Strategy&Intellignce
ふああ、よく寝た。ってあれ、ここどこだ。なんだここは。昨日、自分の部屋で寝てたはずなのに。それにここは一体どこなんだ。何で僕はこんな裏道で寝てるんだ。その理由は別になんでもいいけど、もっと不思議なのは、車の音も聞こえないし、地面もどう考えてもコンクリートじゃないことだ。石を並べてあるだけで舗装されているとは思えない。今時、こんな住宅地で道が舗装されてないところなんてあんまりないだろう。とりあえず、こんな裏道にいるよりも、大通りに出た方が良いだろう。にぎやかな声が聞こえるし、何か分かるかもしれない。
あれ、思ったよりも人が多いな。
「キミ、この辺で見ない顔だね。どうしたの」
なんだこの人。仮装にしては丁寧すぎる。でも変な人ではなさそうだ。
「えっと、その。迷って、ここどこか分からなくて」
「確かにそのようだね。そんな恰好してるような人見たことないし。よかったら送っていくけど、どこから来たの」
この場合どう答えたらいいんだろう。本当のことを言ってもいいけど、送ってもらうのも悪いし。
「えっと、分からない」
「じゃあ、名前とか何か分かる?」
「それはもちろん。カケル、それが僕の名前。あと分かるのは、今十六歳。それだけ」
「カケルか、変わった名前だ。あっ、僕の名前はシャーロット、よろしく。名前と年齢しか分からないのはちょっと困るね。それだけでカケルの家を探せる自信はないよ」
「なんでどこの誰かも分からない僕なんかの家を探そうとしてくれるわけ。普通の人ならほっておくと思うけど」
「なんでって、そんなことに理由なんかいる?ご飯を食べるのと一緒。食べたいから食べる、それと同じようにカケルを助けたいから助ける、それだけ。これじゃダメかな」
そうか、理由なんてなくてもいいんだ。ずっと何事にも理由はあるもんだと思ってた。
「無理なのは承知でお願いするけど、今夜だけでもシャーロットの家に泊めてくれない。明日になったら別の所探すからさ」
「もちろん。明日も、いつまでもいてくれて良いよ。その代わり、家事とか手伝ってくれる」
「家事はしたことないから分からないけど、出来ることは何でもするよ」
「じゃあさっそく、今日の夕食の食材買うの手伝って」
「食材ってなに買うの」
「肉と芋と山菜だよ。ここじゃ、それくらいしか売ってないでしょ。もしかしてここに来たこともないの」
魚は無いんだ。僕にとっては魚が嫌いだから別に問題ないけど、売ってないのもそれはそれで違和感がある。それに僕が嫌いなのは、僕が住んでいた所の魚だけかもしれないし。
「多分無いと思う」
「この辺にはここしか大きな店は無いから来たことあると思たんだけどね」
「シャーロットはさ、普段何してるの」
「僕、何歳に見える」
えっ、僕と同じくらいじゃないの。まさか、年上だったりして。その場合、年上の相手に対して、敬語も使わずに話してたのか。年下なら全然問題ない、こともないか。年下だったら、敬語使われても嫌だし。敬語なんてもの使うのも使われるのも嫌だ。どうせ年上って分かってても敬語使ってなかっただろうから問題ないか。
「僕と同じじゃないの」
「えっ、そう思う?あってるんだけど、いつも年下って間違えられるから。よく分かったね」
なんか、似たような人にだったような事があるような気もする。同じくらいの年で、でもシャーロットとは違って意地っ張りで。一体これは誰なんだろう。
「カケル、そこの建物に入って、すぐに」
「えっ、なんで」
「いいから早く」
ここはどこかよく分からないし、ここのことはシャーロットにしか分からないから言われたことに従ってても損はないか。
「ごめん、さっきいきなり叫んで。なんかずっと尾行されてたみたいだから」
「なんで尾行されてるの」
「ああ、多分僕、皇族と仲が悪いから。いつものことだから大丈夫。安心して、少し強引なところあるけど、怪我をさせるほど無理やりなことはしないはずだから」
「あれ、シャーロットじゃない、そこにいるの」
「なんだ、お前か。外の二人組もお前の所のやつだろ。何しに来た」
「何って、ここ俺の家。それより、その変わったの誰」
「カケルです。シャーロットに面倒を見てもらってる。それより、外の二人組との関係を教えてほしい」
「あいつらは、帝国騎士団。で俺はその騎士団長ってわけだ」
「騎士団なのにどうして普通の服装なのだ」
「変わったやつだな、この服装を普通だというとは」
「カケルは異国からきたようだから、その国では普通なんだろうね」
「この格好なのを説明すると、騎士と言っても、機械の操縦をするだけだ。異国から来たなら知らないかもしれないから言っておくが、こんなに平和そうでも一応戦争中なんだ」
「戦況はどうなってるんだ」
「今のところ、どっちもどっちだ。ドルガナもニドレアも強いが、この国の防衛力もそう甘くはない」
まさかあのカリストアにいるとは。どうやってこんなところまで来たのだろう。ここに来る予定はあったが、本当はまだまだ先だったはずだ。
「戦争の話は今は置いといて。カケル、魔法か剣は使えるか」
「もちろん、魔法は術式さえわかればすぐに使えますし、それに剣は片手剣なら使えます」
「ということだ、今日は尾行しないでほしい。もしかしたら、カケルに負けるかもしれない。そうなれば騎士団も無傷では済まないだろう、一般人に騎士団員が負けるんだからな」
「まあ、いい。尾行はついでだからな。本来の目的は別にあるし。気を付けろよ、この戦時中だ、どこでどんな組織が動いてるかなんて把握できない。せめて巻き込まれても無事でいろよ」
いろんな組織か、闇系も多そうだな。いくら平和だといっても、いつ攻められる分わかったもんじゃないだろうし、防衛に力を入れすぎるとどこかに穴は開いてくるものだ。剣が売ってるなら一つくらい欲しいな。もちろん、敵兵器に剣で戦おうなんて思ってない。ただ、護身用にあれば安心できる。
「シャーロット、武器屋に連れて行ってくれないか。剣が欲しい」
「それじゃ、その前にライセンスを取らないと。その様子じゃ持ってないだろ」
ライセンスか。武器を持つのに必要なら取る以外に選択肢はない。それに資格はあって困るようなものは基本ないだろうし。
「じゃあ、ライセンスの取得方法を教えて。一週間あれば取得できるから」
「それはどっからの自信だ。剣が使えてもライセンスは取れないんだぞ。三大難関資格に数えられるほどだ。簡単には取得できないようになってる。最短取得は一か月だ。それでもするか」
「もちろんです、簡単に取れないからするんです。剣のライセンスが取れれば、そのあとにすぐにでもそのほかの難関資格を取るつもりですし」
はあ、なんて自信過剰な奴だ。それより、家を探す気はあるのだろうか。ここを気に入って家に帰る気をなくしたようにしか思えない。本当に一週間でライセンスを取ったら大変なことだが、ありえないとは言えない。カケルならやってくれるかもしれない。
「で、資格の試験はいつなんですか」
「三日後。一週間もないよ、頑張って。出来るだけアドバイスしてあげるから」
シャーロットも帝国騎士団長様も剣を持ってるからライセンスは持ってるんだろうけど、教えてもらう側としては指導をできるだけの技術はあるんだろうかと不安にはなる。
それからというもの、たった三日間であるがカケルは一日中剣の練習をした。シャーロットの家で剣の練習をしているのだが、ここは大きすぎる。確かに庭は大きいが、建物自体もそれにきちんと手入れもされていてきれいだ。いつかこんな家に住んでみたいものだ。ここに居れる間に未練の無いようにしておかないと。起きては練習、食事が終わればまた練習。意外にも、シャーロットたちの指導が上手だったため、すぐに呑み込んでしまった。だが、好奇心ほど、危険なものは無いだろう。『好奇心、猫をも殺す』という言葉があるように。
「シャーロット、面白いのを見つけた。剣と魔法を一緒に使えば、もう少し魔法が役に立つんじゃないかなと思って」
剣に術式を入れて、使えば剣は鉄の塊から炎や水の塊と化す。魔法にできないことは基本ない。
「それは出来るけど、魔法は試験では使えないから。どっちにしても魔法の術式を知らないから使えないだろうけど」
残念、魔法が使えないなんて。今回は使えなくてもいつか使えることはあるだろう。魔法も勉強しておかないと。でも今は、魔法よりも剣の勉強をしないと。
「明日、夜が明ける前にはここを出発する。少々試験場が遠いからな」
「どうやって行くの、歩きそれとも何か乗り物」
これは僕にとっても大事なことだ。乗り物だった場合、大概酔ってしまう。
「なんだ、乗り物に弱いのか。それなら酔いにくいのを用意するが」
「いや、大丈夫。それより――」
建物、いや地面自体が揺れているのか。すっかり忘れていたが、今は戦時中だったんだ。どこの国から攻められてもおかしくない。戦争は確かに危険だけど、敵の兵器を見れる絶好のチャンスだ。
「カケル、地下シェルターに避難しに行くよ。さすがにこの建物じゃ壊れてしまう」
「敵はどこの国なんだ、ドルガナか、それともニドレアか」
「自分のことは全然分からないくせにそういうことは知ってるんだ」
「で、どっちなんだ」
「両方だ。この国は軍事大国と経済大国両国を同時に敵に回して戦争している」
カリストアは確か中立国だったはずだ。いくら自衛力が大きくても二大国に対抗できるほどの戦力があるとは思えない。
「まっ、そういった無茶をするもんだからこういうことになってるんだけど」
「じゃあ、いや、止めとく」
「なんか言いたいことあるなら我慢せずに言え」
「何でもないから気にしないで」
そう、なんでもない。ただ単に好奇心でドルガナかレドニアの兵器を奪って操縦したいなと思っただけだ。そんな非現実なことは無理だと思って言うのを止めた、ただそれだけだ。確か、ドルガナにはいろんな艦船があったけど、さすがにあれは一人や二人で動かせる代物ではない。でもレドニアの『地上戦闘用二足歩行人型機動駆逐戦術兵器』なら一人で動かせる。人型兵器は最近知ったが、僕が小さい時に初めて出会ったのは四足歩行のロボットだった。バランスもとりやすく、それで機動性もよく、将来はあれに乗りたいと言っていたものだ。シャロンからはレドニアに四足歩行の兵器があるとは聞いたことは無いが、でも二足歩行の兵器が動かせたら四足歩行が動かせないなんてことは無いだろう。ただ、一切動かし方も何も知らないからなんとなくで操縦するしかない。
「シャロット、今剣持ってたら貸してほしいんだけど。ライセンスが無くても今なら大丈夫だからさ」
「じゃあ、何かあっても一切責任は取らないよ。それでもいいなら好きなように」
「止まって、あそこにドルガナの兵士がいる」
おい、どこが自衛力が大きい国なんだよ。普通に入られてるじゃないか。元中立国だからか、あんまり諜報関係は得意ではないのがよく分かる。
「あの兵士たちって倒してもいいんだよね、ちょっと僕に案があるからさせてくれない」
案と言ってもそれほどすごいものではない。敵の兵士を倒さない限り絶対にできない。それだけのことが今の僕らにできるんだろうか。兵士の所持している銃が何か分からないと何とも言えないが、ある程度なら僕でも銃弾を防げるだけの剣術は身に付けている。シャーロットたちはよく知らないが、ライセンスを持っているのならその程度の技術は出来ると思っている。
「それ、本気か。剣で銃弾を防ぐとか、常人には出来る代物じゃないぞ」
「だからやるんです。誰にでもできたらしないし」
「はあ、じゃあカケルはそのまま突っ込んで、俺らで援護はするから。これでいい」
「もちろん、何があるか分からないし、援護があったら安心できるからありがたい」
「では、作戦開始です」
まず、僕が正面から銃で攻撃。それでおわればいいが、そんな簡単なわけがない。その次に後ろからシャーロットたちが後方から攻撃する。一応兵士と言えどもこの辺に来るなら、精鋭の可能性は低い。精鋭でなければ、勝つのは難しくはない。銃を撃ってきてもこの程度ならまだ余裕で防げる。軍事帝国の兵士なら難しいと思っていたのに、全然手ごたえがないな。さすがにこの程度なら簡単に倒せるが、いくら敵国の兵士と言えども僕には殺すことはできない。さて、こいつらをどうするべきか。
「武器だけもらってその辺にほっておけ。どうせ他にも同じような奴がいるんだ。一人や二人減ったところで何も変わりはしない」
「シャーロットたちに武器はすべてあげます。僕は、ドルガナの人型兵器にしか興味がないのでこんなのはいりません!」
「持っていても損はないと思うけど、それでもいらないの」
「だって、銃を使うより剣の方が役に立つんですよ。いくら近代的な物でも銃弾は消耗品だし、弾は遅いし、あんまり好きじゃない」
さて、さっきの振動はどこからだったんだろう。それなりに大きな音だったし、前にどこかで聞いた音と似たような音だった。
「カケル、さっきの振動って何だったんだろう。爆発音にしては煙も炎も出てないし、変だよな」
「さあ、僕にはわからない。でも――」
「そこの小さい男の子、ちょっっと道案内をいいかな」
何だこいつ。地元のやつじゃないのか。
「学園の生徒がこんなところで道に迷うなんて、変わってるな」
「やっぱり何度見てもキミ、小さいね。もっと食べないと一生チビだよ」
「ほっといてくれ、どこの誰かもわからないようなやつに気にされるようなほどではない」
「おい、どこか分かるのか。こんなところでもう迷いたくないぞ」
「ユーティリティーポール」
「何それ」
「ここまではあるがここから急になくなっている。かといって地中に埋まっているわけでもない」
「さすがですね」
なんなんだあいつら。急に現れて急にどっかに行った。変な奴らだな。
「カケル、知ってるか。ドルガナにはどこの国にも劣らない諜報機関があるって事。さっきのやつら六人いたけど、その諜報機関の所に六人組の部隊がいるらしい」
「まさか、それだったら俺たち殺されてるだろ」
「あいつらは不必要に人は殺さない。俺たちは不必要な人だったってことだ」
「二人とも、一体どういうことを言ってるのか全く分からないんだけど。もうちょった簡単に言ってくれない」
「バカか、お前は」
「バカだな。いいか、簡単に言うぞ、さっきのやつらがドルガナの諜報機関のやつらだって言ってるんだ」
「もしそうだったら、殺されてるんじゃ」
「はあ、本当にバカだな」
「さすがにこれは共感できる」
「ちょっ、なんでそんなにバカ扱いされなきゃいけないの」
「そんぐらい自分で考えろ、このバカ」
なんかおかしなことでも言ったかな。僕的には普通なことしか言ってないつもりなんだけどな。まあ、前もレンレンに散々バカ呼ばわりされてたから全然傷つかないからいいけど。
そんなことより、それが本当だった場合、かなりやばいんじゃ。普通のドルガナ兵士なら全然問題ないが、あんなふうに潜入までするような部隊とは同等にやれる気がまったくしない。絶対に殺される。かと言って、このままほっていたらなんか負けたような気がして嫌だ。それに勝てたとしてもドルガナ中央情報局を敵に回すことになるだろうからそれはそれで面倒だ。どうしたものか。
「何を悩んでるんだ。今できるのは一つしかないだろ。DCIAの目的のものが何か分かればそれを奪えばいい。別にやつらを敵に回したところで現状と何も変わらない。それにその程度の覚悟ならとっくにできてる」
「なぜ敵に回す必要があるの、そんなことをしなくても一人だけでもいいから味方につけるんだ。そうすれば、少しは楽になるんじゃない」
「そんな簡単なことが出来るんだったらもうとっくにしてるよ。できないからこうやって悩んでるんだよ」
「いや、一つだけ方法があるよ。言いたくはなかったけど、これしかない。僕がドルガナ中央情報局に入る。侵入って意味じゃなくてやつらの仲間になるって意味。これならどう」
「確かに、カケルには現状、名前と誕生日以外何もない。ない部分は勝手に埋めてしまえば、だれが見てもドルガナのやつにしか見えなくなる」
「その上、カケルにはDCIAに入れるだけの技術はある。そんなに早く剣が上手になるってことは前にも使ってたことがあるだろうし、どうせ銃も使えるんだろ。ドルガナ兵士と戦って気づいたが、魔獣とも戦ったことがあるようだな。今の時代に剣だけで魔獣に対抗できるやつは俺らを除いたらほとんどいないはずだ。あえてこの際だから理由は聞かないでおくが、カケルならすぐに雇ってくれるだろ」
「だが、どうやって雇ってもらうの」
「DCIAの上層部、つまりスカウトをしたりするような人たちがドルガナとカリストアとの国境付近で非公式に会議をするらしい。そこに頑張って乗り込め。そうすれば多分雇ってくれる」
「それはいつ行われるの、今日それとも明日」
「予定通りなら二時間後。本当に行くのか、何もできないぞ。あんなところハッキングでもしたら逆に乗っ取られるだろうし」
仕方がない、一人で行くか。せめてしないって言ってくれたら、強引にでも説得できたけど、出来ないって言われたらどうしようもない。
「それでも僕は行く。シャーロットたちを守りたいし、それに中央情報局なら何か僕のこともわかるかもしれないし」
「なぜ、そこまでして俺らを守りたいというんだ。それなりの理由があるんだろうな」
「だって、初めて会った人がシャーロットだったから、それだけだよ」
「カケルらしいな。まあ、いいか。一つだけ言っておく、これだけはわすれるな。『深淵を覗けば深淵もこちらを覗き返している』」
―ドルガナ国境付近―
ここまでは特に問題なく来れた。国境も偽の(ある意味本物だが)パスポートで入れた。軍事大国なんだからもっと警備が厳しいのかと思えばそうでもない。それにカリストアもそうだったが戦争中というのにそんな雰囲気がまったくない。戦争中というのが噓だと思ってしまうほどだ。建物もさほど壊れていないし、爆発などで焼け焦げた匂いも全くない。それに、休日のようににぎわっている。戦争中であろうと、そんなことを気にしないのか、それとも別の理由か分からないが、とにかく変わっている。
「今日もよくにぎわってますね」
「そりゃもちろん。いつ物価が上がるか分からないし、長く使えるものは今のうちに買っておかないとねえ。お前さん、この辺で見ない顔だけど、どこから来たんだい」
「ついこの前引っ越してきたもので」
「そうかい、よろしくね」
この人は危険だ。このまま話していると、あっという間に時間がたってしまいそうだ。時間を無駄にするのは嫌いではないが、こんなことで時間を無駄にはしたくない。さて、どこにやつらはいるんだ。こんなに人がいたら普通にいても全然分からないし。仕方がない、あんまり使いたくないが、それしか方法がない。
『リミッター解除、周囲半径三百メートル内探索』
これである程度の人なら探せるはずだ。相手がDCIAだからどの程度効果があるか分からないけど、使うだけ使ってみよう。適用範囲にもよるが一度使うと長い時だと数時間使えなくなる。今回の場合だと、おそらく少なくとも数分は使えなくなるだろう。まあ、その程度なら全然問題ないが、もう少し範囲が大きくなると問題が出てくる。そんなことは今はどうでもいい。一体どいつなんだ。中央情報局員なら何か違いがあると思ったんだけどな。
「おい、そこで何をやってる」
「わあ、またこんなところで会うとは、縁があるのかな僕たち」
「ここじゃ場所が悪い。ちょっとついてこい」
ドルガナに入って早々、やつらに会うとは何て運が悪いんだ。場所を変えるってどこに行くつもりなんだろう。
「わざわざ敵国にまで来て何をしようとしてたのかな」
「何って遊びに来ただけだよ。何かいけないことでもした」
「なぜ、ここに来た。お前の来るようなところじゃない」
「どうせ分かってるんだろ。だからすぐに会いに来れた。違う?」
「それなら話が早い。どうせ俺らが何者かなんてわかってるんだろうし、名乗る必要はないだろうから省略する。なぜ死ぬ覚悟もできないのに、DCIAの上層部を殺しに来たんだ」
「待って、殺そうとなんてしてない。それに死ぬ覚悟なんていらない。だって僕死なないし」
「どういうつもりだ、殺さないならなぜここに来た。観光だとかいうんじゃないだろうな」
「観光なんてどこに行けばいいんだ。名所があるなら教えてほしいくらいだよ。で、本当の目的は、ドルガナ中央情報局で仕事をしたいだけ。簡単に言えば、いや言わなくてもいいか」
「一つだけ言っておく、止めておけ。もし、カリストアのやつだって分かればすぐに殺されるぞ」
「大丈夫。その可能性は絶対にないから。だって、僕カリストア人じゃないから。もちろんレドニア人でもないけど」
「じゃあどこから来た。カケル、お前は一体何者なんだ」
「さあ、名前と誕生日、ドルガナ・レドニア・カリストア三国の民ではないことしか分からないから」
「まあいい。一つだけ手があるが、カケルがしんどくなるだけだ」
「おい、こんなやつをDCIAなんかに入れていいのか」
「入るかどうかはカケルの意志に任せる。それに、試験にはカケルなら耐えられるだろうし」
「好きなようにすれば。もう知らない」
「ということだ、ちょうど今から本部に帰るところだ。一緒に行くか」
「もちろん、ついて行きます!」