七話
しばらく歩くと地面に生えている草が少なくなり、土が見えるようになり、木が増えてきた。
森はもう目の前だ。
道中はやはり草玉しか出てこなかった。蹴りは止めて素手での戦闘にしたが、戦闘がそこまでなかったため特に変化はない。...手が若干痛いこと以外は。
ヒーリングも試してみたが、今の所戦闘中に使う事も出来なくはないという印象だ。詠唱が短い為使えるが、今後長い詠唱がある魔法は動きながら詠唱できるよう練習が必要だろう。
草玉は経験値もあまり貯まらず、本当に戦闘初体験の練習用と言った感じみたいだ。だが森に入ればまた違う魔物も出てくるはずだ。気を抜かずに行こう。
もう周りは木が生い茂り、薄暗くなっている。とはいえ見渡せないほど暗いわけではなく、視界は充分に保たれている。
木々の間隔も狭くはない為、派手に動かなければ戦闘はできるだろう。
とは言いつつ、やはり死角は多くなる分注意しなければならない。不意打ちなどされたら私だけでは立て直せないかもしれない。
警戒しながら、目だけじゃなく耳も澄ませて行動しよう。まだ初日ですもの、焦る必要はない。
それは別として食べ物は欲しいが。
まだ口に違和感が...。
ゆっくり警戒しながら進んでいると、前方から草を踏み締める音がする。
新しい魔物?取り敢えず近くの木に音のする反対側に回り、少し顔を出して様子を見る。
すると少し離れた木の陰から何かが出てきた。
大きく膨れ上がった鼻と尖った耳に、目の周りが大きく窪んでいてギョロっとしている。全体的に人間より細く骨に皮膚が纏わり付いているような感じだ。手足は大きく細い指先の先には鋭い爪が生えている。
「 (【鑑定】) 」
小さな声で技能を発動させる。
目の前にウィンドウが現れ結果を写し出す。
森ゴブリン Lv1
HP20 MP0
人型の魔物。繁殖力が高く、あらゆる場所に生息するが、能力は低い。森に棲む為肌が緑色。
説明は後で見るとして、魔物だ。ファンタジーの定番の魔物。
弱いと言ってもHPは私を上回り、手足の爪は見るからに凶器だ。実際に見て相手をするとなるとかなり緊張する。
草玉?あれは薬草が本体。
ゴブリンはフラフラと体を左右に揺らして移動している。
まだ自分の場所まで距離はあるが、こっちに向かってるのは確かだ。
息を潜めて様子を見る。見つかれば戦闘だろう。こちらにはまだ気付いていない...
ならば、不意打ち。
緊張で少し乱れた息を静かに整える。不意打ちをするなら正面は避けたいが、今更移動する余裕もない。一発決めたら間合いを取って移動速度や攻撃方法を知った方がいいかもしれない。次に会った時不意打ちできるかわからない。
足音はもう近い。考え込むのをやめ、拳を軽く握る。すぐ側に足音。...今!
「ッ!!」
木の陰から飛び出し、目の前のゴブリンに拳を叩き込む。拳はゴブリンの上斜めから窪んだ目の間に打ち込まれる。
ゴッという硬いものがぶつかる音とともにゴブリンは仰け反った。
殴った拳をすぐ体に引き戻しバックステップ。
ゴブリンは仰け反ったあと、こちらに向き直り目を血走らせて鳴きながら突っ込んできた。
「ギシィッ!!」
「っと!」
左右の爪を大きく振りかぶり引っ掻いてきた。大振りの一撃をもう一度バックステップで躱す。爪は振り下ろした勢いで地面を抉った。砕けた土が飛んでくるが無視。
頭が無防備。
両手を組んで脳天めがけて振り下ろす!
「ハッ!!」
「ギャイィ!?」
手応え十分。だがゴブリンのHPゲージは2割ほど残っている。地面に頭を突っ込んで倒れたゴブリンに追撃を仕掛ける。立っている状態からしゃがむ勢いでもう一度組んだ両手を振り下ろした。
ゴンッ!!
「ギッィアァ...」
くぐもった声を上げながらゴブリンは動かなくなった。HPゲージはもうない。
...勝利だ。頭部が若干へこんだゴブリンの体が消えていく。
「...なんとかなったわ」
短いが本格的な戦闘で緊張していた体から力が抜ける。思わず声も出るが、疲労よりも達成感が滲み出た声に思わず笑った。
「ドロップはなしと。ステータスはどうかしら?」
ウィンドウには少量のお金が入っていた。ゴブリンを倒して手に入れたらしい。そしてステータスを見ると変化があった。
今回のまとめ
不意打ち上等
ステータスは次回