4羽目 街へ
ーチュンチュンチュン
オードルという、まぁ前世で言えば雀とよく似た鳥が窓のふちにとまり物欲しげに囀る(さえず)。
朝食ようにと置いていたパンを千切り手のひらに乗せ、小鳥の前へと持っていってやる。
すると警戒することもなく、美味しいそうに手のひらの上で食べ始める。
そのまま腕を動かし、そっと小鳥をテーブルの上へと移動させる。
気にする様子もなく一心不乱に食べ続ける小鳥を見て、ふっと笑みをこぼすと、じゃあな、と声をかけてやる。
荷物は闇でつくった異空間に投げ捨ているから手ぶらでオッケー
よし、と気合いを入れてドアを開ける。
…いや、開けようとした。
「兄様?…こんな朝早くにどこへお出かけに…?」
「リ…リィア」
今会ってはいけないであろう人物に、遭遇しさえしなければ、ね。
□■□
「そんなっ!私に黙ってなんでストーリーが進展していますの!?」
「影が薄いからだよ」
「お婆様!!」
うわぁ…と思わず声が漏れる。
このまま厄介なことにならないですむんじゃないか、と思っていたのにこのタイミングで…。
我が妹ながら恐るべし。
「兄様が旅立たれるのなら私もついて行きます!!」
「リィア、それは駄目だ」
「兄様まで!!」
両頬に手をあててムンクさながらのリアクションをとるリィア。
そのリィアの手をそっと掴み、苦しげな笑みを浮かべる。もちのろん、演技。
「可愛いリィアに怪我でもさせたら……俺、どうなるか分からない…」
「に、兄様っ…!」
ーー今だ!
頭の中で鳴り響いたでスターターピストルと共に、全速力で母さん達の方へ走る。
「あ!ちょっとウル!…」
「ウル!これを持っていきな!」
母さんの声を遮り、祖母から何か楕円形の物を投げられる。
上手く受け取り、取り敢えず手に持っておく。
そのまま勢いに任せ、母さんの隣にそびえ立つ大きな扉の中へと…
何か母さんが叫んだようだが、気にせず足を踏み入れーーー
後悔した。
□■□
「…はぁ〜…何かでっかい木があってよかった…」
枝に服が引っかかったまま安堵の溜息をつく、いや、まだ安心する場面じゃないんだけども…まぁ取り敢えずは助かった。
慎重に顔を上げ、既に見えなくなっている島に身震いをする。
…正直言って、俺は高所恐怖症だ
いや、それどうなんだよって話なんだけどな。
恐る恐る枝から体を浮かし、バサッと動く黒い翼を睨む。
この羽止まったら落ちるよな…あぁ…目眩が…。
「ダメだ!取り敢えずは街に行くんだっ!」
意識を集中させ、魔力が固まっている場所を探す。
すると大きな固まりが東の方に現れた。
結構遠いが、まぁ問題ないだろう。
□■□
「ついた〜…あれ?案外つかれなかったな」
500kmはあったはずだけどそんなに疲れなかった。
時間も多分2時間いくかいかないかぐらいじゃないか?飛ばしすぎた?
う〜ん…ま、殆ど風に吹かれてただけだし…スタミナだけは多いのかもね。
離れた場所に下りたので少し歩き、門の手前で立ち止まる。
おそらくここは王都だ、東の〝ロザベル〟という国だろう。
あの門に掘られたユニコーンの紋章、まぁ間違いないだろう、本で見た。
「さてと…」
異空間から祖母に渡された円盤のような木の板と通行証を取る。
ていうかこれって…
「仮面…?あ、手紙もある」
口は無く、目が三日月を下向きにした様な感じにしてある。色は黒と白の仮面でなにかうねうねしてて変わったデザインだがなんか気に入った。
手紙を開いてみると、
〝お前は何かと目立つだろうから、顔ぐらいは隠していた方が良いだろう。
珍しい仮面だ、付けておきなさい。〟
と、いかにも祖母らしい角ばった文字で書かれた手紙を見て苦笑する。
言われた通り仮面を付けてみると、不思議と視界は狭まらず、不快感もしなかった。
「…でも俺そんな目立たない思うけどな…。ま、いっか、かっこいいし」
通行証を持って門の前へと向かう。
驚くほど呆気なく通れた。
門をくぐり、顔を上げると騒がしい声が聞こえてくる。
宝石をねだる婦人や、高値で売ろうとする商人、子供達が追いかけっこをして遊んでいる。
「うわぁ…」
前世でよくやった、ゲームの風景をそのまま切り取ったような絵が、画面越しではなく実際に肌で感じられる。
…そうだ、これはゲームじゃないんだ。
コンテニューは効かない、ゲームオーバーになればそこで終わり。
思わず笑みがこぼれる
け自分が実際にこうなるとは思わなかった。
小説やゲームの中でしか見なかった世界、この世界でなら自分もマシになれるかも知れないと思っていた。
今まであまり感じなかったけど、そうだ。
俺は生まれ変わったんだ。