8話目 犠牲
ーー魔術や剣の力により富と名声を得ることのできるこの世界。
しかし、大昔はそうではなかったそうな。
お互いに協力し合い助け合い、血の絶えない今とは大違いの温かい世界。
しかし約一千年前に現れた魔人の出現により、秩序は乱れ、狂ってしまった。
でも、もし戻ることができたのなら…。
「って私が考えてもどうにもならないんだけどさ…」
暇つぶしにしていた編み物を放り投げ、ベッドに横たわる。
するとサースティン家特有の光を帯びた銀髪が揺れ、目に入る。
私はこの髪が嫌いだ。
この髪を見た瞬間、頭を下げ、距離を置く者ばかり。
茶髪や金髪が多い中で、銀髪は珍しい。
何か遠ざけられてる様で、それが私にとっては苦痛でならない。
…それこそ、考えたってどうにもならないか…。
東の国ここロザベル王国の守護者として代々仕えてきたサースティン家、その第三女アーリア・サースティンそれが私の名前。
…そして私に課せられた使命でもある。
「私が…なんとかしなくちゃ…私が…」
その言葉を縛り付けるように何度も繰り返したあと、ゆっくり目を閉じた。
◻︎◼︎◻︎
朝、体を起こし、伸びをする。
外を見るとまもなく新王妃のお披露目パレードということで、いつも以上に活気に満ち溢れている。
本来ならば私も出席しなければならないけど、…今そんな暇はないわ。
着替えを済ましたあと、軽く朝食を食べ最終チェックをしたあと手配しておいた馬車に乗る。
出発はまだかな、と馬車の中で考えていると、何やら外が騒がしい。
耳をあてて聞いてみるとどうやら私のことで揉めているようだ。
ふぅとため息をつき、身だしなみを整え、外行きの表情を貼り付けると、ゆっくりとドアを開ける。
そしてありきたりな自己紹介をし、優雅にお辞儀をしてみせる。
あっさりと静まり返った現場に、内心呆れつつ唯一、この顔の利点だな、と改めて思う。
朝からなんか疲れたわ…
周りに気付かれないほど小さなため息を吐き、ゆっくり顔をあげ、ふと奥を見た瞬間、奇抜な髪の男の隣にいる黒い仮面が目に入り、思わず声が出そうになる。
あの男に似ているのだ。
私から何もかもを奪ったアイツに。
…いけないわ、体格も声音だって違うのに。
でもなぜか重ねてしまうのは、アイツの黒を纏っているからだろうか。
ーー少し頭痛が酷くなったような気がして、また、眠ることにしたーー
□■□
ーーあっけなくアスタリアまで着いた。
途中竜では流石に目立つので、森の中で降りたものの、そこでも何もなく無事到着。
…なんか拍子抜けだよな。
「…さて、俺はこれで任務完了となりますが…」
カードが淡く光り、完了の旨を伝えてくる。
「……そうだったわね」
…何かそう目に見えてしょんぼりされるとちょっと罪悪感があるような、ないような。
「でもまぁ、付き合いますよ。僕もちょっと気になることがありますし」
「ほ、ほんとに!?」
「えぇ」
一気に表情が明るくなり、後ろから花が見える。
そんな懐かれることしたかなぁ…
まぁ、護衛がいなくなると困るもんね。
完全なる俺の気まぐれだけど。
お嬢様は身分証を、俺は冒険者カードを提示しいざ中へ。
ロザベルの様な活気さはなかったものの、どちらかというと小綺麗で落ち着いた雰囲気だ。
お嬢様はフードを目深く被って、どこかソワソワとしている。
「で、お嬢様。どこに行くんです?」
「あそこ」
「わぁ…なかなか大事ですねぇ」
城か…。
お嬢様の示した方向を見ると、白く大きな建物がそびえ立っていた。
ただ事ではないと思ってたが、国も絡んでくるとは…。
そう考えているうちに、お嬢様は足早に城へと向かう。
俺もその後へ続いた。
□■□
日も暮れ始め、薄暗くなった頃。
俺とお嬢様はやたら広い廊下を歩かされていた。
「ここです」
引率をしていた魔術師と思わしき男が立ち止まり、大きな扉を示す。
「アーリア・ハルル・サースティン様がいらっしゃいました。」
「入れ」
その声と共に扉が開かれる。
緊張した面持ちで中に入るお嬢様。
俺もそれに続く。
廊下同様やたら豪華な内装だ。
赤い絨毯の先には玉座があり、そこには国王と思わしき煌びやかな服装の男が座っていた。見た感じ50代半ばって感じで、額から頬にかけて長い傷痕がある。
そして隣に、銀髪の女性が立っている。
どこかお嬢様に似ている気が…
お嬢様が跪いたので、俺も真似する。
「面をあげい」
「…はい」
「アーリアよ、お主例の物を持ってきたのだろうな」
「勿論よ」
特にお互い挨拶もなく、そう言った国王にお嬢様は軽く返事ローブの中から、ルービックキューブの様な、淡く光る物体を出す。
それを見た国王は不敵な笑みを浮かべる。
「…その男、お主の護衛か?」
「ええ」
「ふっ…まぁ良い、早くこちらへ渡せい」
「…先ずはお母様が先の約束よ」
ちっと舌打ちを打つと、国王は近くにいた騎士に指示をする。
なんか似てると思ったら、お嬢様の母君だとは…。
「アーリア!!」
「お母様!!!」
「さぁ、これでいいだろう」
雰囲気をぶち壊す冷たい声で告げる国王、あんた絶対友達いないな、俺もだよ。
「ええ、渡すわ…」
「アーリア…」
「仮面の…あなた、名前聞いてなかったわね」
「ウルって呼んでもらえばいいです」
「そう、ウル。母様は任せたわよ」
優しくそう微笑んだ後、お嬢様は国王の元へと行きキューブを渡したと思った瞬間。
ー耳を劈く音と共に、爆風が辺りを包んだ。
ちょっと話が進展してきたかな〜
追記5/15 間違えてた部分を修正しました。