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ワタクシ。Ritaであります!  作者: リノキ ユキガヒ
第二章「ヤツらとワタシ」
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 その場から逃げる様にいなくなった私は適当な路地に入って息を整えた。

「この荷物で全力走をかますなんてレンジャーの訓練かよ…」

 ゼィゼィと息をしながら後ろを振り返る。二人が追って来ないのを確認すると深呼吸をして歩き始めた。

 別に二人の事が嫌いになった訳ではなく、正直に言うと彼らとの友人としての距離感がつかめず、照れ隠しでこのような行動に出てしまったのだ。

 なぜかというと、私は高校生の途中から社会人として働き始めたので、友人関係の築き方がイマイチ判らないのだ。

 普通に進学してれば学生同士の飲み会やらでこういうのを学んでいったり、社会人であれば先輩後輩の上下関係で奢る事が当然の流れがあるだろう。

 しかし私達三人は皆、同い年だ。男性が女性に対してご馳走するという図式は成り立ちやすいが、私達はそういう関係ではない。ただ単に気の合う仲間同士なのだ。そこに男女の関係などという条約めいた駆け引きは無いし望んでもいない。

 高が昼飯の勘定で揉めたくはないし、二人に対してなにかしなければ私自身申し訳が立たない。

 何かしたいという気持ちと、二人の気遣い無用の心が私の心情を制御不能にしたのだ。

 そしてこの友人としての距離感のとり方は、二人の呼び方にも通じるものがある。

 同い年なのに私は「小川さん」「カネコさん」と二人を「さん」付けで呼ぶ。

 まぁ、今となっては二人とも社会人だし別に変ではないのだが、私はこれを高校生の頃からしている。

 正直、カネコさんは昔からの大人びていたし、学校も違うのでこの呼び方に関しては違和感を感じないのだが、小川さんの方は学年が一緒にも関わらずそう呼ぶことは自分でも少し変だと思っている。

 それは一言で言うと「君」で呼ぶことが気恥ずかしいからだ。

 なので昔からそうさせてもらっている。今となっては時間が解決してくれたので二人の呼び名に関しては問題はない。なぜか小川さんまでカネコさんの事を「さん」付けでいい始めたのは解らないけど。

 因みにわたしに付けられたあだ名。

「隊長」

 はカネコさんによる命名だ。昔なぜかと聞いたら

「んぁ。何んとなく」

 と、言われただけで意味やら由来は教えてくれなかった。

 まぁ、部隊の長を命名されるのは嫌な感じではない。しかし率いるにはそれなりの責任が生じるのは覚悟せねばならない。

 と、思うのは二人にとっては迷惑な事なのだろうか?

 兎に角私にとってはこの集まりは何事にも代えがたい物であり守らねばいけないものなのだ。

「固守ではなく死守」

 なのだ。

 と、物思いにふけりながら歩いているとヘリの爆音がそれを遮った。バタバタバタとビルやアパートの壁に反響してそれはかなりの音量になり私は思わず空を見上げた。

「ったくうるさいわねぇ…どんだけ低くとんでるのよ」

 青い空を見渡すとそこには見事な編隊飛行をするヘリコプターの一団があった。

 三機を一チームとした三機編隊が二つ。その戦闘をちょっと小さめのヘリコプターが先導していた。

「UH―1の三機編隊!先頭はコブラじゃないの!?」

 私は思わぬ遭遇に興奮を抑えきれなかった。

「この辺の駐屯地なら練馬かしら?いや方角的に朝霞かも知れないわね。いや、福生にも…。それよりどこから来たのかしら。富士?市ヶ谷?」

 私の適当な憶測をよそに、ヘリの編隊はやがて空の彼方に消えたが私は暫くその場に佇んで余韻に浸った。

 正直、ほかの人から見れば怪しい人間この上ない。

 なんせ一人の女性が空を見上げて悦に浸っているのだ。

 そしてその人物の正体が今をときめく人気モデルとは…。

 私は我に帰ると思わず周りを見渡した。幸いな事に人影は無かった。

「だ、大丈夫よね…」

 と、今更ながら周囲を用心した。

 

 家に着くと私はいつもの様にドテラとスエットの上下に着替えた。

 書庫のような部屋に行くとパソコンを立ち上げネットの閲覧にふけっていた。

 しかし、今更ながらカネコさんの言った。

「このままダンマリもどーよ」

 が引っ掛かる。

 自分の趣味が仕事に影響を与えるかといえばそれは無いと思う。

 しかし、自分でいうのもアレだが私は生粋の旧軍マニアだ。

 アクセサリーより階級章に興味があり。

 最新のモードより軍服に惹かれ。

 お洒落なスポットよりも博物館なんかに足を運ぶ。

 そんな一昔前なら日陰者の烙印を押されかねない人物なのだ。

 かといって今の趣味に後ろめたさを感じている訳でもない。

 むしろ最近の調査によって旧軍の地位は回復しつつあると言っても過言ではない。

 もはや旧軍=悪という図式は歴史観を無視した愚行と言わざるを得ない所まで来ている。

 だからと言ってそれが万人な受け入れられるかと言えばそこまで事は単純ではないと思う。

 やはり旧軍に対して嫌悪感を持つ人は少なからずいると思わなければならないのだ。いやそう思うのが当然の思考なのだ。

 そんな中で私がお気楽に。

「旧軍万歳」

 みたいな事をいきなりぶちまけたらどうなろうか?

 よい方向に進むと言い切れるだろうか?

 そりゃ一部の人からは熱烈な歓迎を受けるかも知れない。しかし私はファッションモデルだ。

 そのイメージは常にクリアーである事が求められる。

 何も感じさせる事ない無垢な存在。

 フラットな人物像である事が重要で、そこが私の装いに対して読者を惹きつけ、共感するポイントなのだ。

 モデルはあくまで服を引き立てる存在であらなければならない。服より目立つモデルなど言語道断なのだ。

 どんなに綺麗に着飾ってもそれを着る者に曇りや影があればその衣装は一気に陳腐化してしまう。

 ファッションモデルというのは実に危うい立ち位置によって成り立つ繊細な職業なのだ。

 Ritaならこう動き、こう答えるだろう。と思わせながら期待させながら、時にその範疇で少し意外な事をして読者を楽しませなければならないのだ。

 それが芸能人である以上仕方のないことなのだ。

 事務所、雑誌、読者、それぞれがRitaというモデルの理想像を長い年月をかけて作りあげていってもらったのだ。

 それをたたが趣味でブチ壊すのは愚かな行為以外のなにものでも無いのだ。

 今更ながら肝に命じなければならない事でもある。だがしかし。

 ふと、思う。


  私は普通に社会人になったとしてもこの旧軍マニアを続ける事が出来たであろうか?


 答えは今と一緒だろう。

 周りにカミングアウトするかどうかで悩みながら続けていくだろう。

 勿論、私のそのような趣向が職場において影響するかと思えば、それは単純に「ノー」であると言い切れる。

 普通に働いてる人にとって他人の趣味などどうでもいい事に決まっている。

 バレた所で「へーそーなんだー」で終わるだろう。

 と、いうか職場で自分の趣味を他人に明かす機会があるかどうかすら怪しい。

 なぜなら私は学生時代にクラスメイトと仲良くなるという事が無かった。

 小川さんやカネコさんは放課後しか会わないし、同じクラスでも趣味の話は殆どした事がない。

 高校生末期になると小川さんとはメールなどでやり取りする位に距離があった。

 そんなクラス内リストラみたいな状態にある私が果たして職場で自分の趣味を明かす同僚ができるのだろうか?甚だ疑問である。


 以上。


 明日は仕事なので休ませて頂く。

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