 街の写真屋さんに毛が生えた程度に想像してもらえばいいだろう。

 とりあえずやる事もないので端の方にある、機材やら小物などを置く小さめテーブルに私は落ち着いた。

 そして何気に視線をテーブルに落とした。

 テーブルの上には未開封のミネラルウォーターが数本。何かの書類を挟んだクリヤファイル数点。そして一眼レフの大きいカメラがデンとあった。

「でっか…」

 その余りにも異彩を放つ一眼レフのカメラに私は思わず声に出した。

 自分の知るカメラとはその佇まいが全然違う。今の時代スマートフォンなどで写真はおろか動画は当たり前。なんならそのまま動画編集までできてしまう時代だ。

 それなのに画像を納めるという事だけにその力の全勢力を注ぎ込まれているそれには、なにかこう、王者の持つ風格のようなものさえ感じる。

 スタジオの蛍光灯に照らされ鈍く光を弾く大型のカメラは私の心の琴線に触れた。

「ん?」

 私はファインダーの所に書かれているローマ字に目を奪われた。

「ニコン…」

 そうこのカメラはどうやらニコンらしい。

 ニコン…。どこかで聞いたことがあるぞ…。

 いや勿論、ニコンが有名なカメラメーカーである事は知っている。当然その他の事だ。

 私は記憶の糸を手繰った。思わずしゃがみ込んでテーブルの端に手を置き、カメラのファインダーの辺りと視線を並べた。

 

「ああ!日本光学だ!」

 

 正式名称を日本光学工業株式会社。戦中は軍需工場として様々な光学兵器を世に送り出している。

 その中でも軍艦好きなら「戦艦大和の十五メーター測距義」 の事を真っ先に思い付くだろう。

 測距。文字通り距離を測る事だが、普通の人ならメジャーや巻き尺のような物を思い浮かべるだろう。

 しかしそれで測れる距離はたかが知れている。もっと長い距離を測る場合、今の時代は人工衛星やレーザーなどの方法を用いてそれこそ何キロもの長い距離の測定をミリ単位で判定できる。

 しかし、大艦巨砲主義華やかななりし頃は人工衛星はおろかレーザーなどは全くもって未知の技術だ。

 その頃の最新技術での距離の測定方法はレーダーに代表される電波測定だ。

 ではそこに至るまでどの様な方法で長い距離は測定されていたのだろうかというと、レンズのピント合わせを利用して行われていたのだ。

 要はカメラの技術が応用されていたのだ。

 なのでニコンに代表されるように現在の光学メーカーには昔には軍隊で使用する照準器のような光学兵器を作っていた会社が多いい

 

 光学兵器…。


 嗚呼…。なんて甘美な響きなんだろう。

 この「光」という言葉の持つ神々しさと、光を操るという得体の知れなさが何ともいえない雰囲気を醸し出す。

 通常、兵器と言われると大砲や銃器など何かしら攻撃するものを思い浮かべるが、ことこの光学兵器というものはそのように相手に対して直接危害を加えるものとは少し違う。

 それこそ今ではレンズ技術の発達でレーザー兵器なんて物が生まれ直接的な攻撃が可能になったが、私の中での光学兵器の花形はなんと言っても

 

「照準器」


  だ。

 通常の兵器に比べると派手さはないがその発達は、戦場において多大なる影響を与えたのは間違いない。

 海軍びいきとしてはここで是非、戦艦大和の十五メーター測距儀を挙げたいがここは一旦こらえておこう。

 その登場により劇的な効果を得たのはやはり戦闘機ではないではないのだろうか?

 双方が高速かつ高機動の最中に円筒式のスコープタイプの照準器を覗き込みながら照準をつけるのは、かなり無理な姿勢を強いられるうえに繊細な機体の操縦をしなければならない。これは素人でも厳しい事は容易に想像できる。

 かの有名な戦闘機「一式戦隼」の初期型や艦上爆撃機「九九艦爆」などがこれだ。

 照準の付けにくさ、スコープを覗き込むなど視界が限定されるなど、それらの難点の解消と高速化の進む航空機に対応するため、新たに開発された照準器が光像式だ。

 まぁ、カッチョイイ言い方すれば

 

 光像式電影照準器

 

 英語ならリフレクターサイトと、でも言えばいいのだろうか?銃器が好きな人ならダットサイトといえば分かり易いだろう。

 これは簡単に言うとガラスの板に照準環を浮かび上がらせる方式だ。

 近年ではHUD、ヘッドアップディスプレイなんて言われる。

 利点はなんと言ってもスコープを覗き込むという無理な姿勢を強いられる事がないと言うのと、視界がスコープ内だけになるという事から解消される事だ。

 操縦者はただ単にガラス板を見るだけでそこに浮かび上がる照準環を見ればいいだけだ。

 とはいえ。ニコン事、日本光学が有名なのは戦闘機の照準器の事ではない。

 やはり、日本光学とくれば戦艦大和の十五メーター測距義だろう。

 大和の艦橋の天辺にある左右に突き出てるものがそうだ。

 測距義とは前出の様に距離を測るものであり、照準器とは少し違う。照準を付ける為の距離のデーターを収集するものだ。

 いくら戦艦大和が最強の打撃力を誇ろうとも、正確な情報がなければそれは只のこけおどしにしかならない。

 有効なデーターがあってこその事だ。

 では実際にどの様な方法で…


「リタさんカメラ好きなんですか?」


  「え!?」

 背後から不意に話しかけられ私は中腰のままで振り向いた。

 なんかこう、テーブルがなければプレイリードックがキョトキョト周りを見渡しているような格好だ。

「警戒を厳となせ」

 の言葉も虚しく、私の目にはいつも撮影してくれるカメラマンさんの穏やかな表情が入る。

 それは自分の仕事道具に対して、興味を持たれている事からくる明らかに好感の表情だ。

 ここで、

「ねぇッス」

 なんて答えようものなら彼の表情は一変するのは間違いないだろう。

 明らかに上から被られた!

 私の駆る機体の真横にガンガンに火戦が流れる。

 その射線の先には太陽の光を銀色に弾く機体が、通称「イワシ」またの名をP51。

 時速700キロ以上出る第二次世界大戦最優秀機だ。

 ジャイロコンピューティングの火器管制システム。予圧キャビンのコックピット。強力なマーリンエンジンの高高度性能。

 それに対して私は名機ではあるが既に前世代的な趣さえある零式艦上戦闘機五二型。


 またしても圧倒的に不利な状況!

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