6羽目 ギルド
「あ〜だるっ…」
ブツブツと小言を呟きながら、闇魔法で汚れて消滅していく。
地面を赤く染めていた血は段々と消え失せ、そこにあった無残な光景は綺麗に洗われた。
ついでに、マントと仮面に着いた返り血も消しておく。
「さて、一体なんでこうなったんだっけ…?」
〜遡ること2時間前
「ここか…」
気前の良いおばさんに場所を聞き、宿から少し離れた場所に冒険者ギルドを見つけた。レオのカードに書かれていた名前と同じ«サンベリオ »という看板が掲げられている。
浅く深呼吸をして、木製の扉を開く。
その瞬間、
きついアルコールの臭いと、むさくるしい男達の怒声やらなんやらで、いかにもといった空間が広がる。
「うわぁ…」
思わず声を漏らすと、さっと辺りを見渡し唯一女性と思われる受付嬢の元へと向う。
何か見られてるが、まぁ気にしないでおこう。…仮面が原因だろうし。
「あの、すみません…冒険者登録したいんですが…」
「あ…新規の方ですね。では、この紙にご記入をお願いします」
そう言って渡されたのは紙と羽ペン。
さっと適当に書くと、受付嬢に渡す。まぁ種族は人間ってことにしてあるけどね。
てかよく見たらこの人、猫の獣人か…初めて見た。
それにしてもなんか無愛想な…折角可愛いんだから笑えばいいのに。
「…あの…ギルドについて説明はいりますか?」
「あ、すみません。お願いします」
「…まずギルドには、冒険者一人一人にランクが付けられ、S〜Eランク、この6つのランクがございます。それに伴い、依頼一つ一つにもランクが付けられております。といっても、ランクが低いから高いランクの依頼を受けられない、などはなく、自己責任で全ての依頼を受けることができます。討伐依頼で出た余った毛皮なども、こちらで売却できますので、ご利用の際はまたお声をおかけくださいませ。最後に、」
何か手渡されたと思うと、赤銅色のカードだった。
俺がさっき書いた名前やらが載ってある。これってレオのと同じやつだよな?色違うけど。
「それは冒険者証明カードですので、紛失のないようにお願い致します。以上で簡単な説明は終わります、また分からないことがあればお聞きくださいませ」
マニュアルを読んでいるかのように淡々と話し、また無表情になる受付嬢さん。硬いなぁ~…。
礼を言ってから、掲示板の方へと向う。
受付の近くに掲示板はあった。
ちょうど誰も見ていないみたいで、周りには誰もいない。
S~Eまでのランクが書かれた数十枚の紙がぎっしりと貼られてあった。
S、はいきなり無理だし、無難にCランクの依頼にしようかな。俺だってちょっとは強いはずだし…。
「ん、これでいいや」
〝C,護衛依頼〟と書かれた一枚の紙を破り取る
それを受付まで持っていき、承認してもらう。
「承認しました。詳しい説明はカードに転送されますので」
「はい、ありがとうございました」
ほぅ、あのカードにそんな特典があるのか。
でも何も変わった様子がないので、軽くカードに触れてみる
すると、ぶんっと音がし、半透明のディスプレイが目の前に現れた。
驚きながら、色んな項目の中からクエストの欄をタップする
《進行中:護衛依頼:達成条件 サースティン家の第三女を無事にアスタリア王国まで送り届ける》
と、書かれてあった。
…ていうか俺土地勘ないのにコレにして良かったのか…。
でも何人か募集してるから俺だけじゃないだろうし、色々見て回りたいからさ。いや、別にお嬢様を見たかったとかじゃないよ?そうだけど。
依頼は明日だし、明日に備えて今日は休むか。
ー明朝
手袋をはめ、仮面をつける。
腰には黒刀をさし、どこを見ても黒づくめの怪しい奴にしかみえない。
でもまぁこれが俺のスタイルだし。自然と黒が集まったんだからしゃーない。
まだそんなに人はいないと思っていたけど、外に出てみると案外いろんな人が行き交いしていた。
ふむ、確か新しい王妃さまのパレードとか言ってたっけな。
あのポニーテールの子が。
「といっても俺には関係ないか…えーと…噴水の広間に行けばいいんだっけ」
カードを取りだし、再確認する。こういうの本当便利だわ、俺忘れやすくってさ。
そしてなんと驚くことにこのカードはナビもしてくれる。さすがに未開の地とかはダメらしいが。
ブンっと現れた半透明のディスプレイをみながら、目的地へと歩く。
30分くらいあるくと、豪勢な馬車と鎧を着た屈強な男達が見えてきた。
先頭の周りより明らかに体格の良い男が、何かイライラとした様子で腕を組んでいる。その男は槍を持っているところからして、俺と同じ依頼を受けた冒険者か、この家の騎士ってとこだな。
見た感じ後者っぽいが。
俺は後ろから近づいて行き、その男の肩を叩く。
「うお!?い、いつの間に!?」
ナイスリアクションです。
「あ、護衛依頼できました。冒険者です」
「ぬ!?冒険者か!!お主遅いぞ!!アーリア様がいらっしゃる前にこんか!!」
「え、あ、すみません」
「ちっ!なんだ!もう一人のやつもまだ来とらんのか!!一体どうなっとるんだ!!
これだから冒険者は…私達だけで充分なのに、
…旦那様も過保護なお方だ」
もう一人ってことは俺以外にまだ来てないやつがいるのか。
ブツブツと小言をいう大男…まぁおっさんでいいや。
そのおっさんをジトっと見てるやつらがいるから、そいつらが俺と同じ冒険者っぽいな。んで周りできちっと構えてんのがおっさんの仲間だろう。
「え、ちょみんな早くないっすか?wまだ時間の五分前ですよ〜」
「ぬ!!お主が最後の一人か!!時間の30分前にくるのが常識だろう!!たわけ!!」
「え〜〜」
何事かと様子を伺えば、視界に入った橙の髪に驚く。
「あ、レオさん…」
「およ!?黒塗りくん!!ギルド入ったんだな!!」
「黒塗りじゃなくて、ウルです」
「あーあーウルね!ごめんごめん!」
こっちを睨むおっさんにお構いなく喋るレオ。
その根気、見直した。
「はぁ〜…もういい、全員揃ったのなら早く出発するぞ。アーリア様を一刻も早く、アスタリアまでお届けせねばならん」
呆れた様子で俯くおっさん、そうだ。レオに何言っても無駄だと思うぞ。
「なぁなぁおっさん、そのアーリア様っての見せてくんないの?俺たちにもやる気ってもんがあるし〜」
「なんだと!?お前の様な下劣な者にアーリア様を…!」
「いえ、私も(わたくし)、ちょうど挨拶をしたいと思っていたところでしたの」
そして豪勢な馬車から長い銀の髪の美しい少女が現れた。
その人形の様な整った顔立ちと、美しいサファイアと同系色の瞳は見るもの引き込むような光を携えている。
レオも驚いた表情で、現れた少女に見入っている。
まぁ、母さんやリィアも可愛いの部類に入るだろうし俺はもう見慣れてんだけど。
「お初にお目にかかります。私、サースティン家第三女アーリア・サースティンと申します。
長い旅路ですが、よろしくお願い致します。」
優雅にお辞儀をするアーリア、そしてレオの頬がほんのりと赤みを帯びていたということは言うまでもない。