5羽目 出逢い
でも案外気付かれないものなんだな〜…。
人混みをわけながら奥へと進む。町の中はやけに白く、いかにも西洋、な感じだ。
元日本人な俺にとっちゃ、ちょっと目に痛いがね。
しかし…やけに人が多いな…なんか活気付いてるっていうか…。
「おい!そこの変な仮面の兄ーちゃん!その剣イイね!ちょっと触らせてくんない?」
「え?」
「結構な値のもんっしょ?ねねね、触らせてもらうだけでいいからさ?」
「…別にいいですけど…」
耳にピアスを付け、橙の髪といういかにもちゃらそーな男に、腰に差していた剣を渡す。
この剣は母に貰ったもので、値段は分からないがしっくりくる良い剣だ。
「へへへ!ゴメンな兄ーちゃん!あばよ!!」
剣を手にした瞬間、ギザなポーズとともに男は路地裏に走りだす。
ポカーンとした後気付く、
「あ…泥棒?」
□■□
「あんた災難だねぇ、あの坊主にスられるとはなぁ」
見ていたのか、がたいの良い年配の男に話しかけられる。
「今追ったところで間に合わんだろうよ。アイツ、脚だけははえーんだわ」
「……そうですか?まだ追いつけると思うんですけど…」
「ははは、まぁ頑張れよ」
背中をぽんっと叩かれ、思わずこけそうになる。後ろを振り返ると、さっきの男はもう消えていた。
頭をかきながら向き直り、う〜んと顎に手をやる。
あのオレンジ髪の男の気配ならまだ探れるし、それほど速くないような…。
ま、剣は返してもらわないと困るし、行くか。
邪魔になったらダメだし、少し魔力を解放して自分が周りに認識されないようにする。
俺が独自に開発した魔法スキル、まぁ似たような魔法はあるかもだけどね。
結構使い勝手がよくて好きな魔法だ。
大きな物音を立てたりしたらだめなんだけどね。
魔法がかかったのを確認し、壁を蹴る。
宙に舞いあがると、そのまま屋根に上りあの男の気配がする方向へと向う。
「さてと…めんどくさいことになってなかったらいいけど」
□■□
「ふふふ〜ん♪イイ品物手に入ったわ〜♪やっぱ俺の目に狂いはないね」
さっき盗ったばかりの品を撫でながら気分良く鼻歌を歌う。
「しかもコレ、刀ってやつじゃね?ラッキー♪あんなひょろっちいのには似合わねぇわ」
高々と刀を持ち上げ、おぉ神よ。と仰いでみせる。
刀というのはとても希少で、ニーチアという都でしか作られていないという代物だ。
しかもニーチアは東に位置するという情報しかなく、今も謎に包まれている。
「一体どっから入手したのかね…ま、これが本物なら、だけど…!!?」
突如どこからか刺すような魔力を感じ、咄嗟に後ろに後ずさる。
気配を探ると、塀の上から魔力を感じ取れた。暗がりでよく見えない。
しかしその人物が俺の持っている刀を見ていることは分かった。
あまりの冷たい魔力に冷や汗がでる。
生唾を飲み込み、奴の次の動作を待つ。
相変わらず塀に座ったままだ。
動いた、と思った瞬間。
身震いするほどの冷たい魔力が、一気に平凡な、どこにでもいそうな質のものへと変わった。
「ふぅ…まだ売ってなかったんですね。なら良かったです」
「お、お前…さっきのひょろっちいの…」
「ひょろっちいとは失礼ですね。ちゃんと鍛えてるんですよ」
ふんっと腕を曲げる、そのどこか子供っぽい仕草は愛らしく思えるが、さっきのことがあるから笑えない。
「お前一体何者だよ…」
「べ、別に怪しい者じゃないですよ!?」
あからさまに否定するから余計怪しい。
しかも仮面もつけてるってことは何か訳アリなのか、はたまた自分の顔に自信がないのか…。
仮面ってのは実力主義のこの世界で、弱者が付けるものとして知られているから、付けてるやつなんてあまり見たことがない。
「お前…この刀を取り戻しに来たんだよな…?」
「あ、はい。それ、母に貰ったものなので」
足には自信があったんだが…こうも簡単に追いつかれるとはな
気になるなぁ…一体コイツは何者なんだ…。
うん、なんか面白そーじゃん。
□■□
「あー…なんか一日濃かった…疲れた」
ぼふっと柔らいベッドにダイブする。
あの後、刀を返して貰ってなんか仲良くなり、いい宿泊先も教えて貰った。
「レオさん…ね」
あの橙の髪の男に貰った名刺の様なものを眺める。
そこにはギルド名と名前、ランクが書いてあった。
「ギルドとかあるのかよ…マジで小説やなんやらと一緒じゃんか…」
ていうか気を付けないとな…あの男察しがいいみたいだし。
バレたら面倒なことになる……。
「うし!飯食いに行かなきゃな!」
ばしっと気をただし、一階に下りる。
上は宿泊施設、下は食堂となっているようだ。
「あ、ウルさん!食べていきますか?」
人懐っこい笑みを浮かべて、麻色の髪をポニーテールにした愛らしい少女。
この店の旦那の娘で、よく店の手伝いをしてくれているらしい。
なぜか俺によく喋りかけてくる。やっぱ仮面が気になるのか?
「はい、お勧めお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あ、分かりました!このモウっていう魔獣のステーキがお勧めです!」
「え、魔獣食べるんですか?」
「…?そうですよ?当たり前じゃないですか?あ、もしかしてウルさんの国では食べないんですか!?やめときます!?」
「あ、いえ。折角なのでいただきます」
しかし…この子よく喋るなぁ…。
でも魔獣も食べるのか、天羽族は基本野菜が主流だから知らなかった。
魔獣は魔石を体内に持ち、魔力を持った獣。それ以外は普通の獣と分けられる。
ちなみにオードルは普通の獣だ。
「お待たせしました〜!」
アツアツの鉄板に分厚い肉が乗せられたステーキが出される。
礼を言い、いただきます、といってから食べる。
仮面があるので、少し仮面を持ち上げてから隙間に肉を運ぶ。
フォークを刺すと柔らかく吸い込まれ、溢れんばかりの肉汁が滴り落ちる。
頬張ると肉の旨みが口全体に広がり、癖になる味だ。
うん、美味しい。
なんだ、普通に食べれんだな〜…。
全て食べ終わり、ごちそうさま、と手を合わせると食器を台におき、部屋へと戻る。
この宿のいいところは、風呂も一室一室備わっていることだ。
いちいち探すのめんどくさかったし、レオに感謝だな。
ふぅ…とため息をつき、服を脱ぎ捨てる。
金も稼がなきゃいけないし…明日、ギルド行ってみようかな。
ちょこちょこ編集しました